第389話 天罡星⑦

『はう! [シン]はこれで誰にも負けないのです! 最強なのです! 無敵なのです!』


 “梁山泊”領域エリアの『第二十門』で専用装備の『駆神大聖』を手に入れ、[シン]は船上で両手を突き上げながら気勢を上げる。


「コラコラ、暴れると船が揺れるだろ……大人しくしてろ」

『はう!? マスターが全然ノリノリじゃないのです! ここはもっと盛大にはしゃぐところなのです!』

「なんでだよ……」


 俺の肩をポカポカと叩きながら猛抗議する[シン]に、思わず溜息を吐く。


「ふふ……[シン]、もちろんヨーヘイくんだって嬉しくてはしゃぎたいところだとも。その証拠に、ほら」


 そう言って、サクヤさんが俺の手を取った!?


「見るといい。嬉しさのあまり拳を強く握りすぎて、、手のひらに爪が食い込んだ跡ができてしまっているのを」

『はう! 本当なのです!』

「うあああああ!? サ、サクヤさん!?」


 うおお……メッチャ恥ずかしい……。

 だ、だけど、俺だって相棒がこんなに速く……強くなってくれたんだ、超嬉しいに決まってるし、それこそ大声で叫びたくなるのを必死で抑えてもしょうがないよな……。


『んふふー、マスターは素直じゃないのです』

「う、うるせー……」


 脇腹をつつきながらからかってくる[シン]に、俺は口を尖らせてプイ、と顔を背けた。


 ◇


『はうはうはう! それじゃ[シン]を捕まえることができないのです!』

『むうっ!?』


[シン]は今、『第六門』の守護者、[豹子頭ひょうしとう]と戦っている。

 だけど、シングルナンバーの守護者だから相当の強さを誇っているにもかかわらず、更なるスピードを手に入れた[シン]は全くつけ入るすきを与えずに[豹子頭]を翻弄する。


 というか、それにしてもこの[豹子頭]、メッチャ好戦的だったよなあ……。

 ここに来るなり、金属製の棒を突き付けて、『我、なんじと一騎討ちを所望する』なんて言って、[シン]が挑むまで一切聞く耳を持たないんだからなあ。メンドクサイ。


 オマケに、いざ戦いが始まると仏頂面から一転、口の端を吊り上げて嬉しそうにわらいやがるし……キモチワルイ。


 悪い奴ではないんだろうけど、俺はあまり得意なタイプじゃないかな。

 そんなことを考えていると……お、そろそろ決着がつきそうだ。


『はう! これで終わりなのです! 【雷】!』

『グガガガガガガガガッッッ!?』


 周囲に展開した呪符を一気に発動させ、電撃が一斉に[豹子頭]の持つ金属の棒へと襲い掛かった。

 要は、あの棒を避雷針と同じ役割を果たしてしまったってわけだ。


 はは……だけど、そんな頭を使った戦術を練れるようになるだなんて、[シン]は心身共に成長したな……。


『まだやるですか?』

『……いや、我の敗北を認めよう』


 ついさっきまでのキモチワルイわらいとは打って変わり、[豹子頭]はほれぼれするほどの笑みをこぼした。

 うん、どうやらコイツ、戦闘になると性格が変わるバトルジャンキーで間違いなさそうだ。そういうの、本当に困る。


『この[豹子頭]、喜んでなんじの力となろう』


 そう言うと、[豹子頭]が『雄』と記された宝珠へと変わり、[シン]の身体の中へと入っていった。


『はうはう! これで残すはあと五人なのです!』

「お、よく覚えてたな」

『マスターヒドイのです! ヒドイのです! [シン]のこと見くびりすぎなのです!』


 頬をプクー、と膨らませながら、[シン]がポカポカと叩いてきた。痛い痛い。


「はは……ま、やっぱり[シン]は俺の自慢だよ」

『ははははう!? また無自覚にそうやって……』


 ながめるように[シン]の頭を撫でながらそう言うと、[シン]は顔を真っ赤にしてモジモジする。はは、照れてやがる。


「うむ……ヨーヘイくんはそういったことは改めるべきだな」

「エエ……本当に、ヨーヘイのバカ……」


 ええー……なんでサクヤさんとプラーミャまでジト目で睨んでるんですかねー……。


「さ、さあ! 次はいよいよ『第五門』! “梁山泊”領域エリア最強の守護者が待ってるぞ!」

『はう!? 最強なのですか!?』

「ああ!」


 もちろん、知力や魔力、そういったものを含めて総合的に見た場合は違うけど、それでも、桁外れの武をもって戦いを挑む者を全て打ち倒す。


 それこそが……『第五門』の守護者、[大刀だいとう]だ。


「まあ、そういう意味ではサクヤさんの[関聖帝君]と同じですね」

「む……ふふ、君に認められると、こそばゆいながらも誇らしくなるな……」


 イヤイヤ、『ガイスト×レブナント』最強の精霊ガイスト使いが何言ってるんですか。

 あなたには、これからもずっと、俺にとっての最強であり続けてほしいんですから。


 そして俺達は船に乗って『第五門』を目指すと。


「誰か立っているな……って、あ、あれは!?」


 島に立つ人物を見て、サクヤさんが驚くのも頷ける。


 だって。


 その姿は、まさに[関聖帝君}なのだから。

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