第40話 兄弟子の目的
先輩の指示に従って俺がサンドラとの勝負を受けて以降、俺達三人は毎日のように“グラハム塔”
その甲斐あって、今では第五十階層以降でも余裕で戦えるほどサンドラの実力もついてきた。当然、彼女の
俺? [シン]のレベルは五十一のままですが何か?
「ふふ……これならば、二人だけでも
「はい! これも、先輩が指導してくれたおかげです!」
第五十七階層での攻略を終え、桐崎先輩が柔らかい笑みを浮かべながらそう言ってくれたので、俺は素直に感謝の気持ちを伝えた。
「あう!? ま、全く君は、相変わらず遠慮のない……そ、それに、君なら既に単独でもタロースを倒す実力があるではないか。私の助力など、それこそ微々たるもので……」
「何を言ってるんですか! いつも俺達が攻略に集中できるように、
当然だ。先輩のしてくれていることは、俺達にとって本当にかけがえのないものなんだ。
どこに先輩以上に俺達を支えて、見守ってくれる人がいるっていうんだよ。
本当に、先輩はすごい。
「あうあうあうあう!? わ、分かったから……!」
なのに先輩ときたら、こうやって謙遜ばかりして、恥ずかしがって……いつものように凛とした姿を見せてくれたらいいのに。
『ハイハイ、もうマスターの無自覚攻撃にも見飽きたのです』
『(コクコク!)』
「全くですワ」
[シン]と[関聖帝君]が遠巻きに俺と先輩を見やりながら、呆れた表情を浮かべてやがる……って、なんでサンドラまで加わってるんだよ。
「コホン! と、とにかく! これならもう、“グラハム塔”
「え? じゃあ……」
俺とサンドラが先輩を見ると、先輩はニコリ、と微笑んで頷いた。
「い、いよいよですワ! 明日、決着をつけますわヨ!」
サンドラが嬉しそうに小さくガッツポーズをした後、ス、と俺に右手を差し出した。
「フフ……負けませんわヨ?」
「ああ、俺もだ」
俺はサンドラの右手を握り、健闘をたたえ合った。
◇
――ピピピ。
「くあ……」
朝になり、俺はスマホのアラームで目を覚ます。
だけど。
『すう……すう……』
「……うん、相変わらず寝相が悪いな」
[シン]の奴、いつの間にか逆さ向きになり、俺に思いっ切り足……もとい金属のブーツを向けて気持ちよさそうに眠ってやがる。
というか、アレ以降、[シン]は毎晩俺とベッドで一緒に寝ている。
何度か無理やり追い返そうとしたが、俺がベッドに入った瞬間、勝手に現れてもぐり込んできやがるし……せめて寝るなら、ブーツぐらい脱げ。
といっても、
「オーイ、朝だぞ起きろー」
『んう……ムニャムニャ……もっとアイスクリームを食べるのです……』
どうやら[シン]は幸せな夢を見ているようだ。
「ハア……ほら、そろそろ起きろー」
せっかく気持ちよさそうにしているのに起こすのは忍びないが、俺だって遅刻できないのだ。
それに、今日は俺とサンドラの二人だけで
『はうう……あ、マスターおはようなのです』
「ああ……おはよう……」
『?』
朝から疲れた俺だが、とりあえず[シン]が目を覚ましてくれて良かった。
というか、仮に置き去りにしたとしても、召喚したら離れててもやってきたりするんじゃないか? 今度試してみよう。
ということで、俺は慌てて支度をして家を出ると、少し駆け足で学園へと向かった。
最近気づいたが、先輩は俺の通学する時間帯に合わせているみたいなのだ。それなのにこの俺が遅れて、先輩に迷惑をかけるわけにはいかないからな。
「あ! 先輩!」
見ると、いつも合流する十字路で先輩が立ち止まってキョロキョロとしていた。間違いなく、俺を待ってくれているんだ。
こういうところ、本当に先輩は可愛いなあ……。
「先輩! おはようございます!」
「! ……コホン、うむ、おはよう」
俺は大急ぎで先輩の元へ行って朝の挨拶をすると、先輩は一瞬ぱあ、と笑顔を見せるけど、すぐに咳払いをして平静を装っていた。くそう、こんな反応は反則だろ。尊みが過ぎる
「すいません! お待たせしました!」
俺はあえてそう言って先輩に謝ると。
「ななな、何を言っているのだ? わ、私はたまたまここを通りかかっただけだ。け、決して君を待っていたわけではないからな? うむ!」
いやいや先輩、俺、そんなことまで聞いてないです。でも……待っていてくれて、ありがとうございます。
「そ、それよりもだ。今日の“グラハム塔”
「はい、もちろんです! 絶対に、今日中に踏破してみせます!」
「うむ……ふふ、だが君らしいな」
俺が先輩に意気込みを伝えると、何故か先輩が嬉しそうに微笑んだ。
「? 俺らしい、ですか?」
「ああ。そもそも、君はサンドラとどちらが先に
「ああ……」
まあ、確かに俺は、サンドラとそんな勝負をしている。
だけど。
「あはは、勝負は受けましたけど、そもそも俺はアイツの
「ハハハハハ! なるほど、そうきたか!」
俺がそう答えると、先輩が愉快そうに大声で笑った。
「それに」
「ハハハ……ん? それに?」
「それに……俺はサッサと“グラハム塔”
「あう!? ……あ、うむ……ふふ、そうだな。私も、君と共にどこまでも一緒に行きたい。学園の中だけでなく、外の世界にだって……」
俺の想いに応えてくれるかのように、先輩が咲き誇るような笑顔を俺に向けてくれた。
そうだ……強くなった今、俺のこれからの目的はいつだって先輩の隣にいることなんだから。
「はい……行きましょう、先輩!」
「ああ!」
俺と先輩は見つめ合い、頷き合い……そして、固く誓った。
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