第388話 天罡星⑥

『はう? そういえばマスター、ここには誰もいないのに、どうして来たのですか?』


『第二十門』の舞台の前へとやって来て、[シン]が首をコテン、と傾けながら尋ねる。


「ああ……ここは[シン]が本来守護する場所だってことは説明したよな?」

『ハイなのです』

「だから、ここには当然[シン]にゆかりのあるものが置いてあるわけだ。例えば……」


 俺はおもむろに舞台に上がると、その中央の床を調べる。

 お、ここだな。


 一つだけ色の違う部分に足を乗せ、強く踏み込んでみる。


 すると。


『はう!? 床が開いたのです!?』


 うん……『攻略サイト』のとおり、隠し階段があったな。


「さあ、行こう」


 俺達は隠し階段を下っていくが、徐々に暗くなってきたので、プラーミャと[スヴァローグ]に先頭に行ってもらってハルバードに炎をまとってもらった。


「……ヨーヘイ、[スヴァローグ]は松明たいまつ代わりじゃないわヨ」

「(コクコク!)」


 ジト目で睨むプラーミャと[スヴァローグ]に、俺は思わず視線を逸らしてしまった。

 ま、まあ、この領域エリアから出たら、ルフランでスイーツでも奢って……「し、仕方ないかラ、『機動魔法少女オールスターズ!』の映画に付き合ってくれたラ、許してあげるわヨ……」……おっと、ソッチのほうをご所望か。


「分かった。バッチリ一番いい席を取っといてやる」

「約束ヨ」


 まあ、俺も観に行こうと思ってたところだし丁度いいか。


「むむむむむ! わ、私もその映画鑑賞に一緒に行くからな!」


 すると、何故かサクヤさんが口をへの字に曲げ、手を挙げて宣言した。

 いや、もちろん俺は大歓迎だけど……。


「フフ……『機動魔法少女』のなんたるかを知らない先輩に、その資格はあるのかしラ?」

「っ! そ、そんなもの! これから予習すれば……!」


 いやいやサクヤさん、そんな資格いらないですから。なんなら、メインのちびっ子達のほとんどが資格ないですから。


「……にわか・・・には『機動魔法少女』を語ってほしくないワ」

「むむ……」


 ウーン……プラーミャにしては珍しく、先輩に対して言葉が厳しいなあ……。

 いや、もちろん俺に対しては常に厳しいけど、それでも、先輩にはいつも敬意を払っているふしがあったし。


「それよりモ……着いたみたいネ」


 もうこれ以上話す必要はないとばかりにプラーミャが視線を前に戻し、そう告げた。

 確かにプラーミャの言うとおり、階段はここまでになっていた。


「クク……それで、ここには何があるのだ?」

「ああ……ここに、[シン]の新しい装備・・がある」

「「「新しい装備!?」」」

『はう!?』


 俺の言葉に、みんなが驚きの声を上げる。


「まあ、それはこの奥にある部屋を見るまでのお楽しみだよ」


 そう言って、俺はみんなを先導するように先に進み、一番奥の部屋の扉の前に立った。


「[シン]……この扉は、[シン]にしか開けない。さあ」

『はう……』


[シン]の背中を押して扉の前へと誘導すると、[シン]はおずおずと扉に手をかけた。


 そして。


 ――ガチャ。


『っ! 開いたのです!』


 扉は何の抵抗もなく開き、俺達は中に入る。

 すると、中には金色に輝く手甲とブーツ、それに真紅の道袍どうほうが鎮座していた。


『あれは……?』

「あれが、[シン]の新たな装備、『駆神くじん大聖たいせい』だ」

『『駆神大聖』!?』


 驚く[シン]に、俺はゆっくりと頷いた。


「この装備は、[シン]の『敏捷』ステータスを二段階引き上げてくれる」

『そ、それって……』

「そうだ。今の[シン]の『敏捷』ステータスが“SSSS”だから、“SSSSS”になるってことだな」


 実際、そこまでいくとどれほどのスピードになるのか想像がつかないけど、もう[シン]の姿をとらえることすら、誰にも不可能になってしまうんじゃないだろうか。

 まあ、もはや[シン]の存在自体が『ガイスト×レブナント』のゲームからすればバグみたいなものだから、今さら驚いたりもしないけど。


「さあ、[シン]。あの『駆神大聖』を身にまとうんだ」

『はう!』


[シン]はオニキスの瞳で『駆神大聖』を見据え、ゆっくりと近づいた。


 その時。


『! はうはうはう!』


 なんと、『駆神大聖』は自ら[シン]の元へとやって来ると、鈍色の手甲やブーツ、それに白の道袍どうほうが全て『駆神大聖』へと変わった。


「はは、似合ってるぞ」

『はうはう! なんだか強くなったような気分なのです!』


 身体をくるり、と一回転させ、[シン]がまじまじと自分の姿を見た。

 そんな[シン]を見て口元を緩めながら、俺はおもむろにガイストリーダーを取り出した。


 さあ……[シン]の『敏捷』ステータスは、想像通り“SSSSS”になって……っ!?


「こ、これは……!」

「ヨーヘイくん、どうした……っ!?」

「ナ、ナニよコレ……!」

「クク……こんなことが……!」


 三人が俺の後ろから|覗き込み、俺と同様目を見開く。


 だって。


 —————————————————————

 名前 :シン(神行太保)

 属性 :神仙(♀)

 LV :93

 力  :D+

 魔力 :SS

 耐久 :C-

 敏捷 :EX

 知力 :S+

 運  :A-

 スキル:【方術】【神行法】【水属性反射】

 【火属性反射】【氷属性反射】【闇属性反射】

 【雷属性反射】【風属性反射】【状態異常無効】

 【物理弱点】【繁殖】

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 今まで見たこともない、“EX”というステータスが表示されているのだから。


「……極限まで能力を高めた者の、最終到達点、なのか……?」

「わ、分かりません……ここが最高点なのか、それとも、さらに・・・上がある・・・・のか……」


 ただ。


「[シン]は、間違いなく最速・・になりました」


 『駆神大聖』を身にまとい、威風堂々とした姿の[シン]を見つめ、俺は両の拳を強く握りしめた。


「ふふ……さすがは[シン]、さすがはヨーヘイくん、だな」

「……マア、ヨーヘイなら当然かもネ」


 そう言って、サクヤさんとプラーミャが、俺の拳にそっと手を添え、微笑んで祝福してくれた。

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