第159話 氷室先輩と巡回

「では、よろしくお願いします」


 午後になり、俺は生徒会室で氷室先輩と合流した。

 もちろん、生徒会として一緒に学園を巡回するために。


『むふふー! アイス又はかき氷を食べるのです!』


 そして[シン]も、氷室先輩に奢ってもらえるとあって、やたらとテンションが高い。


「とにかく[シン]、あまり精霊ガイストだってバレないように気をつけろよ?」

『ハイなのです! そしてアイスとかき氷を堪能するです!』


 オイ待て、なんでアイスとかき氷の二つになってるんだよ。


「じゃあ私と一緒に、アイスとかき氷を買いに行きましょう」

『はう! カズ姉さまは優しいのです!』


 そう言うと、[シン]は甘えるように氷室先輩に抱きついた。

 というか、[シン]が俺以外にこうやってくっつくのって、ひょっとして氷室先輩が初めてなんじゃないのか?


「では、行きましょう」

「は、はい!」


 俺と氷室先輩は生徒会室を出ると、まず学園内を巡回した後、校庭の露店エリアに向かった。


『はうはうはう! いっぱいあるのです……!』

「どれでも好きなものを選んでください」


 すると[シン]はすごい勢いでかき氷の露店の前に行き、ジーッとシロップを眺めている。

 そして。


『決めたのです! [シン]はこの濃い青色にするのです!』


 そう言うと、[シン]はブルーハワイのシロップを指差しながら、キラキラとオニキスの瞳を輝かせて俺と氷室先輩を見つめる。


「分かりました。では、ブルーハワイ一つと……」


 そこで、氷室先輩はチラリ、と俺を見た。


「? ええと……?」

「望月さんはどれにしますか?」


 おおっと、まさか俺の分も奢ろうって思ってるんじゃないだろうな。


「ひ、氷室先輩、俺の分はいいですよ」

「そうはいきません。ここは、少し先輩らしいことをさせてください」


 むむ……そう言われてしまうと、断るのは逆に失礼か。


「あ、ありがとうございます。じゃあ、俺はメロンで」

「はい。ではメロン一つにレモンを一つください」

「ありがとうございまーす!」


 注文を受け、店員をしている女子生徒がかき氷を三つ用意してくれた。

 うむうむ、美味そう。


「さて……せっかくですから、座って食べませんか? ちょうど良い場所もありますので」

「は、はい」


 俺と[シン]は氷室先輩の後に続き、校舎の中に入ると。


「おお……!」


 連れてこられたのは、学園の屋上だった。


「さあ、どうぞこちらへ」


 屋上に一つだけ用意されているベンチに腰掛けると、学園の周辺が一望できた。


「いやあ、ここは景色がいいですね!」

「ええ……私のとっておきの場所です。何より、屋上には鍵がないと入れませんから」


 その鍵を、どうして氷室先輩が持っているのか……なんて野暮なことは聞かない。というか、俺はその鍵を氷室先輩が持っていることを知っていた。


 氷室先輩の持つ『屋上の鍵』……これこそ、氷室先輩を闇堕ちから救うための、まさにキーアイテムなのだから。

 そして、そんな氷室先輩にこの屋上に連れてきてもらえた俺は、氷室先輩からの信頼を勝ち取ったという証拠でもある。


 あの『まとめサイト』によれば、一年終了時の春休みに、この屋上で起こるイベントという名のハプニングによって、氷室先輩と恋人になるためのフラグが立つ……んだけど、うん、別に俺はフラグ立てるつもりはないから。惜しいけど。非常に惜しいけど。


 え? どんなハプニングかって? まあ、男子なら誰もが喜ぶ系のヤツだ。


『マスター! マスター! 早く食べないと、かき氷が溶けてしまうのです!』


 待ちきれない様子の[シン]がせっつく。

 やれやれ……しょうがないなあ。


「それじゃ、氷室先輩いただきます!」

『はう! いただきますなのです!』

「ええ、召し上がってください」


 そう言うと、[シン]はもの凄い勢いでかき氷を口に放り込む。

 オイオイ、そんなにがっつくと、後で頭が痛くなる……って、精霊ガイストはどうなんだろうか。


「……望月さん、ありがとうございます」

「へ?」


 突然、氷室先輩にお礼を言われた俺は、思わずキョトンとしてしまう。

 ええと……むしろ、かき氷を奢ってもらった俺がお礼を言うところなんだけど。


「一昨日の夜、会長……いえ、桐崎さんから伺いました。あなたは、私と桐崎さんが想いをぶつけ合うことができるようにしてくれたのだと」


 あー……先輩、余計なことを……。


「ま、まあ、余計なお節介……「そんなことは、ありません」」


 俺は苦笑しながら話を切り上げようと思い、そんなことを言おうとしたら、氷室先輩に否定されてしまった。


「……桐崎さんとは、色んな事を話しました。お互いの想いや、過去、そしてこれからのことを」

「…………………………」

「その中で、あなたのこともたくさん伺いました。あなたが、今に至るまでにどれだけの努力を重ねてきたのかを。あなたが、どれだけ周りの人達のために、心を砕いてきたのかを」


 そう言うと、氷室先輩はジッと俺の瞳を見つめる。


「そして……このわた……「クハ! こんなところにいたのか!」……あなたは……!」


 すると、何故かこの場所に、あの・・牧村クニオと二―一の女子生徒が現れた。

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