第387話 天罡星⑤

「……誰もいない」


 “梁山泊”領域エリアの『第二十二門』。

 そこには、いるはずの守護者、[黒旋風こくせんぷう]の姿がなかった。


『はう……これはどういうことなのです?』

「……分からん」


 コテン、と首を傾げる[シン]に、俺はかぶりを振る。

 いや、[シン]のことを誰よりも慕っている設定のあの精霊ガイストが、[シン]に逢わないなんてどうしても考えらえないんだけどなあ……。


「ふむ……とにかく、ここに精霊ガイストがいない以上、先を急いだほうがいいのではないか?」


 サクヤさんがポン、と俺の肩に手を置いてそう促す。

 ハア……[黒旋風]は絶対に[シン]にとって力になってくれるはずだから、絶対に加えておきたかったんだけど……。


「……仕方ない。先を急ごう」


 俺はみんなにそう告げると、桟橋まで戻って船に乗り込み、次を目指した。


 ◇


『はう! ここもクリアなのです!』


『第二十一門』の守護者、[赤髪鬼]を無事仲間に加え、[シン]が嬉しそうにはしゃぐ。

 だけど[シン]……クリアって、完全にゲーム感覚なのな。


「さて……次はいよいよ『第二十門』、か……」

「? 何かあるノ?」


 俺の呟きを聞いたプラーミャが、不思議そうに尋ねる。


「ああ……実は、『第二十門』は本来[シン]が守護すべき場所だったんだ」

「[シン]が!?」


 驚くプラーミャに、俺はゆっくりと頷く。

 そう……『第二十門』こそが、[シン]……いや、[神行太保]の本来の居場所。


 ただ、果たして[ゴブ美]が[シン]の仮の姿だったのかどうかは分からないし、[シン]自身にも“梁山泊”領域エリアの記憶も一切ないから何とも言えないがな。


「クク……まあ、まずは行ってみようではないか」

「ああ……」


 俺達は船に乗り込み、その『第二十門』を目指す。


 すると。


「? 何故誰もいないはずの『第二十門』に人影があるのだ? それも四人・・も」

「さ、さあ……」


 首を傾げるサクヤさんに、俺も曖昧に返事した。

 い、いや、本当にどういうことだ?


 そして、島の岸が近づくにつれ、四人の人影のうちの一人が、耳をつんざくような大声で叫んだ。


『おおおおおおおおおおおい! “姐御”おおおおおおおおおお!』

「うるさっ!?」


 俺達は思わず耳を塞ぐ。

 というか、どんな肺活量してんだよ……。


『はうううう……迷惑なのです……』


 [シン]も耳を塞ぎながら、顔をしかめる。

 だけど、“姐御”って一体誰のことを言ってるんだ?


 とりあえず、桟橋へと船をつけると、四人のうちの一人がこちらへと駆け寄ってきた。


『姐御! 逢いたかったし!』

『はう!?』


 突然、金髪ポニテの、どこからどう見ても女子高生……いや、白ギャルにしか見えない奴が、思いっ切り[シン]に抱きついてきた!?


「え、ええと……」

『は? 今ウチは忙しいんだし。話しかけんなし』


 おおう……メッチャ睨まれた……。


『は、はう……ところで、誰なのです……?』

『“姐御”!? ウチのこと忘れたし!?』


 おずおずと尋ねる[シン]の言葉にショックを隠せないのか、この白ギャルは今にも泣きそうな表情を浮かべた。

 いや、思い当たるふしがないわけじゃないんだが……だけど、ちょっと結びつかなすぎる。


『ハア……姐御、ウチは妹分の[黒旋風]だし……』

「ええええええええええ!?」

『はうはうはうはうはう!?』


 その名を聞いた瞬間、俺は思わず絶叫し、それにつられて[シン]も驚いた。

 い、いや、[黒旋風]って『攻略サイト』では色黒な肌のヤンキーみたいな喋り方する女子なかったの!? なんで白ギャルみたいになってんだよ!?


『あーあ……やっぱり気づかれないと思ったよ……』

『まあ、私達はあまりにも変わってしまいましたからね……』

『(コクコク)』


 残りの三人もやって来て、そんなことを言い放つ……って、やっぱりコイツ等も女子高生にしか見えないんだけど。


『あー……アタシは『第十三門』の守護者、[花和尚かおしょう]で、コッチが……』

『[行者ぎょうじゃ]です。そしてこちらは[青面獣せいめんじゅう]です』

『(ペコリ)』


 なるほどー……コッチの[黒旋風]と同じツインテギャルが[花和尚]で、どこぞのお嬢様みたいにおしとやかそうなのが[行者]、黒髪ロングの無表情眼鏡女子が[青面獣]な。いや、分かんねーよ。


「……なあ、一つ……いや、できればいくつも聞きたいんだが、いいか……?」

「ん? アタシに答えられることならいいよ」

「あ、ありがとう……」


 気さくにそんなことを言ってくれた[花和尚]に、戸惑いながらも俺は礼を述べた。


「じゃ、じゃあ聞くけど、四人のその変わり果てた姿はどうしたんだ……?」


 四人の守護者を指差しながら、俺はおずおずと尋ねる。

 いやだって、『攻略サイト』ではこの四人、超武闘派でコスチュームも甲冑とか物々しい武器とか持ってる連中のはずなのに……。


『ふふ……いえ、[神行太保]が現世で活躍していると聞きましたので、私達も現世で恥ずかしくない恰好をしようと、そこにいる[黒旋風]が提案してきたのですよ』

『当たり前だし! なんたって姐御に恥をかかせるわけにはいかないし!』


 [シン]をまるで締め上げるように抱きしめながら、[黒旋風]は自慢げに語る……って。


「と、ということは、お……君達は、[シン]に力を貸してくれるのか?」

『あは! そんなのモチロンだし!』

『んー、アタシも面白そうだしねー』

『ふふ……この二人のお目付け役が必要でしょう?』

『……アイス食べたい』


 この四人が無条件で仲間になってくれるのは心強いが……[青面獣]、うちの[シン]みたいなこと言い出したぞ……。


「わ、分かった。それで、次の質問だが、なんで自分達の守護する門を離れて、この『第二十門』に集結してるのはどうしてだ……?」

『そんなの、姐御を盛大に迎えるために決まってるし!』

『あははー……そしてアタシ達は、このバカに付き合わされたってワケ』


 ハア……なるほどねー……。


『あは! それじゃみんな、サッサと姐御の中に入るし!』

『[神行太保]、マメに替わりなよ・・・・・?』

『ふふ……現世、楽しみだわ』

『……(コクリ)』


 そう言って四人はそれぞれ『殺』、『狐』、『傷』、『暗』の宝珠に変化すると、[シン]の身体の中へと入っていった。


『な、なんだか釈然としないのです……』

「だ、だなー……」


 ま、まあ、戦ったりする必要がなかったので良かったけど。


「あ、あの我々と同じ女子高生のような精霊ガイスト、本当に強いのだろうか……」

「あー……あんな格好をしてますが、それに関しては間違いないですね。しかも四人は、この“梁山泊”領域エリアきってのパワーファイターですから」

「あ、あれでか!?」


 いや、驚くのも無理ないよなあ……。

 だって、全員見た目は可愛い女子高生だし。


「ま、まあ、一応は鳥居の先に向かいましょうか……」

「そ、そうだな……」


 そうして俺達は、『第二十門』の鳥居をくぐった。

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