第390話 天罡星⑧

「誰か立っているな……って、あ、あれは!?」


 “梁山泊”領域エリアの『第五門』、その島の岸に立つ一人の精霊ガイストを見て、サクヤさんが驚きの声を上げる。


 それもそのはず。

 だって、ここの守護者である[大刀だいとう]は、まさに[関聖帝君]と瓜二つなのだから。


「クク……望月ヨーヘイ、これはどういうことなのだ?」

「……実は、俺にもよく分からないんだ……」


 中条の問い掛けに、俺はかぶりを振った。

 いや、『攻略サイト』には当たり前だけど何にも書いてないし、なによりラスボス級のサクヤさんがこの領域エリアに来るなんてシナリオもエピソードもないんだから当然なんだけど。


「と、とにかく、早く島に乗り込むぞ!」


 俺達は大急ぎで船を漕ぎ、桟橋に船をつけた。


 それを見ていた[大刀]も、青龍偃月刀を携えてこちらへゆっくり歩いてくる。


「[関聖帝君]」


 サクヤさんは[関聖帝君]を召喚し、身構えた。


『……ようこそお越しくださいました。ご先祖様・・・・

「「「「はあ!?」」」」


 やって来た[大刀]から放たれた一言に、俺達四人は一斉に驚きの声を上げた。

 い、いやいや、ご先祖様・・・・ってどういうこと!?


 すると。


「あ……か、[関聖帝君]……?」


 [関聖帝君]は前に出て[大刀]と対峙すると、フ、口元を緩めた。


『お主がこの私の子孫、とな……?』

「「「「しゃ、しゃべった!?」」」」

『ははは、はうはうはう!?』


 い、いや、[関聖帝君]ってしゃべれるのかよ!? 驚きしかないんだけど!?


「か、[関聖帝君]……な、なんで話せるのだ……?」

『すいませんマスター……私は、最初から会話ができました……』


 おずおずと尋ねるサクヤさんに、[関聖帝君]は申し訳なさそうにひざまずいた。


「な、なら、どうして……」

『それは……現世では精霊ガイストは話すことができないのが当たり前で、私が話せることが知られては、マスターに良からぬことが起こると思ったのです……』

「「あ……」」


 そこまで言って、俺とサクヤさんは気づく。

 この[関聖帝君]は、サクヤさんのお父さん……藤堂マサシゲによって、その身体をさらに研究対象とされてしまうことを恐れてのものだということに。


「……そうか。だが、できればもっと早くに知りたかった、な……」

『申し訳、ありません……』


 ほんの少しだけ寂しそうに微笑むサクヤさん。

 [関聖帝君]は、唇を噛みながらこうべを垂れた。


『はうう……マスターとお話ができるのは、[シン]だけの専売特許だと思っていたのです……』

「はは……まあまあ、お前だって[関聖帝君]と会話できるほうがいいだろ?」

『……元々、精霊ガイスト精霊ガイスト同士で会話ができるのです』

「へ……?」

 [シン]からボソッとそんなことを告げられ、俺は思わず呆けた声を漏らしてしまった。

 い、いや、お前等会話できたのかよ……って。


「ま、まさか、俺達の悪口とか言ってたりしないよな……?」

『はう、それはないのですけど、[シン]はよく他のみんなに問い詰められるのです……マスターのせいで』

「お、俺のせい!?」


 そう言って、[シン]がジト目で睨む。

 えー……一体俺が何をしたって言うんだよ……。


「で、では、[関聖帝君]とこの精霊ガイストが瓜二つなのは、先祖と子孫だから、ということなのか?」

『どうやらそのようです』

『はい……私はご先祖様である[関聖帝君]の子孫です。今でこそ[大刀]と名乗っておりますが、元の名は[関勝かんしょう]と申します』


 へえ……[関勝]ねえ。


『では[関勝]よ、尋ねるがお主は[シン]と試すため、ここで待ち構えているということでよいな?』

『滅相もございません。ご先祖様と共にある[神行太保]は、それだけで信ずるに値するもの。私がこうして参りましたのは、ご先祖様にお渡しするものがあるため』

『私に渡すもの……とな……?』

『はい、どうぞこちらへ』


 [大刀]もとい[関勝]が鳥居の奥へと手招きするので、俺達は彼女の後についていく。


 すると。


『どうぞこちらです』


 舞台に上がるなり、地響きと共に中央に地下へと続く階段が現れた。

 あ、これ……あの『第二十門』と同じだなあ。


「……プラーミャ、また頼めるか?」

「マタ!? ヨーヘイ、ヤーのこと便利屋か何かと勘違いしてなイ!?」

「そ、そんなことないって! メッチャ頼りにしてるし!」


 腑に落ちないものの、プラーミャは[スヴァローグ]を召喚して先頭を歩く。


 そして。


『……あれは?』

『あれこそが、『かん家』に代々伝わる宝武具、『黄龍偃月刀』にございます……』

『黄龍……偃月刀……』


 ポツリ、と呟き、[関聖帝君]はその『黄龍偃月刀』を手に取る。


『……力が、私の中に流れ込んでくる』


 成程……まさか、[シン]だけじゃなくて[関聖帝君]にもパワーアップするためのアイテムが用意されているだなんて、思いもよらなかった。


 あくまでもひょっとしたらだけど……実は、サクヤさんも俺と同じように、本当なら二周目から仲間になるキャラクターとして、シナリオ上用意されてたんじゃないだろうか。


 それなら、同じように限定イベントがあってもつじつまが合う。


「サクヤさん……念のため、ガイストリーダーを」

「う、うむ……」


 俺が促すと、サクヤさんはガイストリーダーを取り出し、画面を眺める、


「っ!?」


 そこには。


 —————————————————————

 名前 :関聖帝君

 属性 :軍神(♀)

 LV :96

 力  :EX

 魔力 :B-

 耐久 :SS

 敏捷 :A+

 知力 :S

 運  :A

 スキル:【一刀両断・改】【乱戦】【大喝】【威圧】

【統率】【千里行】【水属性反射】【火属性反射】

【氷属性反射】【闇属性反射】【聖属性反射】

【邪属性反射】【物理耐性】【状態異常無効】

【水属性弱点】

 —————————————————————


 [シン]と同様、『力』ステータスには“EX”の表示があった。


『これでご先祖様は、たとえどのような相手であっても、全てを撃ち滅ぼすことができる、最強のとなりました』

『……そう、か』


 ギュ、と『黄龍偃月刀』を握りしめ、[関聖帝君]は静かに目をつむる。


『これで、私は無事に役目を果たすことができました。これからは、ご先祖様の活躍を[シン]と共に見届けるといたしましょう』


 そう言うと、[関勝]は『勇』と記された宝玉へと変わり、[シン]の身体の中へと入っていった。


「ふふ……ヨーヘイくんと[シン]が強くなるのを見届けに来たというのに、まさかこの私達までもが強くなるなんて、な……」


 嬉しそうに微笑むサクヤさんと、その隣にたたずむ[関聖帝君]


 そんな二人の姿に、俺はただ見惚れていた。

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