第267話 くじの明暗
「では、“カタコンベ”
先輩は今日のランチである白身魚のポワレを口に含みながら、そう告げると。
「「異議あり!」」
「むむ!?」」
立花とプラーミャが、同時に物申した。
「ど、どうしてだ? これまでの編成を考えれば、それが妥当だろう?」
「そ、それはそうですけど! 今度こそボクだって望月くんとチームを組みたい!」
「
あー……朝の教室でもそんなこと言ってたもんなー……。
「ふふ、いいじゃないですか。今回のメイザース学園との一件を考えても、メンバーを入れ替えても連携を取れるようにしておくことは大事ですよ?」
「ホホ……たしかにその通りじゃの。特にわらわは、誰とも組んではおらぬゆえ……」
無表情で立花達に同意した氷室先輩と、ウンウンと頷く土御門さん。
だけど土御門さん、なんで扇の向こうからチラチラと俺を見てるんですかね?
「ワ、ワタクシはチームの入れ替えには反対ですワ!」
テーブルをバン、と叩きながら立ち上がったサンドラは、猛烈に抗議した。
まあ、そうなるよな。
「ウーン……俺は、その……た、立花と一緒だったら別にどっちでも……」
そう言いながら立花を見やる加隈に、顔をしかめる立花。だよな。
「むむむむむ……な、なら望月くんはどうなんだ?」
先輩がキッ、と俺に鋭い視線を向けながら尋ねる。
その真紅の瞳は、『分かっているよな?』と言外に告げているかのようだった。
だけど。
「「「「「「…………………………」」」」」」
あ、みんなも俺をジッと見てる。
これ……下手に答えると後で悲惨な目に遭うヤツだ。
俺は答えに窮していると、氷室先輩が、ス、と手を挙げた。
「でしたらチーム編成に関しては、この際くじで決めるというのはどうですか?」
「「「「「「「くじ!?」」」」」」」
俺達は一斉に声を上げる。
「ひ、氷室くん! くじとはどういうことなんだ!? い、いや、そもそもチームを入れ替えるとまだ決まったわけでは……!」
「会長……いえ、桐崎さん。さすがに賛成が多い状況で、あなたの我を通すことはできません。ですので、せめて公平にということで、くじを提案したまでです。これなら、
「むむむむむ……!」
氷室先輩にビシッと告げられ、思わず黙ってしまった先輩。
だけどコレ、完全に言い含められてるじゃん……。
「ワ、ワタクシは騙されませんわヨ! くじってことは、一緒のチームになれない可能性が高いじゃないですノ!」
そう言うと、サンドラはビシッ! と氷室先輩に人差し指を突き立てた。
おお……さすがにサンドラは引っかからなかったか。
「何を言ってるんですか。確率は二分の一もあるんですよ? そうそう外れたりすることはないですから」
「ア、そ、それなラ……」
無表情で淡々と告げる氷室先輩の言葉にまんまと引っかかるサンドラ。
いや、俺もお前も同じチームって考えると、確率はもっと下がるからな!?
「ふふ、ではこれで異論はないですね? では、くじは私が用意しますので少々お待ちください」
そう言って席を立って食堂のカウンターに行ったかと思うと、氷室先輩はすぐ戻ってきた。
「ええと……それは、割り箸?」
「はい、八本いただいてきました。これに……」
割り箸を袋から取り出し、四本だけその先端を赤のマジックで塗った。
「これで、印のあるチームとないチームで分けるわけです」
「は、はあ……」
そんな氷室先輩の説明に、俺は気の抜けた返事をする……って!?
「そ、そのくじですけど、俺が持ちますからね!」
俺は慌てて氷室先輩から割り箸をひったくる。
というのも、俺が返事をした瞬間、氷室先輩の口元がほんの少しだけ持ち上がったのだ。
つまり……氷室先輩は絶対にやらかす気だ。
「まあ、いいでしょう…………………………(チッ)」
いや、今舌打ちしたでしょ!
「コホン……ということで、これは俺が先を隠しながら持つので、みんなは順番に……って、おわっ!?」
そう告げると、みんなが我先にと一斉に割り箸を引いていった。
「ええと……残る一本は、と……お、『印なし』だな」
俺は割り箸の先をこれ見よがしに、みんなに見せると。
「ど、どういうことなんだ!」
「こんなノ……おかしいですワ……!」
先輩とサンドラが再び勢いよく席を立ち、ワナワナと震える。
あ、ひょっとして……。
「ふふ……まあ、当然ですね」
かたや、氷室先輩は余裕の表情。このくじで、大分明暗を分けたな。
「ああー……外れたあ……」
「ほ、本当か立花!」
落ち込んで肩を落とす立花とは対照的に、満面の笑みを浮かべる加隈。
だけど加隈、そんな態度を見せたら、ますます立花に嫌われるんじゃ……。
そして。
「フン……
「ホ、どうやらそういうことかの」
プラーミャと土御門さんは、揃って『印なし』の割り箸をテーブルに置いた。
ということで、『印あり』のチームは先輩、サンドラ、立花、加隈になり、『印なし』は氷室先輩、プラーミャ、土御門さん、そして俺となった。
「そ、そんな……」
「こんなのっテ……こんなのっテ……!」
先輩とサンドラの二人が悔しそうに
「くじで決まったものは仕方ありませんから、二人共、甘んじて受け入れてください」
そんな二人に追い打ちをかけるように、氷室先輩が冷たく言い放った。
「ホホ、それよりも、早く食べてしまわぬと昼休みが終わってしまうえ?」
「そ、そうだね……」
どこか嬉しそうな土御門さんの言葉を受け、俺達はそそくさとランチを食べる。
だけど。
「あー……ちょっとこの結果は、予想外だったなあ……」
俺はそう呟くと、目の前のパンを無理やり口の中に押し込んだ。
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