第114話 ベレヌス

 “レムリア”領域エリアのボス、“ベレヌス”は、美しい青年の姿をしていた。

 輝くブロンドの髪に水色の瞳をたたえ、ギリシャ彫刻のように彫りの深い端正な顔立ち。

 その手には黄金の弓と矢を持ち、着ている服からのぞくその身体は引き締まった肉体をしていた。


 ハッキリ言おう、俺はこんな奴・・・・は大嫌いだ。


「先輩! サンドラ! あの領域エリアボスは、絶対に原型をとどめないくらいにギタギタにしてやろう!」

「う、うむ……」

「い、いいですけド……急にどうしたんですノ……?」


 先輩もサンドラも、せっかく俺が意気込んでるっていうのに、なんでそんな心配そうに俺を見てるんだ?


『プークスクス! マスターがまさかの領域エリアボスに嫉妬してるのです』

「ちょ!? [シン]!?」


 そそ、そんなハッキリ言うなよ! 傷つくだろ!


「む……だ、だが、私は望月くんのほうが、その……かか、可愛いと、思う……ぞ……?」

「あんな濃ゆい顔の何がいいんですノ! そ、それなら、ヨーヘイのほうが愛くるしいというカ……カッコイイというカ……」


 [シン]の言葉を聞いた先輩とサンドラは、顔を真っ赤にしながらそんな恥ずかしい言葉を口にした。

 うう……お世辞とはいえ、二人にそんなこと言われたらメッチャ嬉しい……!


「よっし!」


 そんな二人の励ましに気合いが入った俺は、パシン、と両頬を叩いた。


「やるぞ、[シン]! そして、今日のアイスは抜きな!」

『はうはうはう!? ヒドイのです! ヒドイのです! 横暴なのです!』


 はは、俺を馬鹿にした罰だ。反省しやがれ。


 すると。


「っ!? [シン]!」

『ハイなのです! 【堅】!』


 [シン]は素早く呪符を展開し、ベレヌスから放たれた黄金の矢を弾い……て!?

 あろうことかベレヌスの奴、黄金の矢を乱れ撃ちしてきやがった!?


「先輩! サンドラ! あの矢は絶対に食らっちゃ駄目だ! あの矢じりには、毒がある!」


 ……正確には毒じゃなくて、致死性の高い疫病・・だけど。


「っ! 分かった!」

「任せテ! 【ガーディアン】!」


 サンドラは[ペルーン]に無数の盾を展開させて、ベレヌスの放った矢を弾く。

 先輩も、サンドラの盾に隠れるつつ、取りこぼした矢を[関聖帝君]の青龍偃月えんげつ刀で打ち落とした。


 さあて……『まとめサイド』には、遠距離攻撃で撃ち合いをしながら少しずつ削る・・のが攻略法だって書いてあったけど、遠距離攻撃ができるのはサンドラしかいないし、何よりそんなチマチマしたことをする時間も惜しい。


 だったら!


「[シン]! 一気にアイツに近づいて攻撃を仕掛けろ! 先輩とサンドラは、その隙に少しでも領域エリアボスとの距離を詰めるんだ!」


 先輩とサンドラが、無言で力強く頷いた。

 そして[シン]は、降り注ぐ黄金の矢を素早くかわしながら接近する。


 そして。


『取ったのです! 【爆】!』

『グウッ!?』


 背後に回り込んだ[シン]は、ベレヌスの背中に呪符を貼り付け、【爆】で吹き飛ばした。


「おおおおおおおおおおおおッッッ!」

「アアアアアアアアアアアアッッッ!」


 同じく距離を詰めていた[関聖帝君]と[ペルーン]が、ベレヌスに向かってそれぞれ武器を叩き込む。


 だけど。


「っ!? 何だと!?」

「身体が回復していきますワ!?」


 そう……ベレヌスは【疫病の矢】で敵を絶望へと追い込み、【治癒の矢】で自身を癒す。

 その使い分けこそが、このベレヌスの特徴でもある。


 とはいえ。


「大丈夫! なら!」

『任せるのです!』


 [シン]は一気に詰め寄ると、ベレヌスの両腕が見えなくなるほどに呪符で覆った。


『食らえ! なのです! 【爆】!』

『ガガガガガガガガガガガッッ!?』


 連続して起こる呪符の爆発により、ベレヌスはその腕を上げることができない。

 これなら、【治癒の矢】で回復することもできないだろ!


「先輩! サンドラ! 今だ!」

「うむ! 食らええええええええええッッッ!」

「【裁きの鉄槌】ッッッ!」

『ガ……ウ……!?』


 ベレヌスを、先輩は青龍偃月刀で切り刻み、サンドラは打ち砕く。

 何度目かの攻撃を食らった後、とうとうベレヌスは沈黙し、その姿を幽子とマテリアルに変えた。


「望月くん! やったぞ!」

「ヨーヘイ! やりましたワ!」


 二人は最高の笑顔でその手を掲げる。

 だから。


「はは! やった!」

「ああ! ふふ!」

「キャ! フフ!」


 俺はそんな二人の手にハイタッチをした。


『マスター! [シン]も! [シン]もなのです!』

「はは! 当然!」


 もちろん[シン]にもハイタッチを交わすとも。

 この、俺の最高に自慢の精霊ガイストと。


「よし、じゃあ立花達が合流する前に、やることやっちまうかー」


 そう言って、先輩とサンドラを手招きし、ベレヌスが飛び出してきたみすぼらしい建物の中へと入る。

 すると、そこには“アルカトラズ”領域エリアで見たものと同じ小さなほこらがあった。しかも、二つ。


「望月くん……あれは、ひょっとして……」

「ええ……“アルカトラズ”領域エリアのものと同じ、ですね。[シン]」

『了解なのです!』


 もう二度目だから、[シン]は喜び勇んで鎮座ちんざする赤色の水晶玉に触れると、 「シン」の身体を幽子の渦が包み込む。

 しばらくして渦が消え、姿をあらわした[シン]をガイストリーダーで確認すると。


「よし! 【火属性反射】を手に入れたぞ!」

「なに! 本当か!」

「次はワタクシ達の番ですワ!」


 早速先輩とサンドラも、[関聖帝君]と[ペルーン]を水晶玉に触れさせた。


「ふふ……【水属性反射】に続いて、今度は【火属性反射】か」

「これで[ペルーン]がまた強くなりましたワ!」

「あはは、二人共忘れてない? ほこらは一つだけじゃないんだぞ?」

「「あ!」」


 俺の言葉を聞いた先輩とサンドラが、綻んだ顔をさらに綻ばせる。

 そう、ここが二つの領域エリアでできていることを忘れてはいけない。

 このほこらは、あくまでも“レムリア”領域エリアのクリア報酬であって、“アトランティス”領域エリアのクリア報酬はもう一つのほうのほこらにある。


【氷属性反射】という報酬が。


「ということで、もう一つスキルをもらいに行きましょう」

「うむ!」

「エエ!」


 二人はうれしそうに返事して、我先にともう一つの祠へと向かう。


 その間に……俺は、ほこらの裏側に回り込むと、ひっそりと置かれてある、小さな木箱の蓋を開けた。

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