第251話 貴族の矜持

「だかラ、ヤーは示すノ! ヤーのこの姿デ!」


 酔ってフラフラの身体を奮い立たせ、力強く廊下を踏みしめると、ハルバードの切っ先を[導摩法師]へと向けてプラーミャが叫んだ。


『ホホ……! ソノ無様ナ姿デヨク言ウノウ……!』

「ウルサイワネ!」


 カラカラとわらう土御門さんに、プラーミャはバツの悪そうな表情で悪態を吐いた。

 だけど実際のところ、あんな酩酊めいてい状態で戦い続けるのは危ないだろ。


 ハア……全く。


「立花! 今すぐ[女媧]の【渾敦こんとん】で、プラーミャの状態異常を取り除いてくれ!」

「望月くん? ……分かったよ!」


 俺の指示を聞いて一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、プラーミャの様子に気づいた立花は、即座に【渾敦こんとん】を呼び出してプラーミャの酩酊めいてい状態を回復した。


「フフ……ヨーヘイもアオイも、余計なことヲ……」


 そんな悪態吐いてるけど、お前、口元が緩んでるぞ?


「サア……行くわヨ!」

『ッ! 【酒呑童子】! 【温羅】!』


 さっきと同じように、[スヴァローグ]が一気に突撃する……って、それじゃさっきと同じじゃねーか! また同じ目に遭うだろ!


『ホホホホホ! オ主ノ言ウ貴族トヤラハ、馬鹿ミタイニ繰リ返スコトナノカエ?』

「フフ、それはどうかしラ? 【ヴァルカン】!」


 [スヴァローグ]の周囲を囲むように火柱がそびえ立ち、一気に温度が上昇する。


『ッ! 【酒呑童子】! 先程ト同ジ目ニ遭ワセテヤルノジャ!』


 土御門さんの指示を受けた【酒呑童子】は、口に含んだ酒を霧状に吹き付ける。


 だけど。


 ――ジュッ。


 霧状の酒は、【ヴァルカン】の熱で蒸発してしまった。


「フフ……何かしタ?」

『ッ!?』


 ニタア、と口の端を吊り上げたプラーミャは、[スヴァローグ]のハルバードで【酒呑童子】の胴体を真っ二つにした。


『ククッ! 【温羅】!』


 今度はもう一体の鬼、【温羅】がその口を大きく開くと。


『アアアアア「ウルサイ」……ッ!?』


 耳をつんざくような絶叫を始めたかと思った瞬間、首を真横に刈られ、ごろん、と廊下に転がった。


「フン」


 ハルバードを廊下に叩きつけ、腰に手を当てながらプラーミャが鼻を鳴らす。

 はは……プラーミャの奴、やっぱりつええ……!


『クソッ! ナラバ!』


 すると、[導摩法師]が大量の人形ひとがたの紙を放り投げ、まるで紙吹雪のように舞った。


 そして、それらを全て【式神】へと変えると、俺達と戦っている【式神】を含め、一斉にプラーミャへと結集させる。


『ホホホホホホホホ! コレダケノ数ノ【式神】ヲ相手ニシテ、ソレデモナオソンナ態度デイラレルカノ!』

「クソッ! プラーミャ、今行く……「来るナ!」」


 助太刀しようと一歩前に足を踏み込んだ瞬間、プラーミャに拒否されてしまう。


「なんでだよ! さすがにこの数、お前一人じゃ……「ソレが余計だって言ってるのヨ!」」


 なおも食い下がる俺に、プラーミャは言葉を遮ってなおも拒絶した。


「コレはヤーの戦いヨ! ヨーヘイでモ……たとえサンドラであってモ、ヤーの戦いを汚さないデ!」

「プラーミャ……」


 圧倒的な【式神】を前にしながら、プラーミャはその琥珀色の瞳に強烈な意思を込めて、ただ不敵に笑う。

 そんなプラーミャの姿に、その背中に、俺は気高さと誇りを感じた。


 はは……これがお前の言ってた、貴族の矜持・・・・・ってヤツかよ……!

 でも、これくらいなら許してくれるよな?


「プラーミャ! そんな紙切れ共、全部燃やし尽くしちまえ!」


 俺は大声で叫んでプラーミャを激励する。


「フフ……確かにサンドラの言う通り、ヨーヘイって大バカよネ」

「ウルセー!」


 クスクスと笑いながらそんなことを言ったプラーミャに、俺も笑顔で抗議した。


 そして。


「サア……蹴散らしてしまいなさイ! [スヴァローグ]!」

『(コクリ!)』


 プラーミャの言葉に強く頷くと、[スヴァローグ]はハルバードを豪快に振り回し、一薙ぎで一気に五体の【式神】をほふる。


「アアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 そのままプラーミャが雄叫びを上げながら、次々と【式神】を斬り裂き、燃やし、蹂躙して行く。


 ――ドカッ!


「クッ!? コノオオオオオオオオオオオオ!」


 それでも多勢に無勢。【式神】の攻撃は徐々に[スヴァローグ]へと届き始め、プラーミャが傷ついていく。

 そんなアイツから、俺は片時も目を離さなかった……いや、離せなかった。


 あの、プラーミャ=レイフテンベルクスカヤっていう、強烈に燃え輝く高貴な光から。


 そんなプラーミャと【式神】との一進一退の攻防がしばらく続き、そして。


「ハアッ……ハアッ……!」


 残り数体を残し、【式神】は全て焼かれ、燃え尽きてしまった。


『ホ……ホホ……オ主、バケモノカ……!?』


 そのあまりの凄まじさに、闇堕ちした土御門さんも驚愕の表情を浮かべて思わずうなる。


「ハアッ……バケモノ? 失礼ネ……ヤーは“プラーミャ=レイフテンベルクスカヤ”。ただの・・・貴族ヨ」

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