第180話 限界突破の、その先へ

 “アトランティス”領域エリアをものすごい勢いで突き進んでいく俺達は、四時間程度でここの領域エリアボス、“クロケル公爵”の元へとたどり着いた。

 以前に来た時と比べると、まあ一時間以上は短縮できたかな。


「あれが、ここの領域エリアボス……」


 中央の穴の上で浮遊するクロケル公爵を眺めながら、氷室先輩がポツリ、と呟いた。


「あはは、今の俺達四人だったら、あの程度の領域エリアボスなんて瞬殺ですよ。ねえ、先輩?」

「ああ。もちろん、これは侮っているわけでもない。それだけ、私達は強くなったのだからな」


 そう言うと、桐崎先輩は不敵な笑みを浮かべる。

 確かに先輩は、柱の三体から半分とはいえ“ウルズの泥水”を吸収しているばかりか、“ぱらいそ”領域エリアでのレベル上げの成果もあり、手ごたえを感じているはずだ。


「ですけド、そうなりますと領域エリアボスとの連戦、ということになりますわネ……」

「まあ、な。だけどサンドラ、ここの領域エリアボスは、あの・・幽鬼レブナントよりも弱いんだぞ?」

「ア……」


 俺の言葉で、サンドラも気づいたみたいだ。

 そう……所詮、ここの領域エリアボスですら、“ぱらいそ”領域エリアで俺達がカモにしているクイーン=オブ=フロストやキング=オブ=フレイムよりも弱い。

 もちろん、幽鬼レブナントの特性や状況、相性など、必ずしも一致しているわけじゃないけど、それでも、俺達が倒される道理はない。


 ということで。


「[シン]! あの領域エリアボスを、地面に叩き落としてやれ!」

『任せるのです!』


 俺の指示を受け、[シン]は中央の穴に向かって一気にダッシュする。

 そして、穴の縁にたどり着くと。


『【神行法・跳】!』


 グッとしゃがみ込んだかと思うと、[シン]はロケットのように上空へと射出され、クロケル公爵の遥か上空へと飛び上がった。


『それー! なのです!』


 クルリ、と身体を宙返りさせて文字通り空中を蹴り・・、クロケル公爵の頭上に肉薄する。


『ッ!』


 するとクロケル公爵は、右手に持つ氷の剣を[シン]へと突きつけた。

 だが、[シン]は牧村クニオとの戦いの時に見せたような動きで、その剣をスルリ、と躱し、クロケル公爵の背後を取った。


『食らえなのです! 【爆】!』

『ガガガガガガガガッッ!?』


 そして前回同様、重ね合わせた呪符によって地面へと吹き飛ばすと、そこには先輩とサンドラ、そして氷室先輩が待ち構えていた。


「ハアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

「トドメですワ! 【裁きの鉄槌】!」

「【レイオマノ】」


 クロケル公爵が地面にたどり着く前に、氷室先輩の[ポリアフ]が牙を刃にした武器でズタズタに切り裂き、それに追随するように[関聖帝君]の青龍偃月えんげつ刀が【一刀両断】にする。


 そこへサンドラの[ペルーン]がメイスを叩き落した瞬間、周囲に稲妻が走ると、クロケル公爵が黒焦げになり、幽子とマテリアルに変化した。


 ……今回は【アブソリュート・ゼロ】を発動する暇すら与えられなかったみたいだな。

 

『はう! やったのです!』


 空中を飛び跳ねながら[シン]が戻って来ると、俺の胸に勢いよく飛び込んできた。


「ああ、よくやったぞ」

『えへへー、なのです』


 そんな[シン]の頭を優しく撫でてやると、[シン]は嬉しそうに目を細める。

 全く……アイスを食べる時より嬉しそうな表情しやがって……。


「それにしても……改めて見ると、[シン]の能力はすさまじいですね……」

「はい! 俺の自慢の相棒ですから!」


 氷室先輩に[シン]を褒められ、俺は嬉しくなる。

 だって、俺にとってこんな最高の精霊ガイスト、世界中のどこを探したっていないもんな……。


「さあ! このまま“レムリア”領域エリアに行って、次の領域エリアボスもサッサと倒しちゃいましょう!」

「ええ」


 俺達は意気揚々と“レムリア”領域エリアへと続くらせん階段を下りて行く。


「望月くん、少しいいか……?」


 すると先輩が俺に声を掛け、隣に並んだ。


「ええと、どうしました?」

「うむ……先程の領域エリアボスとの戦いを見ていて気づいたのだが……[シン]の動きが、また一段階速くなってはいないか……?」

「ほ、本当ですか!?」


 先輩の言葉を受け、俺は慌ててガイストリーダーを取り出す。


 —————————————————————

 名前 :シン(神行太保)

 属性 :神仙(♀)

 LV :61

 力  :E

 魔力 :S+

 耐久 :D+

 敏捷 :SSS+

 知力 :S

 運  :B+

 スキル:【方術】【神行法】【全属性耐性】

【水属性反射】【火属性反射】【氷属性反射】

【状態異常無効】【物理弱点】【繁殖】

 —————————————————————


「あ……」


『敏捷』ステータスの“SSS+”の表示。

 そこには、クラスチェンジを果たしてからも休まずに続けてきた努力の証・・・・が、確かに刻まれていた。


「ふふ、やはりそうか……」


 そして、一緒にガイストリーダーを見つめる先輩は、嬉しそうに頬を緩める。

 まるで、俺達を祝福するかのように。


 はは……こんなの、嬉しすぎるだろ……!

 俺はガイストリーダーを握りしめると。


『はう!? ど、どうしたのです!?』

「はは! やった! やったぞ!」


 [シン]を抱きしめ、階段でクルクルと踊るように回った。

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