第298話 大切な家族
■藤堂マサシゲ視点
『ご主人様。お嬢様は無事、お帰りになられました』
「そうか……ありがとう……」
そう報告するお手伝いさんの“
『いえ……ご主人様も、ご無理なさらないよう……』
「ああ……」
私は短く返事をした後、通話を切った。
ふ……私がこうやって研究に専念できるのも、神直さんがサクヤの面倒を見てくれているおかげ、だからな。本当にありがたい。
「へえ……所長がそんな表情を浮かべるなんて、珍しいですね」
「む……そ、そうか……?」
高坂くんに指摘され、私は思わず顔をしかめた。
だが……その指摘も、あながち間違いではないがな。
思えば、彼女がうちの家にお手伝いとして来てくれたのは、ツクヨを亡くして失意のどん底にいた五年前だったな。
これまでもお手伝いは何人か来てくれたが、ここまで長く、そしてサクヤのことを気にかけてくれたお手伝いは他にいない。
本当に……感謝しかない。
「それで、サクヤさんの
「聞いていたのか?」
「すいません、聞くつもりはなかったのですが、真剣に話をされているお二人を見て、つい……」
そう言うと、高坂くんは苦笑した。
「ふう……まあ、サクヤも生徒会長だし、同級生の女子生徒の身を案じる気持ちも分かるしな。それに……」
「それに?」
「……サクヤの言う通り、不審な点が多すぎる」
そうなのだ。
サクヤにも言ったが、小森チユキは賀茂カズマとばかりやり取りをしていて、他の生徒達との通話記録などがほとんど見られなかった。
一学期の頃は、同じサッカー部の部員達と、マメに連絡をしていたのに。
「ふう……所長も大変ですね。ここの研究と陣頭指揮に加えて、学園長の仕事もだなんて……」
「ふふ、仕方あるまい。あのアレイスター学園は、私とツクヨの
「
そう……私とツクヨが、未来にはばたく
そのおかげで、今ではメイザース学園をはじめとして各地で
「そういえば、“
「さすがによく知ってるな。まあ、君ともかれこれ十年以上の付き合いなのだから、当然といえば当然か」
ただ、高坂くんの場合は、最初は私の弟子ではなくてツクヨの弟子だったのだがな。
「ハハ……まあ、私に手伝えることがあれば何でも言ってください。何でしたら、サクヤさんの面倒も……「駄目に決まっているだろう」……ですよね……」
全く……高坂くんはもう三十二歳だろう。十七歳のサクヤと釣り合うわけがない。
……いや、そもそもサクヤをどこの馬の骨とも分からん男に渡すつもりなど毛頭ないのだからな。
特に、“望月ヨーヘイ”くんには。
た、確かに彼は、“
だが! そんなこと程度で私がサクヤとの仲を認めるなど、あり得ないのだ!
「しょ、所長! お、落ち着いてください!」
「む……?」
おっと、怒りのあまり興奮してしまっていたようだな……。
「コホン……とにかく、サクヤの提案に関しては早急に手を打った。
「分かりました。唯一の成功例である彼を分析し、さらなる
「うむ」
本当に、今回の一件で彼を手に入れることができたのは
あとは、ツクヨが戻ってくる前に、
だが、いずれ私とツクヨでそれを実現し、愛するサクヤにその後を引き継いで……。
「所長?」
「ん? ああいや、何でもない」
ふふ……どうやらツクヨとサクヤとの未来を考えていたら、思わず笑っていたようだ。
まあ、私は今できる精一杯をしようではないか。
私とツクヨの、理想のために。
大切な
「……では高坂くん、あとは任せたぞ」
「はい」
私はそう言い残し、部屋を後にする。
「…………………………ププ」
――笑いを吹き出しそうになっている、高坂くんに気づかないまま。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます