第386話 天罡星④

『はう! マスター、次の相手はどんな精霊ガイストなのですか?』


 『第二十四門』を守護する精霊ガイスト、[没遮攔ぼつしゃらん]を無事に仲間にして次への守護者の元へと向かっている途中、[シン]が元気よく手を挙げて尋ねる。


「ああ、次の『第二十三門』は[九紋龍くもんりゅう]と言ってな。百七人の精霊ガイストの中でも短気で向こう見ずな性格らしいぞ」

『はうはう……なんだか不安でしかないのです……』


 そう言うと、[シン]は俯いてしまった。


「はは、だがその強さは百七人の中でもかなりのものらしいし、味方にすれば心強いことは間違いないって」

『はうー……そもそも[シン]には、マスターがいれば充分なのです……』


 コノヤロウ、可愛いこというなあ……。


『はう!?』

「はは……そうかもしれないけど、俺は[シン]がますます強くなってくれるほうが嬉しいぞ? そうすれば、それだけ[シン]が傷ついたりしないってことだからな」

「えへへー……なのです」


[シン]の頭を撫で、微笑みながらそう告げると、[シン]は嬉しそうに目を細めた。


「ふふ……どうやら次の島が見えたぞ」


 そんな俺達を微笑ましそうに見つめていたサクヤさんが、前方の島を指差した。

 はは……さあて、行くか!


 ◇


『フン……こんなチビ助が、この俺様の相手かよ』


 そう言って、全身に龍の刺青いれずみを入れた精霊ガイスト、[九紋龍]が鼻を鳴らした。


『はう! 馬鹿にするなです! オマエなんか、[シン]にかかれば圧勝なのです! 瞬殺なのです!』

『ハッ! おもしれえ! やれるもんならやってみな!』

『ぐぬぬぬぬ……!』


 お互いのおでこを突き合わせ、歯ぎしりしながら睨み合う二人。いや、子どもかよ……。


『おい! オマエ! このチビが痛い目に遭っても、文句言いやがるんじゃねえぞ!』

「はは……ああ、言わないとも」


 こちらを指差してすごむ[九紋龍]に、俺は思わず苦笑した。

 だけど……お前じゃ[シン]を痛い目に遭わせることはできないよ。


 だって、俺の[シン]は史上最速・・・・なんだから。


『おっしゃ! かかってきやがれ!』

『はう! 行くのです!』


 両刃の三尖刀さんせんとうを構えて気勢を上げる[九紋龍]に、[シン]が一直線に向かって行く。


『ハハッ! やっぱりコイツ馬鹿だぜ! そんなモン、俺に倒してくださいって言ってるようなモンだろ!』


[九紋龍]は三尖刀さんせんとうの先を連続して繰り出す。そのあまりの速さに、穂先が残像となって無数に見えた。


「……まるデ、ヤーの【絨毯じゅうたん爆撃】みたいネ……」

「ああ、そうだな」

「マ、だったらアイツじゃやられるのがオチネ」


 そう言って、プラーミャは肩を竦めた。


「クク……どうしてそう言い切れるのだ?」

「アー……アンタは知らないのよネ。ヤーの[スヴァローグ]は、一度[シン]に【絨毯じゅうたん爆撃】を全弾かわされたのヨ」


 そうだったな……あれは、メイザース学園との対抗戦前のクラス代表決定戦で戦った時だっけ。

 正直、あの戦いは紙一重だったのを覚えてる。


「ム……ナニヨ」

「いや、別に」


 その時のことを思い出してクスリ、と笑っていると、プラーミャが口を尖らせながらジロリ、と睨んだ。

 おっと、[シン]の戦いに集中するか。


『っ!? かわしただと!?』

『はう! 取ったのです!』


 案の定[シン]は[九紋龍]の三尖刀の連撃を全てすり抜け、その背後に回ってペタリ、と呪符を貼り付けた。


『食らえ! なのです! 【爆】! 【雷】……っ!?』

『はは! 甘えッッッ!』


 すると[九紋龍]の身体に刻まれた刺青いれずみの九つの龍が具現化し、呪符を食い破って一斉に[シン]へと襲い掛かってきた。


『はう……ならッッッ!』


 それでも[シン]はその龍一体一体の眉間に呪符を貼り付けると。


『蛇は蛇らしく、大人しく冬眠してるのです! 【凍】!』


 九つの龍は、たちまち凍ってしまった。


『ちいっ! コノヤロッ!』

『遅い! 【爆】!』

『ぐはッッッ!?』


 まずいと思ったのか、[九紋龍]は振り向きざまに三尖刀さんせんとうを振り下ろすが、それよりも先に[シン]が呪符を貼り付け、その全身を爆破した。


『い、いててて……っ!?』

『……まだやるですか?』


 もんどり打って倒れた[九紋龍]が状態を起こした瞬間、[シン]が呪符を額にペタリ、と貼り付けてすごんだ。


『……チクショウ。次は・・覚えてやがれ』


 プイ、と顔を背け、口を尖らせながら[九紋龍]はそう告げると、『微』と記された宝珠となって[シン]の身体の中へと入っていった。


『次って……まだあるのですか……』


 そう言って、[シン]は深く溜息を吐いた。


「はは、さすがの[シン]も、[九紋龍]が相手じゃ大変だったか?」

『はう! 大変というより、相手をするのがメンドクサイのです! あれじゃ駄々っ子と一緒なのです!』


 駆け寄ってそう告げると、[シン]は顔をしかめながら答えた。

 はは……子どもの[シン]にすら子ども扱いされる[九紋龍]って一体……。


 そうして俺達は、次の『第二十二門』へと向かった、んだけど……。


「……誰もいない」


 そこには、いるはずの守護者、[黒旋風こくせんぷう]の姿がなかった。

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