第243話 近衛スミのクラスチェンジ
「クク……改めて認めよう。この戦い、
中条シドのその言葉に、俺の胸が、かあ、と熱くなる。
何だよ……まるで憑き物が落ちたみたいな爽やかな
「……いや、俺はサンドラと二対一で戦ったんだ。一対一なら、俺達は負けていた」
「謙遜はよせ。それは美徳にも思えるが、敗者からすれば苦痛でしかない」
う……意外にもまともなこと言いやがる……。
「だから胸を張れ。そして、この我が貴様に負けたという事実を、名誉に変えて見せろ」
ハア……コイツ、『まとめサイト』の情報とじゃ、完全にキャラが違うじゃねーか。
まあ、今から考えれば先輩だって、『まとめサイト』では氷のように冷徹で、相対する全てに対して牙を剝く……そんな設定だったな。
でも、俺の知ってる先輩は、誰よりも優しくて、面倒見が良くて、信じてくれて……。
……所詮、『まとめサイト』は攻略に関することがメインで、そのキャラやイベント自体のストーリーの掘り下げとかをするわけじゃないから、ソッチの面では信用しないほうがいいかもな。
「ヨ、ヨーヘイ……それで、身体はもう大丈夫なんですノ……?」
サンドラが心配そうな表情でおずおずと尋ねる。
おっと、そうだったな。
「ああ。コイツ……いや、中条シドのおかげで、俺と[シン]の身体はもう
少しでも安心させるように、俺は微笑みながらそう告げると。
「おわっ!?」
「モウ……二度と、こんな無茶はしないでくださいまシ……!」
また涙を零すサンドラが、俺に抱きついてきた。
「……悪い」
その呟いて謝ると、抱きしめる力を強くしたサンドラの背中を優しく撫でた。
『コホン』
「「ハッ!」」
[シン]の咳払いで我に返った俺達は、勢いよく離れる。
「ソソ、ソウイエバ、ア、アノ男ハドウスルンデスノ?」
顔を真っ赤にしながらアワアワするサンドラが、いつも以上にカタコトの東方語で
だけど。
「あー……」
「? どうしたんですノ? いつもみたいに[シン]の呪符で拘束しませんノ?」
俺が呆けた声を漏らすと、その様子を見て落ち着きを取り戻したサンドラが、不思議そうに尋ねる。
「いや、中条シドには拘束するための呪符が効かないんだよ……」
「ど、どういうことですノ!?」
まあ、一言で言ってしまえば、『中条シドはイベントボスだから』ってのが理由だ。
それはプラーミャが闇堕ちした時の “柱”との戦いで、イベントボスには効かないってことは確認済みだし。おそらく、スタンなどの状態異常系の一部だけじゃなくて即死系もだろうな。
ただ……ウーン、それをどうやって説明したモンか……。
すると。
「クク……我は敗者の身。そのような真似をしなくても、今さらジタバタしないさ」
「そ、そうか……」
この潔さ、一体どうなってるんだよ。
ま、まあ、中条シドもああ言ってることだし、ここは素直に信じておこう。うん。
「そ、それより、立花とプラーミャはどうなってるんだ?」
「……どちらも、戦況は拮抗してますわネ……」
サンドラが渋い表情でそう告げる。
さて……なら俺達は、あの二人に加勢……なんてことしたら、それこそ二人がキレそうだなあ……。
じゃあ、せめて激励だけしておいて、いざとなったら助太刀することにするか。
「立花! プラーミャ!」
「「っ!」」
俺とサンドラが二人に向かってサムズアップすると、二人は口の端を持ち上げた。
「あはは! さすがは望月くん!」
「サンドラ、見事ヨ!」
それによって勢いが増した二人が、相手に対して猛攻を仕掛ける。
「ふふ……所詮は、
そう言うと、近衛スミは侮蔑の表情を浮かべながら、中条シドを
しかし、戦闘前の土御門さんへの言葉や今の言動からも分かる通り、コッチの生徒会長は中条シドと違って性格悪そうだな。
一応この近衛スミも、
といっても、俺と同じ
「あはは! そんなこと言ってるけど、アイツなんかよりオマエのほうがよっぽど弱いじゃないか!」
「ふふ……この互角の状況で、よくそんな
「あは! バカじゃないの?」
立花がニタア、と不気味に
だけど、実際に中条シドとも戦っている立花がそう言うんだから、その通りなんだろう。
だけど。
「立花、油断するな! 中条シドと同じように、戦いの最中にクラスチェンジする可能性もあるぞ!」
いや、むしろそうだとしか考えられない。
というのも、近衛スミの
つまり、少なくともクラスチェンジの条件の一つであるレベルはクリアしていることは間違いない。
もう一つの条件であるイベントクリアとキーアイテムについては……これは、正直なところをいうと分からない。
というのも、事実としてサンドラは闇堕ちをしなくてもクラスチェンジを果たしている。
だから、この近衛スミだって何らかの方法でクラスチェンジ条件を満たしている可能性があるってことだからな。
「うん! 分かった!」
そして立花は、俺の忠告に嬉しそうに頷く。
こうなれば、立花も警戒して不意を突かれることはないだろう。
さあ……近衛スミはどう出る?
「ふふ……木崎さんの情報は不正確なところがそれなりにありましたが、これだけは確実に当たっていましたね」
「へえー、それって何なのさ」
クスクスと笑う近衛スミに、立花が興味深そうに尋ねた。
「ええ。といっても、『“望月ヨーヘイ”は
オイオイ、あれほど俺のことを
「ということで、これ以上無理をしても事態が好転しそうにありませんので、私はこれで失礼しますね」
「「「「「はあ!?」」」」」
そう言って
オイオイ!? ここまでやらかしておいて逃げる気か!?
「[シン]!」
『ハイなのです!』
そうはさせまいと、[シン]のスピードを活かして近衛スミの進行方向へと先回りし、その逃亡を阻止する。
「……本当に、目障りですね。これも木崎さんが言った通りです」
「はは、そりゃどーも」
僅かに眉を吊り上げる近衛スミに向けて、俺は
そもそも、俺は今日でこのメイザース学園関連イベをキッチリ終わらせる覚悟なんだ。絶対に、カタをつける!
「いいでしょう……望み通り、痛い目に遭わせて差し上げますよ。それこそ、この私の前に立ったことを永遠に後悔するほどに」
近衛スミから表情が無くなり、ス、と目を閉じる。
そして。
「クラスチェンジ……開放」
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