第249話 不穏な言葉

「聞け! “柱”よ! 貴様はこの桐崎サクヤと[関聖帝君]が一刀の下に斬り伏せ、その全てを私達のかてとしてくれる!」


 先輩の隣に並び立つ[関聖帝君]が、青龍偃月えんげつ刀の切っ先をアンドヴァリへと向け、先輩が咆哮ほうこうした。


「はは……すげえ……!」


 そんな先輩の背中を眺めているだけで、俺の心が震える。

 やっぱり、俺の憧れの女性ひとはこうじゃなきゃな!


「先輩! そんな幽鬼レブナント、圧勝してください!」


 俺は先輩に向かって拳を突き上げ、精一杯の激励をすると。


「もちろんだ! だから望月くん……私を、見守ってくれ!」


 先輩は力強く頷き、再度アンドヴァリを見据えた。


「では……行くぞ!」


 [関聖帝君]が青龍偃月刀を肩に担ぐと、アンドヴァリに向かって突進する。

 途中、[導摩法師]の【式神】が数体、その進路を遮ろうとするが。


「邪魔だああああああああああッッッ!」


 先輩と[関聖帝君]は羽虫でも振り払うかのように青龍偃月刀を横薙ぎにすると、まさに紙切れ・・・のように【式神】は両断され、元の人形ひとがたの紙となった。


「むうん!」


 そして、アンドヴァリの前へとたどり着いた[関聖帝君]は、青龍偃月刀をその脳天へと振り下ろす。


 ――ガキンッッッ!


 アンドヴァリは手斧でそれを受け止め、激しい金属音が響いた。


「ふふ……どうやら力自慢の幽鬼レブナントのようだが、果たして、この[関聖帝君]の相手が務まるのか見ものだな」


 先輩が口の端を持ち上げてそう告げると、[関聖帝君]の青龍偃月刀を持つ手に力が入る。


 ――グ……ググ……。


『……ッ!?』

「どうした? その程度か?」


 余裕の表情の先輩と[関聖帝君]に対し、アンドヴァリはその表情が険しくなる。

 とはいえ、[シン]と同じサイズの小さな身体で、[関聖帝君]の青龍偃月刀と拮抗してるだけでも、充分にすごいんだけどな。


 [関聖帝君]は青龍偃月刀をさらに押し込み、とうとうアンドヴァリが片膝をついた。


 すると。


「む!?」


 突然、アンドヴァリの姿がき消え、青龍偃月刀が勢い余って廊下へと突き刺さる。

 ア、アンドヴァリは一体どこに……って!


「先輩! 上です!」


 俺は大声で叫んで天井を指差すと、そこには、あの小さな身体とは打って変わり、巨大な銀色の魚が天井にその身体をめり込ませながら浮遊していた。

 あれは、アンドヴァリが持つスキルの一つ、【アスピドケロン】だな……。


「ほう……どうやら、自ら三枚に下ろされたいみたいだな」


 いや、先輩は料理が下手……ゲフンゲフン。

 どうやら俺の視線に気づいたらしく、先輩はジト目で俺を睨んだ。


「……まあいい。的が大きくなった分、やりやすいというものだ!」

『ッ!』


 魚となったアンドヴァリが、鋭利な牙をき出しにして[関聖帝君]に襲い掛かる。


 ――ギインッッ!


 だけど、青龍偃月刀によってアッサリとその牙を折られ、アンドヴァリはすぐに口を塞いでしまった。

 というか、そもそもアンドヴァリじゃ先輩の相手としては力不足か。


「はああああああああああああッッッ!」


 ――斬ッッッ!


 [関聖帝君]の青龍偃月刀の軌道が半円を描くと、それから一瞬遅れ、アンドヴァリの胴体が中心から半分にずれる・・・


「ふふ……他愛のない」


 その言葉と共に、アンドヴァリが半割りとなった。


「っ! 先輩! まだです!」

「む!?」


 開きになったアンドヴァリの姿がまたき消えたかと思うと、元の姿となって先輩の前に現れる。

 とはいえ、やはり先程の一撃でダメージを負っていたようで、その額から血を流していた。


『……ッ!』


 おそらく、自分に勝ち目がないことも悟っているんだろう。アンドヴァリは、忌々し気に先輩を見つめていた。


 でも……アンドヴァリには、ある意味・・・・最悪のスキルである【アンドヴァラナウト】がある。

 当然、アンドヴァリは最後の足掻あがきとして使ってくるだろう。


 まあ、そうはさせないけどな。


「先輩! ソイツの左手にある指輪・・に注意してください! それは、対象の敵に対して腐敗の呪いをかけるスキルを持っています!」

『ッ!?』


 はは、俺にネタ晴らしされて、目を見開いてやがる。

 というか、俺の大事な先輩・・・・・・・をそんな目に遭わせるわけねーだろ。


「ふふ……全く、余計なことを……」


 そう言って、先輩はやれやれといった表情でかぶりを振った。


『はう! でもでも、桐姉さまの口がゆるっゆるなのです! 分かりやすいのです!』

「あうあうあう!? シシ、[シン]!?」


 [シン]に指摘され、真っ赤な顔でアワアワする先輩。

 ああもう! 本当に先輩は、可愛いなあ!


「あう! こ、これ以上は時間の無駄だ! これで……終わりだあああああああああ!」


 ――グシャアッッッ!


 とうとういたたまれなくなった先輩は、まるで誤魔化すかのように青龍偃月刀でアンドヴァリの脳天を抉る。うん、アンドヴァリにとっては、完全にとばっちりだ。


 そしてアンドヴァリが“ウルズの泥水”へと変化し、[関聖帝君]……ひいては、その中に宿るへと吸収されていった。


「っ!? ……うう」


 ……いくら“シルウィアヌスの指輪”で吸収量が半分に抑えられるといっても、それでも先輩の身体に負担がかかることは間違いないんだ。


 だから。


「う……も、望月くん……」

「はは……先輩を守るのは、俺だけの特権、ですよ」

『はう! この[シン]に任せるのです!』


 俺と[シン]は膝をつく先輩の前に立ち、居並ぶ【式神】をけん制する。


「あう……ふふ、ではお願いするとしよう……」


 そう言うと、先輩は嬉しそうに目を細めた。


 その時。


「…………………………可憐だ」


【式神】を薙ぎ払いながらボーッとした表情でコッチを見ている中条シドから、不穏な言葉が聞こえた。


 ……よし、全部終わったら、キッチリ・・・・話をしようじゃないか。

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