第111話 決着

「立花……もう、終わりにするぞ」


 俺は、立花に向けて静かにそう言い放った。


『アハハハハ! 終ワリダッテ? キミノ精霊ガイストノ攻撃ハ全ク効イテナイノニ?』


 そして立花は、そんな俺を見ながら嘲笑ちょうしょうを浮かべた。


「いや、そうでもないぞ? ホラ、見ろよ」


 俺は[シン]から一方的に攻撃を受けている[ジークフリート]を指差すと。


『…………………………』

『まだまだなのです! 【爆】! 【裂】!』


 [シン]は俺の指示を忠実に守り、ただひたすら[ジークフリート]に攻撃を仕掛ける。

 一方で、[ジークフリート]は、憐憫れんびんたたえた瞳で[シン]を見つめていた。

 まるで、そんなものは無意味だと言わんばかりに。


『アハハ。サスガニコウナッテクルト、キミノ精霊ガイストガ可哀想ニナッテクルヨ。ソロソロ止メサセテアゲタラ?』

『うるさいのです!』


 すると、今も[ジークフリート]の攻撃をかわしながら呪符を貼り続ける[シン]が立花に向かって叫んだ。


『マスターはいつだって、[シン]のために頑張ってくれるのです! いつだって、[シン]を大切にしいてくれるのです! そんなマスターが、[シン]にお願いしたんです! だから……だから! [シン]はただマスターの言葉を信じるだけなのです!』

「[シン]……」


 はは……本当に、俺は恵まれてる。

 そうだな、こんなに俺の[シン]が信じてくれてるんだ。そろそろ、それに見合う結果ってやつを見せてやらないと、な。


「[シン]! [ジークフリート]の胴を覆っている甲冑に、氷属性・・・の攻撃を仕掛けろ!」

『っ! ハイなのです!』


 [シン]は、呪符を[ジークフリート]の甲冑に素早く呪符を貼り付けると。


『【凍】!』


 その言葉と共に、[ジークフリート]の甲冑が一瞬で凍り付く。

 そして。


 ――ピシ……ピシ……。


『ッ!? ナ、ナンデ!?』


 [ジークフリート]の甲冑に亀裂が入り、ぼろぼろと欠片が床に落ちていく。

 それを見る立花の漆黒の瞳に、動揺の色が見て取れた。


 まあ、理由は簡単。

 [ジークフリート]の甲冑は、必ずしもダメージを全て無効化できるわけじゃない。

 だから、【裂】でほんの僅かな傷を作りつつ、火属性の【爆】で甲冑を熱していたんだ。


 そこへ、氷属性の【凍】で攻撃をしたらどうなるか。

 甲冑は急速に冷え、膨張し切っていたものが一気に収縮してしまったんだ。無数につけられた小さな傷も相まって、甲冑は簡単に壊れるって寸法だ。


 でも……この作戦が成功したのは、そんな状態に持ち込むまで[ジークフリート]の攻撃をかわし続け、呪符で攻撃をし続けてくれた、[シン]がいたからこそだ。


『はう! すごいのです! すごいのです! やっぱり[シン]のマスターは最高なのです!』

「はは! そういう[シン]は、最高の精霊ガイストだよ!」


 俺は飛び込んできた[シン]の頭を、最高の笑顔を見せながらガシガシと乱暴に撫でた。


『ググ……ッ! マダ甲冑ヲ破壊サレタダケダヨ! 【竜の恩恵】デ極限マデ強固ニナッタ[ジークフリート]ノ皮膚ニハ、同ジ攻撃ハ通用シナイ!』

「まあ、お前の言う通りだな」


 顔を歪めた立花の叫びに、俺は肩をすくめながら首肯した。

 だけど……俺が何のためにわざわざこんな真似をしたと思ってるんだ? 


『サア、コノママ【竜の恩恵】ノ効果ガ切レルマデ逃ゲルノカイ?』

「いやオマエ、何勝手に勝ち誇ってんの? 今から、俺達にやられるのに」

『何ッ!?』

「[シン]! 背中だ! [ジークフリート]の背中に葉の形をした部分だけ無防備のところがある! そこに呪符を叩き込め!」

『ハイなのです!』


 俺の指示を受けた[シン]は、すぐさま[ジークフリート]に迫る。


『クッ! [ジークフリート]! アノ精霊ガイストヲ近ヅケサセルナ!』


 立花はマズイと感じたのか、焦りながら[ジークフリート]に指示を出した。

 といっても、どうやって[シン]を止めるつもりだ?


「行け! [シン]!」

『【神行法・瞬】!』

『ッ!? 消エタ!?』


 突然、[シン]の姿が俺達の視界から消え、立花と[ジークフリート]はキョロキョロと辺りを見回す。


 ――ペタ。


『遅いのです』

『ッ!?』


 いつの間にか[ジークフリート]の背後にいる[シン]は、背中の葉の形をした箇所にそっと呪符を貼り付けると。


『【爆】』

『アアアアアアアアアアアアアッッ!?』


 [ジークフリート]は呪符による爆破で吹き飛び、同じく立花ももんどりうって倒れた。


「ふう……」


 それを見届けた俺は、深く息を吐く。


 ――ポン。


「ふふ……見事だ」

「さすがネ! ヨーヘイ!」


 いつの間にか俺の傍に来ていた先輩が俺の肩を叩き、サンドラが嬉しそうに俺の顔をのぞき込んだ。

 先輩も、無事吸収・・が終わったみたいだ。


 ……さて。


『ウ、ウウウ……』

「立花、大丈夫か……って、俺がこんな目に遭わせておきながら、何言ってんだって話だけどな。


 俺は立花の身体をそっと抱き起こすと、そんな言葉をかけてから苦笑した。


『……放ットイテヨ。ドウセキミハ、ボクト一緒・・ジャナインダシ……本当ノ、友達ジャ……ナイン、ダシ……』


 そう言うと、立花はぽろぽろと涙をこぼし始めた。

 ハア……そもそもコイツ、何勘違いしてやがるんだよ……。


「あのなあ……確かに俺は、お前と一緒じゃない・・・・・・って言ったけど、一緒じゃないと駄目なのか?」

『……ダッテ』

「だってじゃねーよ。俺もお前も、境遇も環境も違うんだから、一緒になるなんてあり得ないだろ。それに」

『……ソレニ?』


 立花は俺をジッと見つめ、次の言葉を待つ。

 その瞳は、まるで拒絶しているようで……それでいて、何かを期待しているかのようだった。


「俺達、友達・・じゃないのかよ。少なくとも、俺はお前のこと、本当の友達・・・・・だと思ってるぞ?」

『ッ!?』


 俺の言葉に、立花が目を見開く。

 まるで、予想外の言葉を聞いたかのように。

 そして、求めていた言葉を聞いたかのように。


『ダ、ダケド! ……ダケド、ボク……!』

「はは、何だよ。お前だって言ったじゃねーか。俺のこと、本当の友達だって」


 そう言って、俺は立花の頭を撫でてやった。


『本当ニ……キミッテズルイ、ヨ……』

「いや、なんで俺がズルイことになってんだよ」

『アハハ……ダッテ、コンナノ……嬉シイニ決マッテルジャナイカア……!』

「うおっ!? ちょ!? おま!?」


 突然、立花は俺に抱きついて泣きじゃくる。

 ハッキリ言って、俺には男に抱きつかれて喜ぶ趣味はないんだけど……ハア、まあいいか。


 俺は苦笑しながら、立花の背中を優しく叩いた。

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