第103話 連携、崩壊

 立花と遊んだ日曜日から五日後の金曜日。

 今日、プラーミャと立花、加隈が“グラハム塔”領域エリアの踏破を目指す。


「ふふ、三人とも準備はいいか?」

「「はい!」」

ハイダー!」


 まあ、立花も加隈も“グラハム塔”領域エリアの踏破の目安となるレベル三十を超えたし、プラーミャに関しては“アルカトラズ領域エリアや”アトランティス“領域エリアに一緒に攻略に行けるほどの実力もレベルもある……って、そういえば。


「プラーミャ、お前はクラスチェンジしないのか?」

「? 精霊ガイストノ?」

「そう」


 だって、[イリヤー]のレベルはとっくに四十を超えてるし、闇落ちイベントも終わったから、既にクラスチェンジのための条件はクリアしているはずだからな。


「それガ……まだヤーはクラスチェンジの条件を満たしていないみたいなノ」

「ええ!? そうなの!?」


 プラーミャから返ってきた意外な答えに、俺は思わず驚きの声を上げた。

 いや、だって、主要キャラのクラスチェンジの条件は、みんな同じはずだろ?

 アレか? プラーミャは主要キャラじゃないから、条件が違うのか?


「マア、レベルも四十以上あるし、そのうち条件クリアするでショ」


 どうやらさほど気にしていないプラーミャは、のんきにそう言った。

 ま、まあ、ちょっと俺も家に帰ったら、『まとめサイト』で調べてみるか……。


「さあ! 行って来い!」

「プラーミャ! 頑張っテ!」

「立花も加隈も無理するなよー!」


 俺、先輩、サンドラは、“グラハム塔”領域エリアの扉をくぐる三人の背中に向け、激励を送った。


「さて……彼等が踏破して戻ってくるまで、早くて三時間というところか」

「ですねー……」


 先輩の言葉に、俺は気の抜けた返事を返す。

 三時間かあ……暇だなー……って。


「? サンドラ?」


 見ると、サンドラがコソコソと領域 エリアの扉へと近づいてる……。


「む……サンドラ、気になるのは分かるが、あとは三人に任せるんだ」

「そ、そうですけド……」


 先輩にたしなめられ、サンドラがすごすごとこちらに戻って来る。

 でも、確かにサンドラの気持ちはよく分かる。だって、ここに至るまで色々やらかした問題児だからな。しかも三人共。

 アレ? 俺も不安でしょうがなくなってきたぞ?


「せ、先輩、ちょっと俺、様子見てきていいですか?」

「むむ、君までそんなことを言うのか」


 先輩にちょっとすごまれ、俺は思わず腰が引ける。

 というか先輩、ひょっとして【威圧】スキル使ってます?


「で、ですけど、あの三人のこれまでの行動を思い返してみてくださいよ。最近は連携が取れるようになったとはいえ、その前を知ってますから……」

「むむむむむ……!」


 そう言うと、先輩も思うところがあるのか、腕組みをして唸り声を上げた。ですよね?


「……仕方ない。コッソリと後をつけるぞ」

「「! はい!」」


 眉根を寄せながら渋々了承した先輩に、俺とサンドラは嬉しそうに返事した。

 そして先輩も、結局一緒に行くんですね。


 ということで、俺達も“グラハム塔”領域エリアの扉をくぐり、中に入る。


「さて……彼等はどこまで行っただろうか」

「そうですねー、あれからまだ三十分くらいしか経ってませんし、精々第十階層辺りにいそうですね」

「そうですわネ」


 俺達は幽鬼レブナントを倒しながら、領域エリア内を進んで行くと。


「あ、いました」


 ちょうど第十五階層に来たところで、幽鬼レブナントを一方的に蹂躙じゅうりんするプラーミャの姿が見えた。

 で、立花と加隈はというと……立花は興味なしといった様子で、全然違う方向を向いてるし、加隈は加隈で、プラーミャの圧倒的な姿に若干引いてるみたいだな。


「これ……チームとして成立してないじゃん……」

「ですわネ……」


 多分、この時の俺とサンドラはものすごく呆れた表情を浮かべてたと思う。

 というか、ここ最近のあの連携はなんだったんだよ!?


「ま、まあ、まだ領域エリアの四分の一しか来ていないのだ。この後、三人の連携もいつも通りよくなるはずだ……………………多分」


 先輩、語尾に余計な単語がついてますよ。

 とにかく、三人に口を出すわけにもいかないので、俺達はそのまま静かに見守っていた。


 ◇


「……もうイヤだ」


 俺は両手で顔を覆い、思わず涙ぐむ。

 いや、だって、あれからプラーミャ達の人間関係は一切改善されないまま、とうとう第五十九階層まで来ちまったんだぞ!? 普通、少しは友情が芽生えたりとか色々あるだろ! 『ガイスト×レブナント』はジュブナイル・・・・・・学園ファンタジーRPGじゃないのかよ!


「も、望月くん、そのー……まあ、気を落とすな」

「うう……先輩……!」


 先輩はただ、俺の肩を優しく叩いた。

 そのせいで俺の涙腺は決壊寸前だ。


「プラーミャ……まさかここまでコミュ力が欠如しているなんテ……」


 サンドラもサンドラで、愕然とした表情を浮かべている。その気持ち、よく分かる。


 そんな中。


「何してんだよ! こんな調子で領域エリアボスが倒せんのかよ!」


 ただ一人、加隈が気勢を上げて二人を叱咤しったする。

 加隈よ……お前、立派になったなあ……なのに!


「そんなノ、ヤー一人で充分に決まってるじゃなイ」

「キミには無理だね」


 チクショウ! お前等空気読めよ! 歩み寄ってやれよ!


「モウヤダ……」


 見ろ! とうとう加隈の奴がいじけちまったじゃねーか!


 そんな三人は、俺達に見守られながら、最後の第六十階層へと階段を昇って行った。

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