第105話 領域ボスの出現条件

 プラーミャ達が“グラハム塔”領域エリアを攻略してから、一週間が経った。


「よう、立花」

「あ……うん……」


 朝の教室にやって来た立花に挨拶すると、よそよそしい態度を見せては、俺から離れるように自分の席に着いた。

 とまあこんな感じで、俺と立花は今ではほとんど会話がなくなってしまった。それまでは、あんなにべったりとくっついて来ていたのに、だ。


 まあ、一抹の寂しさはあるものの、そもそも男にくっつかれても俺的に需要はないので別にいいんだけど。

 その代わり。


「オッス! 望月!」

「帰れ」

「なんでだよ!?」


 とまあこんな感じで、朝とか休み時間になるたびに、加隈の奴がうちのクラスにやってくるようになった。正直鬱陶うっとうしい。

 ……まあ、俺の代わりにクソザコモブ設定にさせられたからって考えたら、あんまり無下にもできないんだけど。


「それで、こんな朝っぱらコッチに来てどうしたんだ?」

「おお! それそれ! いや、一応俺も“グラハム塔”領域エリアを踏破しただろ? だから、そろそろに進んだほうがいいんじゃないかと思ってな!」


 ? コイツの言ってる意味が良く分からん。


「なんだよ、そのっていうのは」

「だからよ! 今度は“カタコンベ”領域エリアを攻略するのがいいんじゃねーかと思ってさ! お前を誘いに来たんだよ!」

「断る」

「なんでだよ!?」


 当たり前だろ。俺は今、“アトランティス”領域エリア……いや、“レムリア”領域エリアの攻略で忙しいんだ。

 オマケに、立花を筆頭に“グラハム塔”領域エリアでやらかしたせいで、あてにしてたお前達との共同での攻略が叶わなくなったんだぞ? あのだだっ広い領域エリアの攻略がどれだけ大変だと思ってんだよ。


「とにかく! “カタコンベ”領域エリアの攻略は当分しない! オーケー?」

「チクショウ……せっかくやる気出したのによー……」

「だったら、“グラハム塔”領域エリアでもっとレベル上げろ。せめて、レベルが四十以上になったら考えてやる」

「ホントか!」


 条件を出してやると、加隈が嬉しそうな表情を浮かべた。

 というか、どんだけ俺達と一緒に“カタコンベ”領域エリアに行きたいんだよ。


 ――キーンコーン。


「ホラ、朝のチャイムが鳴ったぞ。はよ帰れ」

「お、おう! んじゃ、絶対だからな!」


 そう言って、加隈はゴキゲンで自分の教室に帰って行った。


「ふう……」


 まあでも、アイツがレベル四十になれば、最低限“レムリア”領域エリアを一緒に攻略できるようになるからな。


「フフ……素直じゃありませんわネ」

「うあ!? ……って、サンドラ、聞いてたのかよ」


 いつの間にか、俺の後ろに笑顔のサンドラがいた。


「エエ。といっても、あとは彼次第でしょうけド」

「まあな」


 そう言って、俺とサンドラは微笑み合った。


 ◇


「アー! モウ! この領域エリア、なんでこんなに広いのヨ!」


 放課後、俺達はいつものように“レムリア”領域エリアに来ているわけだけど、一向に攻略が終わらない状況に、とうとうプラーミャがキレた。


「落ち着け、プラーミャ。それでも少しずつではあるが、前に進んではいるのだ」

「アウウ……」


 桐崎先輩にたしなめられ、プラーミャは押し黙った。


「デモ……プラーミャの言う通り、このままではいつまでたっても踏破できませんワ……」

「まあな……」


 サンドラの言葉にも一理ある。

 この“レムリア”領域エリア、“アトランティス”領域エリアと同じく広大であるばかりか、無数に建物があるせいで思うように進めない上に、領域エリアボスの出現条件が特殊なのだ。

 というのも、ここの領域エリアボス、“ベレヌス”は、領域エリア内に点在する塔から四つの鍵を入手すると、鍵が自動的に中央の階段付近にあるみすぼらしい建物に飛んでいって扉を解錠するらしい。

 そして、ベレヌスはそれによって初めてその姿を現す。


 一応、『まとめサイト』によれば、チームを二手に分けるイベントが発生して、その四つの鍵のうち二つを取りに行くことになるらしいんだけど……うん、俺達はこの四人しかいないからチーム分けなんて無理。


「……とりあえず、あの塔を攻略して今日は終わりにしよう」

「うむ……そうだな」


 先輩が頷き、俺の言葉に同意を示す。


「だけド、あの塔……また、あの・・幽鬼レブナントが出てくるのかしラ……」

「そうだろうな」


 サンドラの言う幽鬼レブナントというのは、四つの鍵をそれぞれ守護する塔の番人のようなものだ。

 俺達は、既に一つ目の塔の幽鬼レブナント、“ミソロジカル”を倒し、鍵を一つ手に入れている。


 ということで、二つ目の塔にたどり着いた俺達は、早速中へと入る。

 すると、塔の遥か上の天井から一筋の光が中央の台座を照らしていた。


 それこそ、俺達が求める二つ目の鍵だった。


「ふふ、ということは……」

「ええ……来ます!」


 上から、金属の歯車をくわえた巨大なカラスが舞い降りてきた。

 これこそ、二つ目の鍵を守護する幽鬼レブナント、“アレスター”だ。


「[シン]!」

『ハイなのです!』


 俺の合図とともに、誰よりも早く[シン]が飛び出すと、アレスターに肉薄する。

 それを見たアレスターは、羽ばたいて高く昇っていく。


「[シン]! 奴は急降下して一気に攻撃を仕掛ける気だ!」

『大丈夫なのです! そんなこと、させないのです! 【神行法・跳】!』


 そう言うと、[シン]は地面を大きく蹴り、逃がさないとばかりにアレスターを追い詰めていく。


 そして。


『とらえたのです! 【縛】!』


 アレスターの翼に呪符を二枚、素早く貼り付けると、アレスターは身動きが取れずそのまま落下してくる。


「みんな!」

「任せろ! [関聖帝君]!」

『(コクリ!)』


 俺の言葉にいち早く反応した先輩の[関聖帝君]は、青龍偃月えんげつ刀を下段に構えた。


「食らええええええええええええええッッッ!」

『ッ!?』


 [関聖帝君]はその青龍偃月刀を真上へとかち上げ、【一刀両断】によってアレスターの胴体を真っ二つにした。

 アレスターは、断末魔の叫びすら上げる暇もないまま、幽子とマテリアルへとその姿を変えた。


「フン!」


 先輩は鼻を鳴らしてついさっきまでアレスターだったマテリアルを一瞥する。


「先輩、お見事です」

「ふふ、何を言う。その前に[シン]が幽鬼レブナントの動きを止めていたからだ。それより」

「先輩! バッチリ手に入れましたわヨ!」


 いつの間にか台座にいるサンドラが、二つ目の鍵を嬉しそうに掲げた。


「これで二つ目、かあ……」


 そう呟くと、俺はまだ半分でしかない事実に、つい肩を落とした。

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