第181話 ステータスの真実

『はう! 突然ビックリしたのです!』

「はは、悪い悪い」


 ようやく落ち着いた俺は[シン]を降ろすと、[シン]にたしなめられてしまった。

 まあ、最高に嬉しかったんだから仕方ないよな。


「デモ……精霊ガイストのステータスって、一体どこまであるんですノ……?」


 俺のガイストリーダーをしげしげと眺めながら、サンドラが呟く。


 だけど、確かにサンドラの言う通りだ。

 実際、『まとめサイト』でもステータスの最高値は“SS”で間違いないはずだし、それはこの世界の常識でもある。


「ふむ……だが、このステータスの上限が、実はたった一つの・・・・・・事実・・のみで決まっているということは知っているか?」

「「「え……?」」」


 先輩がふいに発した言葉に、俺達は一斉に先輩へと視線を向けた。


「そ、それってどういう意味ですか……?」

「うむ……これは私のお母様から教えてもらった話なんだが、精霊ガイストのステータスは、ある英雄達・・・の能力値を基準としているのだ」

「「「英雄達!?」」」


 オイオイ!? 先輩の言う英雄達・・・って、ひょっとして……!?


「……それは、“始まりの六人”のことだ」

「“始まりの六人”……」


 先輩の言葉を、氷室先輩が反芻はんすうする。

 “始まりの六人”というのは、この世界の人間なら誰もが知っている、百年以上前に世界で最初に精霊ガイストが発現した六人。

 それぞれが伝説に相応しい能力を持ち、数々のエピソードは子ども達の夢物語となっている。


「そうだ。そして“始まりの六人”の能力値を最上の“SS”とし、全ての精霊ガイスト使いの能力値の中間値を“D”としている……」


 そうか……俺の[シン]は、『敏捷』ステータスがその“始まりの六人”のステータス値を超えているから、“SSS+”になった、ということか……。

 確かに、『まとめサイト』にある真のラスボス・・・・・・のステータスはオール“SS”、これは、『ガイスト×レブナント』の世界において、文字通り最強・・であることを意味するもの。

 だからこそ、主人公の最終ステータスも、オール“SS”となっているんだから。


「……ははっ」

「望月さん……?」


 思わず笑ってしまった俺を、氷室先輩が不思議そうに見つめる。

 だけど……俺は今、最っ高に嬉しくて仕方ないんだ。


 だって、それが示しているのは、強くなるのに限界がないってことだから。

 そしてそれは、俺達がどこまでも速く・・……そして、どこまでも強く・・なれることができるんだから。


「ア……フフ、ヨーヘイったら、本当に分かりやすいですわネ……」

「な、何だよ……」


 クスクスと笑うサンドラに気づき、俺はつい悪態を吐いてしまった。


「ふふ、そうだな……だが、私もまだまだ・・・・強くなる。君が、その可能性を示してくれたのだから」


 すると今度は、先輩が口の端を持ち上げてそう宣言した。

 ですが、もちろん俺も、それは理解していますよ。


 そんな優しくて、強くて、素敵なあなたを、俺は超えてみせますから。


「よっし!」


 俺は気合いを入れるため、パシン、と両頬を叩いた。


「さあ! この階段を下り切ったら“レムリア”領域エリアのボス戦です! サクッと倒しちゃいましょう!」

「ああ!」

「フフ……エエ!」

「そうですね」


 俄然がぜんやる気になった俺の言葉に、先輩とサンドラが力強く頷き、氷室先輩は表情を変えずに返事した。

 といっても、氷室先輩っはグッ、と拳を握っているし、気合十分なのがうかがえる。


 そして、少し足早に俺達は階段を下りて“レムリア”領域エリアに到着すると、その足でここの領域エリアボス、“ベレヌス”がいる建物へと向かった。


「いましたね……あの忌々しい領域エリアボスが……!」


 俺はベレヌスの姿を見て、ギリ、と歯噛みする。

 相変わらず、ムカツクツラしてやがるなあ……!」


『プークスクス! マスターがまたアイツに嫉妬してるのです!』


 チクショウ! そういうこと言うの、いい加減やめろよ!


「そうですか? あの領域エリアボスなどより、望月さんのほうが明らかに良いと思いますが?」


 ひ、氷室センパアアアアアイ!


「むむ! もも、もちろん私だってそう思っているとも!」

「エエ! 当然ですワ!」


 いや二人共、別に氷室先輩に張り合わなくても……でも嬉しい。


「では、あの目障りな領域エリアボスは、この私が排除いたします。[ポリアフ]」


 すると、氷室先輩はまだベレヌスからかなりの距離があるにもかかわらず[ポリアフ]を召喚すると。


「くたばりなさい。【スナイプ】」


 [ポリアフ]は、氷室先輩の肩の上でロングバレルのスナイパーライフルを構え……って、スナイパーライフル!?


「ファイア」


 そんな氷室先輩の合図と共に、銃口から一発の弾丸が射出された。


 そして。


『ッッッ!?』


 弾丸は見事にベレヌスの額に命中し、もんどり打って倒れる。


「次弾装填……ファイア」


 さらにもう一発発射すると、今度は倒れているベレヌスの左胸に着弾した。


「「「あ……」」」


 俺達三人の呆けた声と同時に、ベレヌスが幽子とマテリアルに変化した。


「ふふ、他愛もない……これなら、あの・・領域エリアのボスのほうが手強かったですね」

「え……?」


 氷室先輩が放った何気ない一言に、俺は思わず目を向ける。


「ひ、氷室先輩、その……今言った、あの・・領域エリアというのは……?」

「っ!?」


 そう尋ねた瞬間、氷室先輩が息を飲んだ。

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