幕間
第297話 被験体
■藤堂サクヤ視点
「ふう……」
望月くんの言う“バベル”
できれば“バベル”
『今日、“バベル”
望月くんにそう言われてしまったら、全員それに従うしかない。
しかも、彼にあんな真剣なまなざしを見せられてしまっては、な……。
不安に思った私は、望月くんにそれとなく尋ねてみたが、彼は苦笑するばかりで一切教えてはくれなかった。
それが……私にはとても歯がゆい。
私は、彼のためなら何だってしてあげたいのに。
彼のためなら、何だってできるのに。
「……相変わらず、彼はやきもきさせてくれる」
とはいえ、彼があんな表情をするのは、私達を守ろうとしたり、想いに応えようとしたりする時だ。
つまり……彼はまた私達、あるいは誰かを救おうとしているんじゃないだろうか。
そしてそれは、サッカー部のマネージャー、“小森チユキ”が関係しているんだろう。
「おっと、時間だ」
そんなことをずっと思案していたら、いつの間にか研究所に行く時間になっていた。
いつもならこんな夜遅くに研究所に行くようなことはないんだが、お父様から珍しく呼び出しを受けてしまったのだ。
まあ、私としてもお父様に用事があったので、ちょうどよかったのだが。
私は右手の“エリネドの指輪”を外し、部屋を出る。
すると。
「お嬢様、研究所までお送りいたします」
部屋の前にいたカナエさんが、そう言って深々とお辞儀をした。
「む、研究所なら徒歩で向かうが……」
「いいえお嬢様、さすがに暗闇の中を女子高生一人だけで歩いて行かせるわけにはまいりません」
「いや、私には[関聖帝君]がいるから、万が一ということは……「望月様にこのことをお伝えしても?」」
カナエさんの申し出をやんわりと断ろうとしたら、逆にそんなことを言われてしまった……。
確かに望月くんが知ったら、絶対に叱られてしまうな。
「ふふ……そう言われてしまっては、従うしかないな」
「はい」
結局、私はカナエさんに研究所まで車で送ってもらった。
◇
「む、来たか」
研究所の
「お父様、このような時間から“ウルズの泥水”の供給を始めるなんて、珍しいですね」
「ああいや、サクヤを呼んだのはその件ではない」
? どういうことだ?
私がこの研究所に来る理由なんて、それ以外ないというのに。
「高坂くん、
「はい」
お父様の指示を受け、高坂さんが部屋から出て行く。
だが……
ま、まあ、その
「お父様……実は、お願いがあるのですが……」
「ん? なんだね?」
「先日お願いした“小森チユキ”の件についてですが、もう一人、“
「ほう……?」
お父様の視線が、鋭いものに変わる。
「はい……一―一の、“賀茂カズマ”を監視してください」
「その理由は?」
当然、お父様がそう尋ねるのも想定内だ。
なので、私はあらかじめ用意しておいた答えを告げる。
「もちろん、その“小森チユキ”の件に、その男が絡んでいるからです」
望月くんは彼を監視する理由について教えてはくれなかったが、小森チユキが賀茂カズマと一緒にいたことを考えれば、何らか関与していることくらいは分かる。
それに……去り際に見せた、小森チユキの瞳。
あれは、不安と私達を心配するかのような、そんな瞳だった。
「ふうむ……
意外だった。
さすがに、もっと色々と理由を聞かれると思ったのに、まさかこんなアッサリと受け入れてくれるなんて。
だけど、『やはり』とはどういう意味だ?
「……実は、“小森チユキ”の監視をしている“
「っ! そ、それは?」
「うむ……彼女の通話記録やスマホのメッセージの履歴を調べたところ、二学期に入ってから、ある特定の者とのやり取りが多くなっていたのだ」
「そ、それってもしかして!?」
「ああ……その相手が、“賀茂カズマ”だ」
やはり……望月くんの言う小森チユキの異変には、あの賀茂カズマが関与していたのか……!
「他にも、彼女は賀茂カズマとチームを組んで
お父様は顎に手を当てて思案すると、おもむろにポケットからスマホを取り出した。
「……ああ、私だ。悪いがアレイスター学園の一―一に所属する“賀茂カズマ”について、監視対象に加えてくれ……ああ、同じように身辺を徹底的に洗え」
おそらく、電話の相手は“GSMO《グスモ》”の職員だろう。やはり学園を守るとなれば、お父様の行動は早いな。
「お父様、ありがとうございます」
「ふふ……生徒の安全を守るのは、
そうですね……学園を守るのは、あそこがお母様との大切な
「所長、連れてきました」
「ああ、すまない」
お父様の指示を受けた高坂さんが、誰かを連れて戻ってき……っ!?
「こ、この男は……!」
「ああ、
そうか……確かにこの男が出てくるためには、こんな手段を取るしか方法はない、か……。
「……分かりました。お任せください」
「うむ。先程の件については、“
「ありがとうございます」
私はお父様に一礼をすると、そのまま部屋を出た。
だけど。
――ダンッ!
「……望月くんに、なんと伝えればいいんだ……!」
私は……私は……っ!
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