第10話 第一歩
扉の向こう側は、心が奪われそうになるほど神秘的な空間だった。
熟した実のなる木々が立ち並び、清らかな水が流れる小川、今まで見たことがないような美しい花……。
大理石で建てられた純白の神殿もあり、ここはまさに“
「ここに、
俺はそう呟くが、実は、俺的にはその真のラスボスを倒すつもりはこれっぽっちもない。
あの『まとめサイト』によると、元々この
なので、この
つまり……最終決戦の桐崎先輩クラスが
「……絶対に見つからないように、慎重に行くぞ」
『……(コクリ)』
俺の言葉に、[ゴブ美]が緊張した様子で頷いた。
俺達は、『まとめサイト』のマップの通り進む。
少しだけ遠回りになるが、このルートなら敵に遭遇せずに目的の場所にたどり着けるらしい。というか、俺が頭の中で何度もシミュレーションして導き出したものだ。
「大丈夫だよ、[ゴブ美]。絶対に上手くいくはずだから」
俺は[ゴブ美]にそう言いながら、ゆっくりと進んで行く。
……いや、今のは自分に言い聞かせただけだな。
「っ!?」
十字路に差し掛かり、通路の向こうに彫刻の女性像のような姿をした
でも、実際の能力は圧倒的で、先輩の[関聖帝君]が可愛く見えるほど……といっても、[関聖帝君]はそもそも可愛いんだけど。
とはいえ。
「これも『まとめサイト』の通り、だな」
もちろん、ここに
当然、そのやり過ごし方も。
「[ゴブ美]……今、あの
『(コクコク!)』
俺達は唾を飲み込み、通路の陰からジッと
「っ! 今だ!」
一気に走り切ると、すぐに
「ふう……どうやら上手くいったみたいだな」
深い息を吐いて安堵すると、俺は[ゴブ美]とハイタッチする。
ここから先は、もう
俺達は引き続き慎重に進んで行き、そして。
「着いた……!」
そこは、通路の行き止まりだった。
だけど、ここにこそ
「さて……それじゃ」
俺は行き止まりの壁へと向かって、床を丁寧に確認しながら進む。
――カチリ。
「……ここか」
床がほんのわずかに沈み込むと、目の前に古ぼけた木箱が現れた。
俺はヒューズボックスからあらかじめ入れておいた拳大の石を取り出し、沈み込んだ床に置いた。
「さあ……目的の物が入っていてくれよ……!」
木箱の前に立ち、俺はおそるおそる木箱の蓋を取ると。
「おお……!」
『……!』
中には、俺達が求めていた物……“疾走丸”が入っていた。
“疾走丸”は、
といっても、疾風丸自体は珍しいものでもなく、初心者用の
だけど、俺達にとってはここで入手することに意味があるんだ。
「[ゴブ美]」
『……(コクリ)』
名前を呼ぶと[ゴブ美]は頷き、木箱から疾走丸をつまむと、それを口に入れて飲み込んだ。
「どうだ……?」
俺はおそるおそる[ゴブ美]に尋ねる。
すると……[ゴブ美]は舌を出しながら顔をしかめた。
どうやら疾走丸は思いのほか不味いみたいだ……って、そういうことじゃなくて!
「俺が聞きたいのは、どこか身体に変化とかはないかってことだよ!」
そう言うと、[ゴブ美]は確かめるように身体を動かしてみるが、あまり変わっていないのか、[ゴブ美]は首を傾げて肩を竦めた。
「まあ……
俺は少しだけ落胆する。
でも、俺達にはもう、これしか残されていないんだ。
ということで。
「よし。[ゴブ美]、急いでこの
『(コクリ)』
俺達は来た道を戻り、例の
「け、結構疲れたなあ……」
俺は膝に手を置き、少し肩を落とした。
いや、既に初心者用の
でも。
「さーて……もう一回、“ぱらいそ”
『! (フルフル)』
[ゴブ美]は俺の前に立ち、両手を広げてかぶりを振った。
「……なんだよ、ひょっとして俺の身体を気遣ってくれてるのか?」
『…………………………(コクリ)』
どうやらそういうことらしい。
「ハハ、ありがとな。でも、ここで手を抜く訳にはいかないんだ。俺と[ゴブ美]が強くなるために。だから、さ」
『…………………………』
そう言って[ゴブ美]の頭を撫でてやると、[ゴブ美]は渋々と言った表情で両手を下ろした。
「さあ、もう一回行くぞ」
『……(コクリ)』
俺とゴブ美は扉をくぐり、またあの行き止まりへと向かうと、そこには一回目の時と変わらず木箱が置かれていた。
「よし!」
それを見て、俺は思わずガッツポーズをする。
何故なら、これこそが俺達が強くなるための必須条件なのだから。
木箱の傍に駆け寄って俺は蓋を開けると、中には
「『まとめサイト』の通り、だったな……」
あの『まとめサイト』に書かれていた内容。
それは……ゲームのバグで、床の仕掛けを踏み込んだままにしておいて
とはいえ、疾走丸の効果自体が大したものでもなく、しかも初心者用の
でも。
「……それでも、俺達にとっては唯一の可能性なんだ」
たとえ疾走丸をいくつも飲んでも、強化できるステータスは『敏捷』だけしかない。
だけど、たった一つだけでも、主人公を超えることができるんだ。
「さあ、[ゴブ美]」
『(コクリ!)』
[ゴブ美]が今日二つ目となる疾走丸を飲み込む。
俺達は今日、強くなるための第一歩を踏み出したんだ。
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