第324話 待っていたのは

「二人共……気をつけろよ……」


 サンドラ、プラーミャの二人と別れ、俺達は第十八階層にたどり着くと、早速現れた幽鬼レブナント、ルキウス・アルクィヌニウスを瞬殺した。


 で、俺は二人と別れてからここまで、幾度となく振り返ってはそんなことを呟いていたりする。


「ふふ……大丈夫だよ、ヨーヘイくん。君だって、あの二人の強さは知っているだろう?」

「そ、それはそうですけど……」


 サクヤさんはそう言うけど、小森チユキをはじめとしたヒロイン達も賀茂によってステータスの底上げがされているはずだし、何より、サンドラとプラーミャの二人に対して向こうは四人。数の上でも二人が不利だ。


 とはいえ、俺だって二人の勝利をこれっぽっちも疑ってるわけじゃない。

 ただ……心配してしまうのはどうしようもない。


「まあ、ヨーヘイくんが心配性なのは、今に始まった話ではないが、な」


 そう言って、サクヤさんは苦笑する。

 うぐう、否定できない。


「クク……ここまで第十階層で九人、第十五階層で四人が待ち構えていた。となると、後は……」

「……ああ。残るは賀茂と、加隈の二人・・だ」


 中条の言葉を引き継ぎ、俺は静かに答える。

 ただしこの数も、“GSMOグスモ”の調査で判明しているのが、だけどな。


「ねえ、ヨーヘイくん」

「ん? どうした?」


 いつになく神妙な面持ちで声をかけるアオイ。

 一体どうしたんだろう……。


「加隈くんがもし、ボク達の前に立ち塞がった時、その時は……このボクに戦わせてほしいんだ」

「アオイが?」


 アオイの申し出を受け、俺は一瞬キョトン、としてしまった。

 いや、もちろん加隈が立ち塞がるのなら、俺達は友達であるアイツを倒さないといけない。

 特にアオイの場合、いつも鬱陶しそうにしてはいるものの、アイツとは同じチームでもあるから、俺なんかよりも戦いづらいはずだろうに。


「あはは……加隈くんって、いつもはかなりウザいんだけど、それでもボクの大事な仲間だし、こんな時くらいは、ちゃんと相手してあげようかな、って」

「そっか……そうだな……」


 苦笑するアオイに、俺は頷く。

 まあ、加隈の奴にしても、大好きなアオイに痛めつけられるなら本望だろ。


「クク……第十九階層への階段が見えたぞ」

「ああ」


 俺達は、次の階層へと続く階段を駆け上がる。


 すると。


「……ヨーヘイ、立花、師匠、中条」


 加隈が、悲しそうな表情で待ち構えていた。


「よう……まさか、お前一人で俺達の相手をさせられたのか?」

「…………………………」


 加隈は無言で後ろへと振り返る。


 そこには。


「ふふ……遅かったですね、みなさん」

「氷室くん!?」


 なんと、カズラさんがニタア、と口の端を三日月のゆに吊り上げて現れた。


「……君も、賀茂カズマに大切なものを奪われてしまった、というわけか……」

「さあ、どうでしょうか」


 サクヤさんの言葉を受け、カズラさんは曖昧に答えた。

 だけど、サクヤさんのキーアイテムは『屋上の鍵』。大切なものではあるけれど、俺達を裏切るほどのものじゃない。


「クク、まあよい。貴様も他の者達と同様、我等と戦うためにここにいるという理解でよいか?」

「ええ、そう受け取っていただいて構いません」

「そんな!?」


 さあて……この二人を突破すれば、次はいよいよ賀茂の奴を残すのみ、なんだけど……。


「ヨーヘイくん……さっき話した通り、加隈くんとはこのボクが戦うから」

「っ!? た、立花と戦う、のか……」


 アオイの言葉を聞き、加隈は唇を噛む。

 まあ、加隈としてはアオイと戦いたくはないんだろうけど、それでも、アオイは覚悟を決めて対峙してるんだ。


 だったら。


「加隈……お前も賀茂の下について俺達と戦うことを受け入れたんだろう? なら、目を逸らさずにアオイと戦え!」

「っ!」


 そう……コイツだって、覚悟を決めてここにいるんだ。

 なら、もう戦う以外の選択肢はないんだよ。


「…………………………チッ。ヨーヘイもキツイこと言いやがるよな……」

「ならお前は、お前の大切なもの・・・・・を諦めるのか?」

「……いや、それはゼッテー無理だ。つか、こんなことになるんなら、もっと大事にしておくんだったよ……」


 俺の問いかけに、加隈は自嘲じちょう気味に笑う。

 だけど……その瞳は、覚悟が決まったみたいだ。


「ヨーヘイくん……氷室くんは、この私に任せてはもらえないだろうか?」

「サクヤさん?」


 意外にも、サクヤさんが氷室先輩の相手を買って出た。


「ふふ……やはり、氷室くんはこの私の大切な友達・・で、そして対等なライバル・・・・だからな……立花くんと同じく、彼女の相手をすべきはこの私だ」

「そうですか……」


 サクヤさんの言葉を受け、俺はそう呟く。


 そして。


「中条……ここはサクヤさんとアオイに任せて、俺達は賀茂のところへ向かおう」

「クク……だが、この二人が我等をすんなりと通してくれるか?」


 くつくつと笑いながら中条はそう尋ねるが、それについては問題ない・・・・


 俺はゆっくりと歩を進め、カズラさんと加隈、二人の間をすり抜けて先に進もうとするが。


 ――ス。


 カズラさんが身を引き、俺に進路を譲ってくれた。


「……加隈。お前の大切な、『形見のライター』は俺が必ず取り返す。だから……ちょっとアオイと遊びながら・・・・・待ってろ」

「っ!? お前、なんでそれを!?」


 目を見開く加隈の問いかけを無視し、今度はカズラさんに向き直る。


「……望月さん、賀茂カズマはこの上……第二十階層であなたを待っています」

「そうですか……」

「それと……みんなの大切なもの・・・・・は、賀茂カズマが別の場所・・・・に保管しています。それで……」


 するとカズラさんは、俺の傍に寄ってそっと耳打ちした。

 はは……さすがはカズラさん、だな。


「じゃあ……後は任せました・・・・・・・、カズラさん。行くぞ、中条」

「ウ、ウム……」


 珍しく困惑の表情を浮かべる中条を引きつれ、俺は第二十階層へと続く階段に、足をかけた。

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