第104話 及第点以下
「望月くん、サンドラ……もう、ここまで来たんだ。最後まで見届けよう……」
桐崎先輩が、うなだれる俺とサンドラに優しく話しかける。
そうだ、な……もう、これでラストだもんな……。
「……はい」
俺は心を奮い立たせ、無理やり顔を上げた。
「サンドラ……」
「エエ……そうですわネ……」
ポン、とサンドラの肩を叩くと、サンドラも顔を上げ、第六十階層へと続く階段を見据えた。
「さあ、行こう」
「「はい」」
俺達は、階段を昇り、第六十階層へとたどり着く。
すると。
「フフフ……この
「この
「チクショウ! もうどうにでもなれ!」
プラーミャは
そして加隈は、もう二人との関係構築を諦め、震える身体を奮い立たせていた。うん、可哀想。
だけど。
「……あの
「うむ……そうだな……」
俺の言葉に、先輩が完全同意してくれた。
ハア……プラーミャはいいとして、あのだだっ広い
でも、少なくともアイツ等全員を連れて行くよりはマシだ。
特に立花……アイツ、なんであそこまで協調性がないんだよ。
全く、俺の指示には素直に従うのになあ……。
「食らいなさイ! 【
「これで終わりだ! 【竜の息吹】!」
プラーミャと立花が、
だけど。
「っ!? 加隈!?」
マズイ!? あれじゃ、[トリックスター]が立花の【竜の息吹】の斜線に入ってしまってるぞ!?
立花は……アイツ、気づいていない!?
俺はなりふり構わず、三人と
「先輩!?」
「まあ待て、よく見てみるんだ」
先輩に止められて振り返ると、何故か先輩は口の端を持ち上げていた。
一体どういうことだ!? 今まさに、加隈が危ない目に遭おうとしてるのに……!
俺はもう一度加隈を見ると……あ。
加隈の[トリックスター]は、突然その姿を消し、いつの間にかプラーミャの背後にいた。
あれは……アイツのスキル、【バニッシュ】か!
そして、[イリヤー]の【
『ッ!? グガガガガゲゲゲゲッッ!?』
タロースは断末魔の叫び声を上げ、その身体を幽子とマテリアルに変えた。
「……望月くん、行こう」
「はい……」
先輩に促され、俺達は三人に気づかれないように
だけど……今回のあの三人の踏破は、とても及第点と言えるものじゃない。それは先輩も当然分かっていて。
「……っ!」
先輩は眉を寄せながら、ギリ、と歯噛みしていた。
◇
「望月くん! ボク、“グラハム塔”
三人は扉から出てくると、先に
「ああ……確かに三人は
「えへへ! そう……っ!?」
俺の……いや、俺達の様子がおかしいことに気がついた立花は、嬉しそうな様子から一転、不安そうな表情を浮かべた。
「三人共、はっきり言おう。確かに踏破はしたが、これでは及第点はやれん」
「「「っ!?」」」
先輩の辛辣な一言に、三人が一斉に息を飲む。
「ど、どうしてですか!
「それだ。そもそも、私は
「……っ!」
先輩に指摘され、立花は唇を噛む。
「かろうじて、プラーミャと加隈くんはその点に関して及第点と言えるが、それでもチームとして動いている以上、連帯責任だからな」
「っ! そんなのおかしい! この二人だって、好き勝手にやってたんだ! なのにボクだけ……!」
「いや、先輩の言う通りだぞ」
「望月くんまで!?」
俺が先輩の説明に同意したのが意外だったのか、立花は目を見開いて俺を見た。
「実は、俺達は三人の後をつけて陰で様子を見ていたんだ。確かにプラーミャは独断専行が過ぎる
「ほら! やっぱりそう……「だけど」」
俺は嬉しそうに相槌を打とうとした立花の言葉を遮る。
「それでも、プラーミャが攻撃を仕掛ける時は二人が斜線に入らないようにしていたし、
「…………………………」
「加隈だってそうだ。道中、常に声を出してチームを鼓舞していたし、なんだかんだで二人のサポート役に徹している部分もあった」
「だけど! 彼は全く役に立って……「それ以上に」」
叫ぶ立花の言葉を、俺はもう一度遮った。
大切なことを伝えるために……俺はあえて辛辣な言葉を告げよう。
「立花、お前は一番やっちゃいけないことをした。あろうことか、お前は
「あ……」
「あの時は、加隈が【バニッシュ】でプラーミャの後ろに移動していたから事なきを得たけど、一歩間違っていたら、加隈は大怪我をしていた」
ここまで言えば、立花だって分かるだろう。
いかに、自分が危険な行為をしていたか……先輩が及第点以下だと言った意味が。
「……ねえ、望月くん。ボク達って、
「お、おお」
立花が急に思いつめたような表情でそう尋ねるので、俺は少し面喰いつつも首肯した。
「あは……よかった」
「立花? お、おいっ!?」
立花は寂しそうに微笑むと、この場を立ち去っていく。
俺はそんな立花を引き留めようとすると。
――ポン。
「っ! 先輩?」
「……彼にも落ち着いて考える時間も必要だろう」
「だけど……俺、アイツにキツいこと言ったから……」
「いや、君はとても大切なことを言ったんだ。だから、気に病む必要はない」
そう言うと、先輩はニコリ、と微笑んだ。
「あとは……彼自身が気づいてくれるのを待とう」
「……はい」
俺はそう返事すると、遠ざかる立花の背中を眺めた。
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