第36話 精霊の添い寝

「さて……それじゃ、サンドラのイベントを確認しようか」


 風呂にも入り、後は寝るだけ(勉強? ナニソレ?)となった俺は、スマホから『まとめサイト』を開いて彼女のイベントを確認する。


 まあ、簡単に要約するとこうだ。

 貴族の生まれという境遇から常にトップにいることを求められ、プレッシャーに押しつぶされそうになっている彼女は、二年の始業式の日に一年生最強にまで成長した主人公に勝負を挑む。当然、俺に言ったように領域エリア攻略や勉強の成績によって。

 で、ここで主人公が勉強のステータスを上げて一学期の中間テストと期末テストに勝利し、かつ、領域エリアの攻略も先に進んでいたら、晴れてサンドラは闇堕ちする仕様だ。


 イベントはここからが本番で、闇堕ちしたサンドラは幽鬼レブナントにその心を乗っ取られ、一学期の終業式の日に主人公達の前に立ちはだかる。

 ここで彼女に巣食う幽鬼レブナントあるアイテム・・・・・・を使って引きがし、キッチリ倒せば、サンドラの心の闇が晴れて救われるのだ。

 そして、それ以降はサンドラを仲間にすることが可能になり、かつ、好感度しだいで恋人にすることができるようになる。


「……というか、その前にサンドラをプレッシャーから解放させてやったほうが、変に闇堕ちもしなくていいんじゃないのか?」


 そう呟き、俺は思わず首をひねる。

 大体『まとめサイト』でも、掲示板にそんなツッコミ入れてる奴がいるくらいだしなあ……まどろっこしい。


「まあでも」


 うん、これ以上イベントが進行しないように、俺はサンドラの決闘申し込みには応じないようにしよう。そうしよう。

 んで、主人公様が転校して来たら、ソッチにバトンタッチするということで。


「それにしても……」


 そういえば、サンドラの奴はなんであまり俺にケンカを売って……はきてるんだけど、何というか、その……俺に対する嫌悪感がないというか、ただ純粋に俺に勝ちたいだけのような気がするんだよなー。


「ウーン……何かあるような気がするんだけど、そんなことまで『まとめサイト』に載ってるわけないし、そもそもまだゲームスタートすらしてないし」


 うん、今は考えるのはやめよう。

 とにかく、明日からの方針は決まった。


 サンドラは放っておく。以上。


『マスター、何をそんなに一生懸命見てるのです?』

「うおっ!?」


 突然、召喚もしていないのに[シン]の奴が背後からニュ、と現れた。


「というか[シン]、俺が呼んでもいないのに、なんで出てこれるの!?」

『? えへへー、[シン]にもよく分からないのです!』


 そう言いながら[シン]はコテン、と首を傾け、おどけてみせた。


『それより、[シン]のことはどうでもいいのです。マスターは何を見てるのです?』

「おお、これはこの世界の真実についてまとめられているサイトなんだ。つまり、これを見ればこの世界の全てが分かるのだ!」

『おおー! すごいのです! すごいのです!』


 [シン]がものすごいスピードで俺を中心に旋回しながらはしゃぐ。

 当然、俺は[シン]の動きを追いきれないでいた。


「フフフ、当然[シン]のことも全て載っているぞ? ホラ」


[シン]の驚く姿が嬉しくなり、俺は調子に乗って[神行太保]に関するページを見せると。


『ふわあああ……! これ、[シン]なのです! [シン]がいるのです!』


 うん、瞳をキラキラさせながら食い入るように画面を眺めてる。

 なお、画面にはこのように表示されていた。


『[神行太保]……東都ゲームショウにおいて期間中に特別限定配布されたイベント用精霊ガイスト。物理に関しては攻撃・防御共に弱点ではあるが、精霊ガイスト随一のスピードで幽鬼レブナントの攻撃を全てかわし、【方術】による防御壁の展開や指定範囲における全属性魔法の無効化など、まさに防御特化型の仕様となっている』


「どうだ? お前はこんなにすごいんだぞ?」

『ハイなのです……! [シン]は……[シン]は、マスターのおかげでこんなにすごくなれたのです……!』

「バッカ、違うだろ? 俺と[シン]の努力、それと先輩のサポートの結果だろ?」


 そう言って、俺は涙ぐむ[シン]の頭を撫でてやると、[シン]も嬉しそうに目を細めた。


『だけど……ふわあああ……コレ、マスターが言うように何でも載っているのです!』

「ああ。だからこのことは誰にも内緒だぞ? かなり重要なことも載っていたりするからな?」

『はいなのです! ……でも、桐姉さまや関姉さまにもなのですか?』

「ああ、先輩達にもだ」


 そう答えると、[シン]が指をくわえながらジッと俺を見た。


「? 何だ?」

『多分、桐姉さまはマスターとこの秘密を共有すると、大喜びしてマスターへの好感度が爆上げになると思うのですよ?』


 ぐぬぬ、それは魅力的な提案だ。

 だが。


「悪いけど、それでも先輩に言えないな。それだけヤバイものなんだ」

『ヤ、ヤバイのですか!?』

「ああ、生命の危険があるくらい」

『ヒイイなのです』


 俺が冗談半分にからかいながらそう言うと、[シン]は両腕を身体に巻いて震えた。

 ……まあ、先輩はともかく、他の奴に知られたら本気で命もヤバイかもしれないけど。


「というわけで、絶対に言っちゃダメだぞ? これは、俺と[シン]だけの秘密だからな」

『ハイなのです!』


 [シン]はいつになく真剣な表情でビシッと敬礼ポーズをした。


「よし。さて……そろそろ寝るかー」


 俺は部屋の電気を消してベッドの中へともぐると。


「えーと、[シン]?」

『えへへー、[シン]もマスターと一緒に寝るのです!』


 いや、お前精霊ガイストだろ? 寝るなんて概念あるのかよ……。


『……ダメ、なのですか……?』


 チクショウ! そんな今にも泣きそうな表情で俺を見るなよ!


「……ハア、今日だけだぞ」

『わあい! なのです!』


 俺が諦めて許可をした途端、[シン]は嬉しそうな笑顔を見せて俺の胸に頬ずりした。

 だけど……精霊ガイストではあるんだが、[シン]の見た目は小学生の女の子だからなあ……。

 ウーム、こんなところを間違って母さんに見られたら、思いっきり号泣されそうだな。


『マスター……大好きなのです……』


 [シン]の突然の言葉に、俺は思わずドキリ、とした。

 もも、もちろん使役するマスターとして、だよな? な!


 俺はおそるおそる[シン]の顔を《のぞ》覗くと……。


『すう……すう……』

「寝てやがるよ……」


 どうやらさっきのは寝言だったみたいだ。心臓に悪いな、オイ。


「ハア……全く」


 気持ちよさそうに眠る[シン]の頭を優しく撫でていると、俺はいつの間にか眠りについていた。

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