第242話 貴様という男に

 俺の叫び声に反応した[シン]が、一気に[デウス・エクス・マキナ]から距離を空けた。


 その時。


「無駄だ! 【クロノス】!」


 [デウス・エクス・マキナ]の、最もチートな・・・・・・スキルが発動した。


 あれこそが、[デウス・エクス・マキナ]の[デウス・エクス・マキナ]たる所以ゆえん

 あの背中にある巨大な歯車が時計回りに刻む時、ほんの一瞬の未来が都合よく・・・・改ざんされる。


 実際の『ガイスト×レブナント』の世界では、プレイヤーが攻撃コマンドを入力しても、このスキルが発動されることによって、全てキャンセルされ、逆に[デウス・エクス・マキナ]の攻撃を受けるっていう何ともチートなスキルだ。


 だから。


『はう!?』

「クク! 終わりだ!」


 どういうわけか、ほんの数センチの距離に二桁は超える【ツァーンラート】が、今まさに[シン]を狙っていた。

 っ!? こんなの間に合わ……っ!?


 ――ギャギギギギギギギギギッッッ!


『アアアアアアアアアアアアアッッッ!?』

「ぐああああああああああああッッッ!?」


 そして[シン]の身体は歯車の高速回転によってズタズタにされ、[シン]と俺の絶叫が廊下にこだまする。


 だけど。


「ククククククク! トドメだ!」


 ――俺達の勝ち、だ。


「アアアアアアアアアッッッ! 【裁きの鉄槌】!」

「っ!? 【クロ……ッ!?」


 ――ドオオオオオオオオオオオオンッッッ!


 サンドラの……[ペルーン]の渾身の一撃が[デウス・エクス・マキナ]の脳天に叩きつけられ、すさまじい衝撃音と稲妻がほとばしった。


「グオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?」


 はは……やった、ぞ……[シン]……サンドラ……!


 ◇


 …………………………。


 ――イ。


 …………………………ん?


 ――ヘイ。


 何か、聞こえる……。


 ――ヨ……ーヘイ。


 俺の……名前……って。


 俺を呼ぶ声に反応し、ゆっくりと目を開ける。


 すると。


「……ーヘイ!? ヨーヘイ!?」


 俺のすぐ目の前に、ぽろぽろと涙をこぼしながら必死で呼びかけるサンドラの顔があった。


「ッ! ヨーヘイ!」

「うおっ!?」


 そして、その顔をさらにくしゃくしゃにしたサンドラが、俺に抱きついてきた!?

 ココ、コレってどういう状況!? というか、何のご褒美!? ……って。


「イタタタタタタタタタッ!?」

「モウ! モウ! ヨーヘイのバカ!」

「分かった! 分かった! 俺はバカだから、とりあえず落ち着け!?」


 サンドラが抱きついたことによって全身に痛みが走り、俺は何とかしてサンドラを離そうとするんだけど、離れねえ!?


『痛いのです! 痛いのです! アレク姉さま痛いのですううううううう!』

「ア!? ゴ、ゴメンナサイッ!」


 痛みを共有している[シン]からも悲鳴が上がり、ここでようやく気づいたサンドラがパッと離れた。


「イテテテテ……だ、だけど、やったなサンドラ……ぶちのめす瞬間、この目にバッチリ焼き付けたぞ……」


 そう言うと、俺は痛い身体を我慢しながら、右手を高々と上げてサムズアップする。


「モウ……あんな無茶するなんて、聞いてませんわヨ……! ヨーヘイの、バカア……!」

「はは、悪い……」


 泣きじゃくるサンドラに、俺はただ、謝るしかない。


「それで、アイツは……中条シドはどうなった……?」

「グス……い、今もくたばったママ……「グ、グウウ……ッ!」」


 サンドラが涙声で状況を説明しようとした瞬間、中条シドがうめき声を上げた。

 俺は首を動かして、そのうめき声がする方向へ顔を向けると。


「な……何故、我は、あそこまで精霊ガイストの接近を……ゆ、許した……のだ……!」


 はは、なんで負けたか分からないせいか、中条シドの奴、悔しそうに歯噛みしてやがる。


「簡単だ……オマエが【クロノス】を発動した時、逃げる[シン]に接近したからだよ……それも、わざわざサンドラの[ペルーン]が待ち構えている・・・・・・・場所・・にな」


 そう……[デウス・エクス・マキナ]が【クロノス】を発動する際、必ず対象となる精霊ガイストに接近する。それは『まとめサイト』で確認済みだ。

 だから俺は、その行動パターンを逆手にとって、[シン]をわざと[ペルーン]のそばへと逃げるようにしたんだ。


 これなら『敏捷』ステーアスの低い[ペルーン]でも、[デウス・エクス・マキナ]に接近できる。


「……まあ、そのせいで俺は、世界一大切な相棒・・・・・・・・につらい思いをさせた……はは、こんなんじゃ、[シン]のマスター失格だな……」


 そう言うと、俺は自嘲気味に笑った。

 だけど、俺がもっと優秀だったら、こんな[シン]を犠牲にするような作戦なんか取らなくても、中条シドを倒せたはずだし、こんな目に遭わせることもなかったんだ。


『そ、そんなことはないのです! マスターはいつだって[シン]のことを、一番大切に想ってくれているのです! そんなマスターだからこそ、[シン]は……[シン]は、マスターのためにどんなことだってできるのです!』

「バカヤロウ……」


 [シン]の言葉に、俺は思わず悪態を吐く。

 本当は[シン]のその言葉が嬉しくて仕方ないけど、俺は、[シン]に自分を犠牲にしてまで、俺のために尽くして欲しくないんだ。


 あー……なのに俺は、やってることが完全に矛盾してるし、マジでバカヤロウ・・・・・だ……。


「ク、クク……結局は、我は全てにおいて貴様に負けたということか……」

「いや……正直、オマエの精霊ガイストは最強クラスだよ……」

「そうではない……我は、確かに貴様に負けたのだ。精霊ガイストがではなく、貴様という男に……」


 はは……まさかコイツが、そんなことをのたまうとは思わなかったな。


 『ガイスト×レブナント』では、常に利己的で、尊大で、たとえ仲間であっても平気で切り捨て、犠牲にする、この男が。


「ククク……ハハハハハハハハ! 負けた! 我は負けたぞ! だが……我は、今までで最も清々しい気分だ!」


 両手と両脚を大の字に広げ、中条シドが嬉しそうに笑う。


 そして。


「【カイロス】」


 [デウス・エクス・マキナ]が【カイロス】を発動すると、自身と[シン]の頭上に金属の歯車が浮かび上がり、巻き戻された。


『はう! 怪我がなくなったのです! 元気元気なのです!』


 怪我どころか、ズタズタに引き裂かれたコスチュームも全て元通りになり、[シン]が笑顔で走り回る。


「オマエ……」


 俺は思わず上体を起こして中条シドを見ると。


「クク……改めて認めよう。この戦い、貴様の勝ち・・・・・だ」

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