第22話 今だけは
「望月くん、大丈夫か!?」
[関聖帝君]でストーンウルフを一刀両断にした桐崎先輩が、心の底から心配した表情で俺の元に駆け寄って来た。
「あ、はは……何とか……」
俺は先輩の姿を見て安堵したのか、身体から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「望月くん!?」
滑りこむように先輩が俺の前でしゃがむと……俺を、抱きしめてくれた。
「全く……無茶をして……! 本当に、心配したんだぞ……!」
先輩のその声は、
「はは……疲れてしまったので、少し休んでもいい、ですか……?」
「っ!? お、おい望月くん! 望月くん!?」
ああ……先輩が俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺は、帰って……これたんだ……。
そんなことを思いながら、俺は意識を失った。
◇
「んう……」
目を開けると、白い天井が視界に飛び込んできた。
「あれ? ここは……」
「! 目が覚めたか!」
「うああああ!?」
突然、ニュ、と先輩の顔が現れ、俺は驚きの声を上げてしまった。
というか、一体……。
「良かった……突然気を失ったから、心配したんだぞ……!」
先輩は心底安堵したような表情を浮かべ、胸を撫で下ろす。
そして。
「アイタッ!?」
「バカモノ! あれほど第五階層までにしておけと言ったのに、勝手にその上……しかも、第二十一階層まで行くなんて!」
「うああああ!? すいません!」
頭を小突かれた上に思い切り怒鳴られてしまい、俺は条件反射で謝った。
「本当に……心配、したんだぞ……!」
先輩は眉根を寄せながら思い切り俺を睨む。
だけど……その真紅の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「本当に、すいませんでした……!」
先輩のその姿にどうしようもなく罪悪感にさいなまれた俺は、自分が犯した過ちに気づいた。
俺は……何やってんだよ……!
「もう……こんな危険な真似はするな……! 絶対にだ!」
「はい……っ!」
俺は唇を噛みながら、指で涙をすくう先輩にただ頭を下げ続けた。
◇
「全く……君がそんなに無謀だとは思わなかったぞ……」
しばらくして、とりあえず先輩は許してくれたものの、お小言はまだ続いていた……って。
「そ、そういえば先輩、どうして第十二階層まで来てくれたんですか? それに、何で俺が第二十一階層まで行ったことを……?」
「ん? ああ、実は……」
先輩は第十二階層で俺を見つけるまでの状況を詳しく教えてくれた。
予定が早く終わった……というか、早く切り上げ、午後二時よりも一時間以上早く“グラハム塔”
俺と合流しようと
休日で、しかも
しかも、木崎セシルの制止も聞かず、どんどん先に進んだ挙句の結果だとも。
「……それを聞いた私は無我夢中で第二十一階層を目指したんだが、まさか第十二階層で君を見つけられるとは思わなかったぞ」
「そうですか……」
はあ……あのクソ女やってくれる……。
「それで……君はどうして、その……あの木崎セシルという女子生徒と一緒に、そんな上の階層まで行こうと思ったのだ?」
先輩は上目遣いでおずおずと尋ねる。
どうしてそんな可愛らしい様子で聞くのかは分からないけど、とりあえず、本当のことを離しておこう。
「ええと、実は……」
俺は何があったのか、かいつまんで説明する。
昨日先輩と別れた後、木崎セシルから“グラハム塔”
それも、先輩と俺との会話を聞いていたのか、土曜日の今日行きたいと。
俺は第五階層までという条件で了承し、今日の朝八時から
だけど、第五階層に着いた途端、木崎セシルはさらに上の階層を目指そうと持ちかけられ、俺はそれを拒否するも、さらにお願いされると何故か断り切れずに渋々承諾してしまったこと。
さらに、第十階層に着いた時も同様にねだられ、その時も同じくただ頷いてしまったこと。
そして……俺が第二十一階層へ足を踏み入れた途端、木崎セシルによって階段を魔法で破壊され、瓦礫で
「……それで、俺は木崎セシルに利用されて、しかも
そう言うと、俺は包帯でグルグルに巻かれた両手を見つめる。
はは、あの時は興奮してたから気にならなかったけど、かなり無茶したからなあ……今はジンジンして結構痛い。
「そうか……」
俺の話を全部聞き終えた後、先輩は静かにその一言を
その時。
「あの女ああああああああああああああッッッ! 絶対に! 青龍
髪の毛が逆立つかと思う程に激高し、学園中に轟くのような声で絶叫した。
その姿は、まさに絶対的強者の、怒り狂う獅子の咆哮だった。
「せ、先輩! 待って下さい!」
「っ! 何故だ! 君は一歩間違えたら死んでいたんだぞ! そこまでした相手に、慈悲など必要ない! そうだろうっ!」
「そ、その通りです! ですがっ!」
俺は今にも飛び出しそうな先輩を止めると、到底納得できない先輩は、俺に詰め寄った。
でも……それでも、俺は先輩を制止する
「俺は……強くなって、あのクソ女を見返すんです……! そして、今日こんな真似をしたアイツを後悔させてやるんです! だからっ!」
「だ、だが……っ!」
「お願いしますっ!」
「ぐ、ぐむ……」
そう言って俺が必死で頭を下げると、納得いかないもののとりあえずは矛を収めてくれた。
「ありがとうございます……」
「し、仕方あるまい! 当事者の君がそう言っているのに、
どうしても腑に落ちない先輩は、精一杯の皮肉を込めてそう言い放った。
だけど……俺は、その言葉がとても悲しくて。
「む? あ……」
気がつけば、俺は先輩に縋りついていた。
「先輩……
「も、望月くん!?」
ああ……駄目だ。
クラスの連中に、先生に馬鹿にされ、あのクソ女に裏切られ、その上先輩にまで見限られるのかと思うと……怖くて……怖くて……っ!
「バ、バカモノ! あれはただの言葉の
「本当、ですか……?」
「ああ、もちろんだとも!」
「よか、った……!」
先輩の言葉に安堵し、俺の瞳からとめどなく涙が
あのクソ女に裏切られても、強くなって見返せばいい……だから、俺は気にしないって、そう考えるようにしてたのに……!
その時。
「望月くん……っ!」
先輩が、俺を抱きしめてくれた。
強く……ただ、強く。
「せん……ぱい……?」
「悔しいなら、泣けばいい! 悲しいなら、声を出して泣き叫べばいいんだ! この私が君のその想いを全部受け止める! だから……!」
「ああ……あああ……!」
先輩……泣き止んだら、また俺は強くなるために頑張ります。
だから。
「あああああああああああああああ……!」
だから……今だけは先輩の胸で、泣かせてください……。
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