第296話 俺と同じ

「ええ……立花達も無事に封印を解除したみたいですね」


 俺と先輩は、目の前に現れた扉を見て頷き合った。


「それでヨーヘイ、“バベル”領域エリアにはこのまま入るノ?」

「いや、とりあえずは立花達が合流するのを待とう」


 尋ねるプラーミャにそう答えると、俺はスマホを取り出してメッセージを打ち込む。


「これでよし、と」


 立花達に一斉にメッセージを送り、スマホをポケットに戻そうとして。


 ――ピリリリリ。


「お、もう返事が返ってきた」


 もう一度スマホの画面を見ると。


『あれ? ボク達、まだ封印を解除してないよ?』

「え……?」


 立花のメッセージを見て、俺は思わず呆けてしまった。


「む、これはどういうことだ?」


 俺の隣でスマホを覗き込む先輩が呟く。

 でも、“バベル”領域エリアへの扉は、俺達の目の前に確かに出現しているわけで……。


「ネ、ネエ……これってつまり、立花サン達のほうの封印が既に解かれていタ、ってことですノ……?」


 扉を見やりながら、サンドラがおずおずと尋ねる。

 確かに、サンドラの言う通りかもしれない……いや、それしか考えられない。


 問題は、その封印を一体誰が解いたかってことだ。


「先輩……一応聞きますけど、この“バベル”領域エリアって、学園も“GSMOグスモ”も知らないですよね……?」

「ああ……少なくとも、私は聞いたことがない。望月くんが・・・・・把握している・・・・・・領域エリア以外は、益田市にあるものは全て網羅しているがな」


 つまり、この領域エリアの存在を知ってる奴はいないはず。

 この俺を除いては。


「偶然、誰かが意図しない形で封印を解いタ……それしか考えられないわネ……」


 プラーミャが神妙な面持ちでそう呟くが、その推測は間違ってる。


 一応、“バベル”領域エリアは俺が借りてきた図書館の本を読めば、その存在くらいは確認できるかもだが、封印は絶対に解けないんだ。

 だって封印を解くには、『ガイスト×レブナント』を一度はクリアしないと分からない内容なんだから。


「……とにかく、立花達がコッチに来るのを待とう」

「うむ……」


 俺達は、扉をぼんやりと眺めながら、ただ四人の合流を待ち続けた。


 心の中にくすぶる、得も言われぬ不快さを感じながら。


 ◇


「ア、来たんじゃないかしラ」


 プラーミャが指差す方向へと視線を向けると、太陽が落ちて辺りが薄暗くなる中、遠くに四人の人影が見えた。


「ふむ……暗くてよく分からないが、見る限りうちの学園の制服のようだから、おそらく間違いないだろう」

「ですわネ」


 先輩とサンドラがそう言いながら頷く。

 だけど……ちょっとおかしくないか?


 立花達のチームは、立花、加隈、土御門さん、そして氷室先輩の四人だ。

 なのに、見える人影の制服から判断すれば、男一人に女三人。


 つまり。


「先輩、サンドラ、プラーミャ……気をつけろ」

「「「っ!?」」」


 俺は敬語も忘れてそう告げると、先輩達は一瞬息を飲んだ後、すぐさま身構えた。


「[シン]」

『はう……いつでも行けるのです』


 さあ……姿を現わ……っ!?


「ん? ひょっとして、望月か?」


 暗がりの中、街灯にさらされて現れたのは、賀茂だった。


「賀茂……どうしてここに?」

「オレ? いや、実は図書館で見つけた本を調べたら、ここに古代の隠し領域エリアがあることが分かったんでな。それならと、仲間達・・・と一緒に探しに来たんだ」

「へえ……」


 仲間、ねえ。

 よく見ると、この前ルフランで会った大谷カスミ達とも違う女子をはべらせてやがるな。

 これが前に言ってた、『領域エリアに応じてメンバーを入れ替える』ってヤツか。


 だけど……俺はこの女子達知っている。

 なにせ、三人共『ガイスト×レブナント』のヒロインだからな。


 それに。


「あ、小森先輩」

「っ!?」


 俺は賀茂のチームの中にコソコソと混じっていた、小森先輩にわざとらしく声をかけた。


「……望月、小森先輩を知ってるのか?」

「ん? おお、生徒会の関係でサッカー部に行った時に、チョット・・・・な」


 低い声で尋ねる賀茂に、俺ははぐらかすようにヘラヘラしながら答えた、


「まあいいや。それで賀茂、お前の言う隠し領域エリアっての、俺達も見たいんだけどいいか?」

「……いや、今日は下見だけだから、もう帰る」

「あっそ」

「みんな、行こうか」


 手をヒラヒラさせる俺を一瞥いちべつすると、賀茂はヒロイン達を連れて去って行く。

 そんな中、小森先輩が一度だけこちらへと振り返ると、不安と、まるで俺達を心配するかのような、そんな表情を浮かべていた。


「ふうん……そういうことかよ」


 この件で、今までのことが色々と繋がった。


 どうして、メイザース学園との交流戦でクラス代表になれたのか。

 どうして、主人公用のパラメータアップのアイテムを持っていたのか。

 どうして、チームの仲間が全員、ゲームのヒロインなのか。


 つまり……賀茂も、俺と同じ・・・・ってわけか。


「も、望月くん……」

「「ヨーヘイ……」」


 見ると、先輩とサンドラばかりか、プラーミャまで心配そうに俺を見ていた。


「先輩……例の小森先輩の件ですけど、それだけじゃなくて賀茂についても調査と監視をお願いしていいですか?」

「む……そ、それは構わないが……そうか、君はそう睨んだんだな・・・・・・・・?」


 先輩の問い掛けに、俺は無言で頷く。


 賀茂……俺達と関係のないところで、オマエがヒロイン達とよろしくやる分には、何も言うつもりはない。

 だけど、オマエがもし、アレ・・で得た知識を悪用しているんなら……俺の大切な人達を巻き込むってんなら、俺は黙っちゃいない。


 だから、その時は。


 ――俺が、オマエを叩き潰す!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る