第158話 サンドラと巡回

「……サンドラ、お疲れ」

「…………………………キュウ」


 ようやく学園祭の初日が終わり、サンドラは変な声を上げながら突っ伏していた。

 いや、今回の執事喫茶は完全に予想外だった。


 というか、誰がこんな繁盛するだなんて思うんだよ。

 結局、サンドラ、プラーミャ、そして立花は、指名が終了時間まで途切れることがなかったせいで、ほとんど休憩すら取れなかったんだよなあ……。


 なので生徒会の仕事も、今日は俺がサンドラに代わってこなしていた。


「……なあ、提案なんだけど、立花、サンドラ、プラーミャの三人については、指名できる時間を限定しないか? 例えば、一時間ごとのローテーションを組むとか」

「「「賛成! 賛成!」」」

「うお!?」


 俺の提案に、三人が懇願するかのような瞳をしながら手を挙げた。

 だよなあ……さすがにつらいよなあ……。


 他のみんなも、さすがに三人が可哀想だと思ったんだろう。

 全員、無言で頷いた。


「やった! これで明日は、望月くんと一緒に回れる!」


 いや立花……オマエ、意外と元気じゃねーか。


「ヨーヘイ……明日の生徒会の巡回、絶対に一緒に回りますわよ……!」

「お、おう……」


 サンドラのすさまじい気迫に、俺はただ頷いた。


 ◇


 ということで、学園祭二日目。


 昨日の提案の通り、三人を指名できる時間を限定したことで、お客さんも分散されてかなりスムーズになった。うん、これくらいがちょうどいいよな。


「ヨーヘイ! 生徒会に行きますわヨ!」

「はは、おう」


 張り切るサンドラを見ながら俺は口元を緩めると、一緒に生徒会室に向かう。

 午前中は俺とサンドラで巡回、午後は氷室先輩との巡回だ。


 ……桐崎先輩とは、二日目は残念ながら一緒に巡回するタイミングがなかった。

 おかげで先輩、氷室先輩にシフトを替われと、やたら詰め寄ってたなあ……氷室先輩はずっと首を横に振ってたけど。


「ア! ヨーヘイ! 占いがありますわヨ!」


 サンドラが指差した先にあるのは、二―一の教室だった。

 というかここ、あの夏目先輩と旧生徒会メンバーの……うん、名前忘れた。


「ネ、ネエ……チョットだけ、覗いてみませン……?」


 サンドラがアクアマリンの瞳を潤ませながら、恥ずかしそうに提案する。


「おう、いいぞ。というかサンドラって、占いとか好きなの?」

「フエ!? え、ええと……そうですわネ」


 サンドラはモジモジしながら目を逸らす。

 ま、まあいいか。


 ということで、俺達は二―一の教室に入ると。


「フフフ……ようこそ『占いの館』……へ!?」

「「あ」」


 どうやら占いをするのは夏目先輩のようだ。

 そして俺の顔を見ると毎回嫌そうな顔をするの、いい加減やめて欲しい。


「あー、今日は占い当たる気がしないねー……そろそろ店じまいかなー……」


 などと白々しい台詞セリフを吐きながら、何とかして俺達を追い出そうとしているのが透けて見える。


「じゃあサンドラ、占ってもらおうぜ」

「チョット!? 私の話聞いてる!?」


 もちろん聞いてるとも。だけど、面白いからこのまま続行だ。


「夏目先輩、俺達を追い出したかったら、占いを済ませたほうが早いですよ?」

「うぐう……わ、分かったわよ!」


 夏目先輩はブツブツと言いながら、俺達を席に座らせた。


「……それで、今日は何を占いたいの?」

「フエ!? あ、そ、その……」


 サンドラは俺をチラリ、と見た後、何故か夏目先輩に顔を寄せ、耳打ちした。

 いや、俺に聞かれたくないようなこと占いたいなら、一人のほうが良かったんじゃ……。


「……ふうん、まあいいわ。それじゃ二人共、この紙に名前と生年月日、血液型を書いてくれる?」


 俺とサンドラは夏目先輩に言われるまま、紙に自分達の情報を書き込む。

 だけど……アレ? 俺、まだ占いたいこと話してないんだけど……。


「じゃあ占うわよ。[クロトー]」


 すると夏目先輩は、自身の精霊ガイストを召喚した。

 ああー、そういえば夏目先輩の[クロトー]には、運命を予測する【ディスターフ】のスキルがあったな。スキルがレア過ぎるから、その成功率はかなり低いらしいけど。


「……見えたわ」

「ど、どうなんですノ……?」

「そうだね……あなたには、かなりの強敵がいるみたいね。それも、三人も」

「さ、三人!?」


 そう叫ぶと、サンドラがキッと俺を睨んだ。なんで!?


「ど、どうすればいいんですノ! その三人に勝つためには、どうすれバ!」

「チョ!? 落ち着きなって! ……とにかく、あなたは色んなことを精一杯に頑張るしかないみたいね。そんな姿を見せることで、事態が好転するって出てるし」

「精一杯、頑張ル……」


 サンドラは、夏目先輩の占いによるアドバイスの言葉を反芻はんすうする。

 そのアクアマリンの瞳に、決意をたたえて。


 多分、占いの内容からも実家絡み、だろうな……。


「ワッ!?」

「はは、心配するなよ。お前の頑張りは、そばで見てる俺が一番よく分かってる。だから、まあ……無理はするなよ」

「ヨーヘイ……ウンダー……」

「ハア……もう占いも終わったんだし、二人共サッサと出て行ってくれない?」


 見ると、呆れた表情の夏目先輩が、まるで犬を追い払うかのようにシッシッ、と手を振る。


「んじゃ、巡回の続きするかー」

「エエ!」


 俺は満面の笑みを浮かべたサンドラと一緒に席を立つ。


「……ていうか、バッチリ見てくれてるじゃん(ボソッ)」


 最後、夏目先輩が何かを呟いた気がするけど……ま、いいか。

 俺は首を傾げながら、サンドラと二―一の教室を出た。

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