第112話 今度は全員で

「よう、もう落ち着いたかよ」

「グス……う、うん……」


 ようやく泣き止んだ立花は俺の胸から顔を起こし、腫れぼったいまぶたを俺に見せる。

 その瞳は、すっかり元に戻っていた。どうやら、闇堕ちから無事抜け出したみたいだな。


「ハア……本当に、よかったワ」


 傍に来たプラーミャは、立花を見て苦笑する。


「全くだぜ。ま、何にしても、これで元通りだな!」


 何故か加隈の奴が、偉そうにそんなことを言いながら笑顔でサムズアップしやがった。というかお前、何もしてないだろうが。


「みんな……ごめん、なさい……」

「本当だよ。おかげで俺は超疲れた」


 深々と頭を下げる立花に、俺は目一杯皮肉を込めて言ってやった。


「あはは……本当にゴメン……」

「おう。さーて、どうやってこの尻拭いをしてもらおうかなー」


 そう言って、俺はチラリ、と桐崎先輩を見やると。


「ふふ……だったら、今攻略中のあの・・領域エリアの探索を手伝ってもらってはどうだ?」

「お! 先輩、それいいですね!」


 うん、ものすごく茶番な感じがするけど、今はこれくらい大袈裟にしたほうが立花も気が楽になるしな。

 先輩、ありがとうございます。


「フフ。これでもう、あんなに苦労しなくても済みそうですわネ」

「だな!」


 笑顔で合いの手を入れるサンドラに、俺は微笑み返した。


「な、なんだよ望月! お前、俺達に内緒でそんなことしてたのかよ! 俺が“カタコンベ”領域エリアの攻略誘っても、乗ってこなかったくせに!」

「当たり前だろ! 俺は“アトランティス”領域エリアと“レムシア”領域エリアの攻略に忙しい……っ!?」


 ここまで言って気づく。

 あー……余計なこと言っちまったなあ……。


「む……望月くん、その“アトランティス”領域エリアと“レムシア”領域エリアというのは何だ?」

「……ヨーヘイ?」


 うう、先輩とサンドラの視線が冷たい。


「あ、あははー……いやホラ、あの海に浮かんでる領域エリアって、伝説のアトランティス大陸っぽくないですか? そ、その、メッチャ広いですし、それに、入口を出現させる本の名前も、『ティマイオス』ですし」

「うむ……確かにな……」

「……じゃあ、その“レムリア”領域エリアというのハ?」

「そ、それも、“アトランティス”と同じ広さだし、同じような伝説の大陸ってなると、“レムリア”かなー、なんて……」


 俺はおずおずと上目遣いで二人の顔を見ると……あ、笑ってる。


「ふふ、まあいつものことだしな」

「エエ。だって、ヨーヘイだシ」


 はは、どうやら二人共、俺の話を流してくれたみたいだ。

 本当に……感謝しかない。


「さーて。んじゃ、帰ろうぜ」


 俺がそう告げると、みんな嬉しそうに頷いた。

 もちろん、立花も。


「そ、それで……ボク、さっきの望月くんの攻撃で、うまく歩けそうにないんだ……だ、だから、その……………………おんぶ、して欲しいなあ……」

「は?」


 いや、立花の奴、甘えた声で何言ってんの?


「だったら[ブリュンヒルデ]の【レギンレイヴ】で回復しろよ」

「望月くん冷たい!?」

「なんでだよ!」


 そう告げると、立花は口を尖らせながら[ブリュンヒルデ]を召喚し、渋々回復した。いや、最初からそうしとけよ。


「む……望月くん、実は私もさっき、あの大蛇の幽鬼レブナントとの戦闘で、その……あ、足を痛めて、だな……」

「ワ、ワタクシも、少し立ちくらみガ……」


 先輩とサンドラまで……。


『んふふー、マスターがモテモテなのです!』


 ハア……うち一人は、男だけどな……。

 俺は、嬉しそうにそう話す[シン]を眺めながら、溜息を吐いた。


 ◇


「おお……!」

「ここが……」


 次の土曜日、俺は“アトランティス”領域エリアに立花と加隈を連れてきた。

 案の定、その広さに圧倒されてるな。


「とりあえず、この“アトランティス”領域エリアは攻略済だから、サッサと“レムリア”領域エリアに向かうぞ」

「ま、待ってよ望月くん!」


 俺達は中央のらせん階段を目指して進むと、立花と加隈も慌てて追いかけてきた。


「ふふ……ようやく頭数が揃ったな」

「先輩……ですね」


 先輩の言葉に、俺は強く頷く。

 これで、“レムリア”領域エリアを二手に分かれて攻略できる。

 それに、闇堕ちした立花との戦闘で分かったけど、立花ならこの領域エリアでも問題ないだろう。


 あとは……。


「へっ! 舐めるなよ! 【フラリッシュ】!」


 加隈の[トリックスター]があり得ない曲芸じみた動きで、幽鬼レブナントを追い詰める。

 そこへ。


「フフフ……トドメヨ! 【絨毯じゅうたん爆撃】!」


 プラーミャの[イリヤー]が槍衾やりぶすまを見舞って、幽鬼レブナントは幽子とマテリアルに姿を変えた。


 うん、加隈もその多彩なスキルを活かして上手く立ち回ってるし、プラーミャ達との連携も問題なさそうだ。


「それで……“レムリア”領域エリアではチームをどう分けるんですノ?」

「ああ、それは最初から決めてある」

「ヘエ……それってどんな編成?」

「はは、まあ“レムリア”領域エリアに着いたら教えるよ」


 俺は口の端を持ち上げながら、興味津々に尋ねるサンドラにそう答えた。


 そう、“レムリア”領域エリアでのチーム編成は、これ以外にあり得ない。


 だって……これこそが、先輩の今の状況を解決する方法なんだから。

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