第23話 ステータスの秘密
どれくらい時間が経っただろう。
もう何時間も経過したようにも感じるし、あっという間のような気もする。
でも……これだけは分かる。
俺はこの温もりから離れたくない、離したくない。
だから。
「先輩……もう、大丈夫です」
俺は、桐崎先輩の背中をポンポン、と叩いて彼女から離れた。
「うむ……ふふ、澄んだ綺麗な……そして、覚悟と意志を
俺の泣き
それは、この世のどんなものよりも綺麗で、素敵で、吸い込まれそうで……。
「先輩……俺と[ゴブ美]は強くなります。絶対に」
「ふふ……ああ、君達は強くなる。私はそう信じているぞ」
そうだ。初めて出逢った時からずっと、先輩は俺達の可能性を信じてくれた。だから、俺達は先輩に見せよう。
俺達の、可能性を。
「それで……今日はもうこんなことになってしまったし、君も怪我をしている。“グラハム塔”
先輩は俺の両手をチラリ、と見やった後、そう告げる。
でも。
「先輩……ならせめて、初心者用の
「初心者用の
そう
「……なあ望月くん。前から気になっていたのだが、君は何故あの
顔を上げ、先輩はその真紅の瞳でジッと俺を見る。
「こう言っては何だが、確かに君の
驚いた。
確かに俺は、あの『まとめサイト』の情報から[ゴブ美]の戦い方や
[ゴブ美]のステータスに惑わされず、先輩は本当に、俺のことをよく見てくれているんだな……。
……先輩なら、いいよな。
「先輩、これを見てください」
俺はポケットからガイストリーダーを取り出し、今の[ゴブ美]のステータスを見せた。
—————————————————————
名前 :ゴブ美
属性 :ゴブリン(♀)
LV :43
力 :G+
魔力 :F-
耐久 :G+
敏捷 :A+
知力 :E-
運 :G+
スキル:【集団行動】【繁殖】
—————————————————————
「むう……なんだこの『敏捷』のステータスの上がり具合は! この項目だけなら、私の[関聖帝君]よりも上ではないか……!」
[ゴブ美]のステータスを見た先輩は、思わず
そう……誰が見てもこのステータスの変化は以上だ。
「その理由を教えますので、先輩もついて来てください」
「む……あ、ああ……」
俺がそう言うと、先輩は戸惑いながらも頷く。
そして、俺達は初心者用の
「ここは?」
「見ててください」
俺は
「っ!? これはっ!?」
突然現れた扉に、先輩が驚きの声を上げる。
「……この扉は、この
俺は『まとめサイト』のことは伏せ、あくまで偶然見つけたことにして説明した。
「だ、だが! 初心者用の
「はい。おそらくは、ここがあまりにも難易度が低すぎて、誰からも注目されなかったからだと思います。実際、新入生の見学でしか使われていませんから」
「む……た、確かに……」
俺の説明に、先輩が納得して頷いた。
偶然っていうのは嘘でも、今の話自体は嘘じゃないからな。
「では、行きましょう」
「う、うむ……」
先輩は緊張した面持ちを見せるけど、すぐに落ち着きを取り戻す。
こういうところは、さすがだと思う。
俺達は扉をくぐって“ぱらいそ”
「おお……!」
先輩がこの
分かります。俺も初めて入った時、同じリアクションでした。
「こちらです……あ、それと、チラホラとこの
「む? 何故だ?」
俺がそう言うと、先輩が怪訝な表情を浮かべた。
「単純に、この
「それは……この私より、ということか?」
「はい。先輩も見れば分かると思います」
「むう……」
先輩は半信半疑なのだろう。
納得できないようだけど、それでも僕の言葉に従ってくれた。
そして。
「な、なんだあれは……!?」
「先輩、静かに」
俺は口元に人差し指を立て、先輩に静かにするように促す。
だけど、先輩が驚くのも当然だろう。
あの通路にいる
まるでチェスの
「先輩、大丈夫です。あの
「そ、そうなのか?」
「はい。見ててください」
俺と[ゴブ美]は
「今だ!」
「あっ!?」
「ふう……無事、やり過ごせましたね」
一息吐いて先輩へと振り返ると……先輩は、何故か眉根を寄せて俺を
「え、ええと、先輩……?」
「君はこれまで、いつもこんな危険な真似をしていたのか?」
あ、これは先輩怒ってるぞ。
「そ、そのー……あの
などと、上目遣いでおずおずと行ってみるが……当然先輩には通用しなかった。
「本当に君は!」
「アイタ!」
先輩に小突かれ、俺は思わず頭を押さえた。
「もうこんな危険な真似、一人では絶対にするな! どうしてもというなら、必ずこの私を連れて行くんだ! いいな!」
「は、はい……」
俺は思わずシュン、となって頷いた。
ま、まあ、ここの秘密も明かしたんだし、先輩の都合がつくならぜひ一緒に行きたい。
というか、この“ぱらいそ”
俺は……この先輩と一緒に、最後までいきたいだけなんだ。
そして俺達はさらに進み、例の行き止まりにたどり着いた。
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