第379話 地煞星②

『どうした? そんなものか?』

『ぐぎぎ……!』


 俺達は“梁山泊”領域エリアの『第九十八門』に来ると、ここを守護する精霊ガイスト、[没面目ぼつめんもく]と[シン]が相撲を取っている……んだけど。


「あー……やっぱり体格差がなあ……」

「うむ……」


 そう……百三十センチほどしかない[シン]と、ニメートル近いサイズの[没面目]とじゃ、さすがに話にならない。

 だけど、『攻略サイト』では普通にバトルするだけのはずなのに、何だって相撲なんかする羽目に……。


「[シン]! そんなデブに負けたら承知しないわヨ!」

『……それがしは断じてデブなどではない』


 プラーミャのヤジに、[没面目]が低い声でクレームを入れてきた。意外と気にしてるのな。


『はう! 押してダメなら引いてみるのです!』

『む』


 腰に巻いている太いベルトのようなものに手をかけ、[シン]が下手投げの要領で体勢を崩しにかかる。


 だが。


『っ! ビ、ビクともしないのです!』

『ふふ……相撲に関しては、“梁山泊”一のそれがしぞ!』

『はう!?』


 [没面目]は下からアッパーカットの要領で[シン]の顎目がけて張り手を見舞うと、ただでさえ体重の軽い[シン]は空中へ高々と吹き飛ばされた。


『クッ……押しても引いてもダメなら……っ!』


 [シン]は【神行法・跳】で空中を軽やかに駆け、[没面目]の背後を取った。


『それー! なのです!』


 そのまま土俵の外へと押し出そうとするが……。


『フン……残念だが遊びはここまで。終わりだ』

『はううううううううう!?』


 [没面目]はむんず、と[シン]の襟首をつかみ、そのまま舞台へと叩きつけ……っ!?


『はう! この時を待ってたのです! 【神行法・転】!』

『っ!?』


 [シン]が舞台にその身体が触れる直前、[没面目]と身体が入れ替わる。


 そして。


『はううううううううううッッッ!』

『うおおおおおおおッッッ!?』


 [没面目]は自分が仕掛けた勢いそのまま、舞台へと転がった。


『はう! [シン]の勝利なので……「はは! やったな!」……マスター!』


 [シン]の勝利を確信した瞬間、気づけば俺は舞台に上がって駆け寄り、その小さくも誇らしい身体を高々と持ち上げた。


『はう! やったのです!』

「ああ……本当に、お前はすごい奴だよ」

『あ……えへへー……』


 俺は[シン]を抱きしめて頭を撫でてやると、[シン]は嬉しそうに目を細めた。


『ふふ……体格差をものともせず、それがしの力を利用してこの巨体を舞台へと叩きつけたその能力、機転……見事!』


 特に怪我をした様子もなく、[没面目]はニコリ、と微笑みながら立ち上がった。

 その様子からも、どうやら最初から手加減をしていたみたいだな……。


『この[没面目]、お主に力を貸そう』


 [没面目]は『悪』と記された宝珠に変化すると、[シン]の身体の中へ吸い込まれた。


『はう……これで、十一個目なのです』

「そうだな……これで残りは九十六。まだまだ先は長いぞ?」

『全然大丈夫なのです! [シン]は一〇七全部の精霊ガイストを倒して、絶対に強くなるのです! それに……』

「ん? それに?」

『はう! マスターが[シン]を信じて見守ってくれているのです! それだけで、[シン]はいつだって強くなれるのです』

「[シン]……」


 はは……全く、俺の相棒はどこまでも最高の相棒だよ。


 にぱー、と笑う[シン]を見つめながら、俺は口元を緩めた。


 ◇


「クク……急に雲行きが怪しくなってきたな」


 [毛頭星]を倒し、『第六十一門』へと向かう途中、中条の言葉に俺は空を見上げた。


「あー……まあ、次の相手がアレ・・だからなあ……」

「「「アレ・・……?」」」


 おっと、ついつい余計なことを呟いちまった。まあ、今さらか。


「ああ。この『第六十一門』を守護する政令ガイストは[混世魔王こんせいまおう]といって、[シン]と同じように【方術】を使う」

「「「っ!?」」」


 そう告げると、三人が息を飲んだ。


「で、では、まさに[シン]対[シン]のようなものか?」

「はは、まさか。【方術】とは言っても、[シン]が呪符を使うのに対して、[混世魔王]は剣を媒介に使うんです」

「「「剣を!? どうやって!?」」」


 三人が驚きの声を上げるが、俺が言えるのはここまで。


「あとは……[シン]、お前自身が確かめるんだ。これは、[シン]のための戦いなんだから」

『はう! 分かったのです!』


 そう言って[シン]を見ると、[シン]はビシッ、と敬礼ポーズをした。

 一応、『攻略サイト』によれば[混世魔王]は[シン]の兄妹きょうだい弟子という設定だからな。マスターである俺が[シン]に加担したと知れば、ひょっとしたら力を貸してくれなくなる可能性もあるし。


「着いたわヨ」


 島の桟橋さんばしに船をつけ、俺達は『第六十一門』の看板が掲げられた鳥居をくぐった。


『ははは……待っていたぞ! “妹”よ!』

『はう!?』


 舞台の中央で腕組みをしながら豪快に笑う、[混世魔王]の姿があった。

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