第250話 プラーミャの姿

『はうはう! まとめてやっつけてやるのです! 【雷】!』


 先輩を眺めながら頬をほんのり赤くしている中条シドはさておき、俺と[シン]は先輩を守りつつ、次々と現れる【式神】を撃破する。


「食らいなさイ! 【裁きの鉄槌】!」

「あはは! やっちゃえ! 【白虎】!」


 サンドラと立花も、俺達と反対側で【式神】を次々とねじ伏せていた。

 とにかく、何としてでも【式神】をここから外に出さないようにしないと……。


 そんな中。


「ギャ!? 痛っ!? こ、このおおおお! この私を誰だと……っ!? あああああ!? もう踏むなあああああ!?」


 [シン]の呪符で一切身動きが取れない近衛スミはが、【式神】に好き放題踏まれ続けていた。

 あー……まあアイツは、少しは痛い目に遭ったほうがいいんじゃないかな? それに、土御門さんとしても図らずも意趣返しができたし。闇堕ちから元に戻ったら、土御門さんに教えてあげよう。


「それにしても……」


 俺はチラリ、と土御門さんを見やると。


『ホホホホホ! 壊レロ! 壊レテシマエ! 全部……全部ナクナッテシマエバ良イノジャ!』


 完全に自暴自棄になった土御門さんが、次々と【式神】を出現させている。それだけ、彼女の闇が深かったってことだろう。


 そんな中。


「フン! いつまでもウジウジト……到底、貴族らしくないわネ」


 プラーミャは鼻を鳴らしながら、[スヴァローグ]のハルバードに炎をまとわせて次々と薙ぎ払う。

 元々は人形ひとがたの紙切れでいかない【式神】は、面白いように燃え盛っては消滅していった。


『ホホ……目障リジャノウ……』

「アラ? いたノ?」


 扇で口元を隠しながら睨みつける土御門さんを、プラーミャは得意の小馬鹿にした表情で尊大に眺める。

 はは……プラーミャは相変わらずブレないなあ……。


『ホ。ナラバ、ワラワノ【式神】ノ中デモ、特ニ選リスグリデモ出ソウカノウ?』


 そう言うと、[導摩法師]がその両手をプラーミャに向けてかざした。


『イデヨ。【酒呑童子しゅてんどうじ】、【温羅うら】』


 宙に浮く二枚の人形ひとがたの紙が幽子の渦に包まれ、その中から屈強な鬼が現れる。

 しかも、これまでの【式神】と比べてもその違いが明らかに分かるほど、圧倒的な威圧を誇りながら。


 あれこそが、[導摩法師]が使役する【式神】の中で最も強い鬼。

 言い換えれば、あの二体の鬼さえ倒せば、土御門さんは万策が尽きることになる。


「プラーミャ! その二体の鬼に気をつけろ! ソイツ等は……強い」


 俺はたまらずプラーミャにアドバイスを飛ばす。


 だけど。


「フフ……ヨーヘイは相変わらず心配性ネ。そういうのは、サンドラだけにしなさいナ」


 そう言ってクスクスと笑うプラーミャ。


「いや、お前だって俺の大切な仲間なんだから、心配して当然だろ!」

「ハア……本当にモウ、仕方ないわネ……そんなだから、ヤーまで勘違いしそうニ……(ゴニョゴニョ)」


 呆れた表情で、ヤレヤレと溜息を吐きながら呟くプラーミャ。だけど最後のほうは全然聞き取れなかった。


「とにかク! ヨーヘイはソコで黙って見てなさイ!」

「お、おう……」


 結局プラーミャの剣幕に押され、俺は大人しく二人の戦いを見守ることにした。


『ホホ……オ主、口元ガ緩ンデオルワエ?』

「ッ! 余計なお世話ヨ! それよリ……覚悟しなさイ!」


 そう叫ぶと、[スヴァローグ]はハルバードを肩に担いで【酒呑童子】と【温羅】へと突進する。


『ホホホホホ! 【酒呑童子】!』


【酒呑童子】は腰にぶら下げているかめを手に取ると、一気にあおる。

 そして、口から霧のようにして[スヴァローグ]に一気に吹きかけた。


「ウグッ!? こ、これハ……!?」

『ホホ……ドウジャ? 【酒呑童子】ノ酒ノ味ハ』

「酒……ッ!?」


【酒呑童子】の酒を浴びてしまった[スヴァローグ]は、その効果によって酩酊めいてい状態になってしまった。


『ホホホホホ! 存外、酒ニ弱イ奴ヨノウ! ソレデハ、到底華族ニハナレヌエ?』

「クッ……い、言うらなイ……!」


 あ……プラーミャの呂律ろれつが怪しい……。

 いや、[スヴァローグ]のステータスを見たことがないからハッキリとは言えないけど、どうやら[イリヤー]の時の【状態異常弱点】は、そのまま引き継がれてるっぽいな……。


『ホホ……ルーシノコトハ分カラヌガ、ソノ様子デハ貴族トヤラモ大シタコトナサソウジャノ』

「アに言ってるノ……所詮、落チブレ貴族のくせにイ……」


 プラーミャは舌足らずになりながら土御門さんをあおる。だけど、やはりその部分が彼女の逆鱗のようで、土御門さんはその表情をさらに険しくさせた。


『……ソノヨウナ状態デ言ッテモ、説得力ガナイワエ?』

「フフ……別に、ヤーロこの状態と、貴族ワ関係ないれショ? そんなことよりイ……」


 琥珀色の瞳をとろん、とさせながら、プラーミャは土御門さんを指差す。


「アナタ……ずっと華族ガー、とか、『土御門家』ガー、とか言ってるけロ、アナタ自身から貴族としての気概が感じられないロヨ……!」

『ナンジャト!』


 さすがに今の言葉は聞き捨てならなかったのか、土御門さんはもの凄い剣幕でプラーミャに向かって吠えた。


「らっテ、そうれショ? アナタ……薄っぺらいのヨ。さっきから言ってることハ、『土御門家』の再興がダメになって、ねてばかリ。アナタ自身から、貴族としてロ姿が見えないのヨ」

『ッ! オ主ニ……ルーシ帝国ノ名門貴族ノオ主ニ、コノワラワノ屈辱ガ分カッテタマルカアアアアアアッッッ!』


 そう叫ぶ土御門さんの漆黒の瞳から、大粒の涙があふれ出す。


 華族としての、その誇りを傷つけられて。

 これまでの、自分の全てを否定されて。


「分からラいわネ。それニ……ヤーは口で説明するのは苦手なのヨ」


 プラーミャは酔ってフラフラの身体を奮い立たせ、力強く廊下を踏みしめると。


「だかラ、ヤーは示すノ! ヤーのこの姿デ!」


 ハルバードの切っ先を[導摩法師]へと向け、プラーミャは叫んだ。

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