第385話 天罡星③

『ガハハハハ! あっという間に三人も戦闘不能にしちまうたあ、やるじゃねえか!』

『まだまだ! これからなのです!』


 そう叫ぶと、[シン]はまた[混江龍]へと突撃していった。


『はうはう! 【神行法・転】!』


[混江龍]のすぐ隣にいた精霊ガイスト……ええと、[活閻羅かつえんら]、いや、コイツは[立地太歳りっちたいさい]か? ああもう、ややこしい! とにかく、[シン]は一瞬にしてソイツと体を入れ替え、[混江龍]の背後をついた。


『はう! これで……っ!?』

『ガハハハハ! 甘えッッッ! 【霜鋒そうほう!】!』


 クルリ、と振り返った[混江龍]は、結晶のようにきらめく宝剣をその右手に出現させると、[シン]へ向けて横薙ぎに払った。

 その動きに……[シン]を倒すことに、一切の躊躇ちゅうちょもなく。


『クッ! 【神行法・瞬】!』


 だけど[シン]も、【神行法・瞬】で一瞬にして距離を置き、また正面で対峙する。


「……やっぱり[混江龍]は一筋縄ではいかない、か……」


 そんな二人の様子を見ながら、俺はポツリ、と呟いた。


「む……ヨーヘイくん、それはどういう意味だ?」

「ええ……早い話、他の百六の精霊ガイストとは違い、この[混江龍]は決して[シン]の力になろうと戦っているわけではないってことです」

「っ!?」


 俺の答えに、サクヤさんが息を飲んだ。

 そう……他の“梁山泊”領域エリア精霊ガイスト達があくまでも[シン]のために力を試しているのに対し、[混江龍]はあくまでも自分が認められるかどうか、その一点しか見ていない。


 だからさっきの攻撃のように、[シン]がその宝剣で切り刻まれ、幽子となって消滅してしまったとしても、所詮はその程度ということで何も思わないだろう。


 だけど。


「[シン]! 絶対に[混江龍]をお前の全てでねじ伏せろ! そうすれば、ソイツは絶対に[シン]の力になってくれるはずだ!」


 だからこそ、認めた相手に対しては絶対的な忠誠を誓ってくれるのだから。


『はう! 了解なのです!』

『ガハ! やれるものならやってみやがれ!』


 俺のげきを受け、超スピードで突撃する[シン]に対し、宝剣を正眼に構えて迎え撃つ[混江龍]。


 勝負は……この一瞬で決まる。


『はうはうはうはうはうッッッ!』

『ガハハハハハハハハハッッッ!』


[シン]と[混江龍]の宝剣が交錯しようとした、その時。


『あっし達のことを忘れてもらっちゃ困るでやんす!』

『やんす!』


 まるで狙いすましていたかのように、[活閻羅かつえんら]と[立地太歳りっちたいさい]が両サイドから挟み撃ちにしてきた。


 だが。


『はう! そんなのお見通しだったのです! 【神行法・転】!』


[シン]は待ってましたとばかりに、[混江龍]とその身体を入れ替えた。


『わ!? バカ野郎!?』

『『うおおおおお! でやんす!』』


 二人の攻撃は、見事に[混江龍]へと決まり、二人もまた防ごうとした[混江龍]の【霜鋒】の餌食となった。


『グヘエ……ッ!?』

『『やられた……でやんす……』』

『はううううう! [シン]の勝ちなのです!』


 勝利の雄たけびを上げ、[シン]は両手を天高く突き上げた。


 ◇


『イテテテ……いやあ、参った参った。俺達の負けだ!』

『はう! これからは、この[シン]こそがみんなのボスなのです! キッチリ従うのです!』


 苦笑する[混江龍]達に、[シン]はビシッ! と人差し指を突きつけた。


『ああ……確かに認めるぜ。お前さんは俺達のボスだ。これからは、俺達がキッチリと露払いしてやるとも』

『『『でやんす!』』』

『『でんな!』』


 そう言うと、六人はそれぞれ『寿』、『剣』、『平』、『罪』、『損』、『敗』の宝珠となり、[シン]の身体の中へと吸収されていった。


『んふふー、[シン]も偉くなったのです』


 お腹をさすりながら、ほくそ笑む[シン]。

 だけど……確かにこれで、[シン]は水中戦についても対応できる強さを手に入れた。


「さあ……残るはあと二十四人だ!」

『はう! 全員まとめてやっつけてやるのです!』


 戻ってきた[シン]とハイタッチを交わし、俺達は次の『第二十五門』へと向かった。

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