第182話 覚悟と決意のはき違え

「ひ、氷室先輩、その……今言った、あの・・領域エリアというのは……?」

「っ!?」


 そう尋ねた瞬間、氷室先輩が息を飲んだ。


「氷室先輩……?」

「……いえ、特に隠すつもりもなかったのですが、実はこの領域エリアと似たような領域エリアを知っているんです……」

「「「え……?」」」


 氷室先輩の告白に、俺達三人は声を漏らした。

 この“レムリア”領域エリアと似た領域エリアを知っている……?」


「はい……」


 氷室先輩は、その似ているという領域エリアについて説明してくれた。


 学園に入学した直後、近所の公園で妹さんを遊ばせていた時に、を偶然発見したこと。

 その領域エリアは、“アトランティス”領域エリアや“レムリア”領域エリアのように、学園にあるような普通の・・・領域エリアとは異なっており、かなり特殊であること。


 そして。


「……ひょっとして、この領域エリアでも、領域エリアボスを倒した後に、ほこらのようなものがありませんか?」

「…………………………」


 間違いない。

 氷室先輩が知っているというその領域エリアは、二周目特典として現れる五つの領域エリアのどれかだ。


「それで……その領域エリアはどんなところでしたか?」

「はい、ただ一本の細い道が延々と続く、不思議な領域エリアです。そして、その道の下は、どこまでも続く奈落のようになっていました」


 そうか……となると、氷室先輩が偶然見つけたっていう領域エリアは、“葦原中国あしはらのなかつくに領域エリアだな……って!?


「そ、それで氷室先輩は、ひょっとしてその領域エリアを踏破したんですか!?」


 俺は慌てて尋ねると、氷室先輩は無言で頷いた。

 い、いやいや!? あの領域エリアの推奨レベルは六十五なんだぞ!? 


「い、一体どうやって……!?」

「いえ……もちろん、私もつい最近までは・・・・・・・一番最初に出現する幽鬼レブナントを【ワンショット】で狙撃して倒すことで、コツコツとレベル上げをしてました。ですが」


 氷室先輩はそこで一拍置くと、顔を上げてジッと俺を見た。


「[ポリアフ]にクラスチェンジをしたことで劇的に強くなった私は、先程みなさんも見た【スナイプ】で、先日一気に踏破しました」


 そうか……確かにあの【スナイプ】なら、幽鬼レブナントに近づく隙さえ与えずに倒すことができる。


 それに“葦原中国”領域エリアは、光属性と闇属性がメインの領域エリア

 視界を奪うなどの状態異常系のスキルや高威力のスキルを持つ幽鬼レブナントが多い中、遠距離攻撃で安全に倒すことは、一番理にかなっている。


 とはいえ。


「氷室先輩も、かなり無茶をしますね……」

「ふふ……弱かった私は、人一倍積み重ねる・・・・・ことしかできませんから……それに、あなたが与えてくれたこの力を確かめたかったんです。以前の私と比べて、どこまで進むことができるのか……あなたの隣に立って、支える資格があるのかを」


 氷室先輩は胸にそっと手を当て、瞳を閉じて柔らかい表情を浮かべた。


 うう……氷室先輩の気持ちはメッチャ嬉しいけど、その、好感度が大変なことに……。


「むううううううう! な、ならこの私も、君が踏破したというその領域エリア、ソロで踏破してみせるとも!」

「ワ、ワタクシだって……ワタクシだって!」


 いやいや二人共、何言ってるの!?


「せ、先輩、待って下さいよ! サンドラも落ち着け! もちろん氷室先輩が踏破したっていう領域エリアには行くけど、当然、この四人で行くから! ソロでなんて絶対に駄目だから!」

「な!? ど、どうしてだ! 氷室君がソロで踏破した以上、私もそうしなければ立つ瀬がないじゃないか!」

「そ、そうですわヨ! そうじゃないと、ワタクシがアナタの隣に並ぶ資格ガ……!」


 俺は二人をなだめるが、一向に話を聞かず、ずい、と詰め寄ってくる。

 しかも、俺の隣に並ぶ資格ってなんだよ……!


「二人共聞いてくれ! 俺の隣に並ぶのに、資格とかそんなモンないから! そもそも俺は、二人にはこれからも、俺の隣にいて欲しいだけなんだから!」

「「っ!」」


 ああもう……恥ずかしい……。

 だけど、これが俺の本心だ。

 俺は……ずっと俺を信じてくれる、見ていてくれる二人に、傍にいて欲しいんだ。


 だから。


「……俺はそんなくだらない意地みたいなモンで、二人が危険をさらすようなこと、ゴメンだからな……」


 そう言うと、俺はプイ、と顔を背けた。

 二人のその無駄な覚悟と決意に、少しだけ怒っていたから。


「あう……す、すまない……」

「ゴメンナサイ……」


 すると、二人は珍しくシュン、とうつむいてしまった。

 ハア……しょうがない、なあ。


「あう!?」

「フエ!?」

「あーもう! ホラ、サッサとほこらに行って、氷室先輩に【火属性反射】と【氷属性反射】のスキルを取得してもらいますよ!」


 俺はうつむく二人の頭を少し乱暴に撫で、ぶっきらぼうにそう言った。

 二人には、落ち込んでほしくないから。


「あう……ふふ……分かったよ」

「モウ……ヨーヘイのバカ……」


 二人は頬を少し赤くしながらはにかむ。

 はは……やっぱり二人は、そんな表情のほうが好きだな。


「……私も、まだまだ足りませんね……(ポツリ)」

「? 氷室先輩?」

「……いえ、何でもありません」


 少し暗い表情を浮かべた氷室先輩が気になったが、とりあえず、祠で氷室先輩に【火属性反射】と【氷属性反射】を取得してもらい、“アトランティス”領域エリア及び“レムリア”領域エリアの二回目の踏破を終えた。

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