第113話 ダブルチーム

「ここが、二つ目の領域エリア……“レムリア”領域エリアだ」

「す、すごいね……!」


 らせん階段を下りて“レムリア”領域エリアにやって来ると、立花が感嘆の声を漏らした。

 いや、最初はそうかもしれないけど、散々攻略をしてきたプラーミャを見てみろ、完全に死んだ魚みたいな目をしてるぞ。


「それで、これから俺達は二手に分かれて、それぞれ塔にある鍵を入手する。チーム分けは……「そ、それならボクに提案があるんだけど!」」


 俺がチーム編成について話をしようとすると、立花が手を挙げた。


「なんだ?」

「そ、その……ボク、プラーミャさんと加隈くんの三人チームでお願いしたいんだ!」


 立花から、まさかの提案だった。

 いや、正直言うと、立花は絶対に俺と行きたがると思ってたんだけどな……。


「それはどうしてだ?」

「う、うん……一つは、ボク達はこの三人で“グラハム塔”領域エリアを踏破したから、連携が取りやすいっていうのもあるんだけど……」

「他にもあるのか?」

「ボクは……キミに頼るんじゃなくて、ボク自身で頑張りたいんだ。だって、キミの本当の友達・・・・・で居続けたいから」


 そう告げた立花の瞳は、確かな意思が込められていた。


 はは……何だよ、カッコイイじゃねーか。


「分かった。じゃあ、ここから北東にある塔は、立花、プラーミャ、加隈……任せたぞ」

「うん! 絶対に、その鍵を入手してくるよ!」

「ハア……サンドラと離れるのはイヤだけど、仕方ないわネ……」

「ハハ! ま、俺に任せとけ!」


 加隈の妙な自信は気になるけど……ま、まあ、大丈夫だろう。


「それじゃ、また後で」

「うん、また後で」


 俺は立花とコツン、と拳を合わせると、立花達のチームは北東へ、俺達のチームは南東へと向かった。


「それで、君の考えていたチーム編成はどうだったんだ?」

「あはは……実は、立花の提案したチーム編成の通りなんですよね」


 隣に並ぶ先輩の問い掛けに、俺は苦笑しながら答える。

 というか、俺にとってはこの編成以外あり得なかった。


 立花が言ったように、連携などを加味したっていうのもあるけど、それ以前に……。


「ふふ……君のことだ、何か考えがあるのだろう? 私は、ただ君を信じてついて行くだけだよ」

「ありがとう、ございます……」


 俺は先輩のその言葉が嬉し過ぎて、思わずキュ、と胸襟をつかんだ。


「ア! 見えましたワ!」


 サンドラが嬉しそうに指を差す、その先に……確かに、俺達が目指している塔がそびえ立っていた。


「さあ……先輩、サンドラ、とっとと中にいる幽鬼レブナントを倒して、鍵を入手するぞ!」

「うむ!」

「エエ!」


 そうとも……今回・・は、その倒すスピードが大事なんだ。

 だって、俺達のチームが、先に領域エリアボスを倒さないといけないんだから。


 立花達が、合流する前に。


 ――ギイ。


 塔の扉を開けて中に入ると……やはり、いた。


 木製の歯車をくわえた巨大なフクロウ

 コイツが、この塔で鍵を守護する幽鬼レブナント、“フェニアン”だ。


「ふむ……ハヤブサ、カラスときて、ここはフクロウか」

「何でもいいですワ! サッサとやっつけ……「[シン]!」……ッテ!?」


 俺は二人が動き出す前に[シン]に号令を出すと、[シン]はものすごい勢いで飛び出した。

 悪いなサンドラ、とにかく時間が惜しいんだ。


『それー! なのです! 【神行法・跳】!』


 [シン]は空中を蹴りながら、あっという間にフェニアンの背後を取った。


『食らうのです! 【縛】! 【裂】!』


 呪符によって身動きを封じられたフェニアンが、その立派な翼をズタズタに引き裂かれた。

 当然、羽ばたく術を失ったフェニアンは、そのまま床へと落下する。


「ふふ、先を越されたが、トドメはこの私が!」

「ワタクシだって負けていませんワ! 【裁きの鉄槌】!」


 [関聖帝君]の青龍偃月えんげつ刀と、[ペルーン]のメイスがうなりを上げ、フェニアンに迫る。


 そして。


 ――斬ッッッ!

 ――ドオオオオオオオオンッッッ!


【一刀両断】によって半割になったフェニアンの胴体は、【裁きの鉄槌】で黒焦げかつ原型をとどめないほどにグチャグチャになると、幽子とマテリアルに変わった。


「望月くん! 鍵を手に入れたぞ!」


 先輩は台座にある鍵をつかみ、高々と掲げた。


「先輩! サンドラ! 急いで中央の階段に戻ろう!」

「む! 望月くん、どういうことだ?」


 俺の言葉に、先輩が尋ねた。


「立花達が鍵を入手した時点で、中央の階段付近にある建物から、領域エリアボスが出現します! だから!」

「フフ……何でヨーヘイがそんなことを知っているのか、あえて聞きはしませんけド……分かりましたワ! 行きますわヨ!」


 サンドラ……お前も、最高だよ!


 俺は嬉しさのあまり緩んでしまう口元を必死でこらえながら、俺達は塔を飛び出して中央の階段を目指し、全速力で駆ける。


「ハア……ハア……!」

「ア……ッ!?」

「サンドラッ!」


 つまづいて転びそうになるサンドラを、俺は慌てて受け止めた。


「ア……ヨーヘイ、ありがとウ……」

「はは、気にすんな」

「フフ、モウ……」


 俺はサンドラに向けてニカッと笑うと、つられてサンドラも微笑み返す。


 その時……ヒューズボックスに入れてあった鍵が中で暴れ出した。


「っ! 立花達も鍵を手に入れたか!」

「望月くん! これは一体!?」


 先輩が慌てた様子で尋ねる。


「はい! 鍵が集まろうとしています! 領域エリアボスを解放するために!」


 俺はヒューズボックスの蓋を開けると、鍵は勢いよく飛び出して、中央へと飛んで行った。


「さあ、あと少しで中央です! 急ぎましょう!」

「うむ!」

「エエ!」


 さらに全力で走り、とうとう俺達は領域エリアの中央へと戻ってきた。


「っ! あの建物です!」


 中央の階段の傍にある、みすぼらしい建物の屋根から、ナニカ・・・が飛び出した。


「望月くん……」

「ええ……」


 俺は先輩に向かって頷く。


 そう……あれこそが、“エムリア”領域エリアのボス、“ベレヌス”だ。

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