第252話 つかんだ勝利

「ハアッ……バケモノ? 失礼ネ……ヤーは“プラーミャ=レイフテンベルクスカヤ”。ただの・・・貴族ヨ」


 肩で息をし、身体中を傷だらけにしながらその両脚で踏みしめるプラーミャは、力強くそう言い放った。


『ホホ……ノウ? オ主ノ言ウ貴族・・トハ、ドノヨウナモノナノジャ……?』


 土御門さんは震える声でプラーミャに尋ねる。

 まるで、すがるように……まるで、追い求めるように。


「……フン、決まってるワ。貴族は、生きざま・・・・ヨ」

『生キザマ……』


 プラーミャの言葉を、土御門さんが反芻はんすうした。


「そうヨ。貴族はネ……その生きざまで、自身を……その名を輝かせるの。家名・・なんて、その自身を輝かせてきたでしかないのヨ」

『ッ!?』


 その言葉に、土御門さんが息を飲む。


「ハッキリと言ってあげル。アナタのしていることは、ただ落ちぶれた何の意味もない家名にすがって、不幸な自分に自己陶酔してるだケ。だかラ、アナタは貴族として薄っぺらいのヨ」


 清々しいくらいにハッキリと言い切ったプラーミャ。

 だけど、そのプラーミャの言葉が、その姿が、この俺の魂を震わせた。


「フフ……ヨーヘイ、ワタクシの妹って、カッコイイでショ?」

「サンドラ……」


 いつの間にか隣に来ていたサンドラが、微笑みながら俺の顔を覗き込む。


「ふふ……あの姿、まさに貴族・・、だな……」


 どうやら無事に“ウルズの泥水”の吸収を終えた先輩も隣に来て、そう呟いた。


「はは……本当に、俺達の仲間はカッコイイな……!」


 何だよ……こんなの、『まとめサイト』に書いてあった、土御門さんを闇堕ちから救う方法なんかよりも、よっぽどスゲエじゃねーかよ!


『ホ……ホホ……ワラワノ今マデハ、一体……』


 土御門さんは漆黒の瞳から一滴ひとしずくの涙をこぼし、力なく膝から崩れ落ちる。


「フン、知らないわヨ。タダ……このままじゃアナタもモヤモヤしたままだろうかラ、キッチリと終わらせてあげるわヨ」

『…………………………エ?』


 そう言ってニヤリ、と口の端を持ち上げるプラーミャを、土御門さんは呆けた表情で見上げた。


「フフ……一から出直すのネ。別に、今から始めても・・・・・・・遅いなんてことはないんだかラ……だかラ」


 [スヴァローグ]はハルバードを構え、たたずむ[導摩法師]の頭上へと飛び上がると。


「これまでの下らないしがらみモ! アナタの間違った想いモ! このヤーが全部断ち切ってあげル! 【絨毯じゅうたん爆撃】!」


 [スヴァローグ]の手に持つハルバードが残像となって無数に展開し、一斉に[導摩法師]へと放たれた。


「『アアアアアアアアアアアアアッッッ!?』」


 土御門さんと[導摩法師]は、悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。

 い、いや、土御門さんもう戦意喪失してたじゃん!?


「プ、プラーミャ、その……やり過ぎ……「ナニ、ヨーヘイ」……い、いえ、何でもないです……」


 おずおずと声を掛けるが、プラーミャにギロリ、と睨まれてそのまま引き下がる俺。


「フン! 大体、こうでもしないと彼女も納得できないじゃないノ!」


 そう言って、プラーミャは倒れる土御門さんを一瞥いちべつした。

 ま、まあ、プラーミャの言う通りかもしれないな……。


「ホラ、意識はあるんでショ?」

『ウ……ウウ……』


 うめき声を上げながら、土御門さんはゆっくりと顔を動かす。


『ホ……ナ、何トモ容赦ナイ、ノウ……』

「何言ってるノ。ちゃんと手加減してあげたわヨ」


 プラーミャが軽く息を吐き、フ、と表情を緩めた。


『ジャガ……オ主ノ言ウ通リジャ……ワラワハ、『土御門家』ノ再興トイウ一族ノ悲願ヲ果タソウト焦ルアマリ、何モ見エテナカッタノジャナ……』

「アラ? 気づいて良かったじゃなイ。そうじゃなかったらアナタ、あんな女に成り下がっていたわヨ?」


 そう言うと、プラーミャは【式神】に踏まれ続けて気を失った近衛スミを指差す。


『ア、アレハサスガニ、ワラワモ嫌ジャノウ……』

「でショ?」

『ホ、ホホ……ホホホホホホホホホホ!』


 肩をすくめておどけるプラーミャを見ながら、土御門さんはぽろぽろと涙をこぼしながら、大声で笑った。

 憑き物が落ちたかのような、清々しい表情を浮かべながら。


 そして……その漆黒の瞳も、いつしか綺麗なアメジストの瞳に戻っていた。


「ハア……これで、交流会イベをはじめとしたメイザース学園関連のイベを、全部叩き潰せた、かあ……」

「も、望月くん!?」

「ヨーヘイ!?」


 俺はそう呟くと、急に力が抜けてへたり込んでしまった。


「全く……君はいつもいつも、頑張りすぎるのだ……」

「本当ですワ……チョットは自分のことも、大切にしてくださいまシ……」

「あははー……」


 先輩とサンドラにたしなめられ、俺は思わず苦笑する。


 でも……これで俺は、ただ『ユグドラシル計画』だけに集中……いや、まだ問題が色々あったな。


 クソ女……木崎セシルが、どうして俺達の情報を知っているのか。

 他にも、伊藤アスカを操って俺にけしかけた奴の存在。


 ハア……なんでゲーム本編よりもややこしいことになってるんだよ……。


 俺はそんなことを考え、つい頭を抱えそうになる。


 だけど。


「望月くん……」

「ヨーヘイ……」


 心配そうに見つめる二人を見て、俺はその手を引っ込めた。


 そうだな……今日のところは、これでよしとしよう。

 そして、今はみんなに感謝しながら、喜びを分かち合おう。


 ――この、俺達全員で・・・・・つかんだ勝利を・・・・・・・

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