第24話 目標ステータスに到達

 俺達が例の行き止まりにたどり着くと、いつものようにその奥には木箱が置かれていた。


「あの木箱には何が……」


 先輩は木箱へと近づいてゆき、ふたを開けると。


「これは……疾走丸、か?」

「そうです……しかも、この領域エリアを出入りすれば、いくつでも手に入るというオマケつきです」

「な、なんだとっ!?」


 まあ、先輩が驚くのも当然だ。

 普通は一度取ってしまえばそれっきりだからな。


「俺は見学をした日、偶然見つけたんです。この領域エリアを……この、不思議な木箱を」


 俺はもっともらしく先輩にそう告げるが……すいません、情報元は全部『まとめサイト』です。


「そ、そうか……それで君の[ゴブ美]はそのような『敏捷』を……って、ちょっと待て!?」


 どうやら先輩は気づいたみたいだ。


「この疾走丸、ひょっとして特殊なのか!?」

「いえ、他の領域エリアで見つかるものと同じ、普通の疾走丸です」

「だ、だが、それだと疾走丸によるステータス上昇効果など微々たるものだ! なのに君の精霊ガイストの『敏捷』は、まもなく“S”に迫ろうというステータスだぞ!?」


 先輩はわなわなと震えながら俺を指差した。

 そんな先輩に、俺は無言で頷く。


「き……君は一体、どれだけこの作業を繰り返したというんだ……」

「あはは……途中から数えるのをやめました……」


 そう言って、俺は苦笑しながら頭をいた。


「君という男は、本当に……!」

「わっ!?」


 突然、先輩に頭をわしわしと乱暴に撫でられた!?


「ふふ……私の目に狂いはなかった! やはり君はすごい男だ!」

「あ、あはは……ありがとうございます」


 手放しで褒めてくれる先輩に、つい照れ笑いした。

 本当にこの先輩は俺のことを見てくれて、認めてくれて……。


「さあ望月くん! では、疾走丸を!」

「はい! [ゴブ美]!」

『(コクコク!)』


 先輩から手渡され、[ゴブ美]はいつものように疾走丸を口に放り込んだ。


『…………………………』

「ふふ、その苦さには慣れないか」


 不味くて舌を出す[ゴブ美]に、先輩がクスリ、と笑った。

 はあ……やっぱり先輩は最高だ。


「ん? 望月くん、私の顔をまじまじと見てどうしたんだ?」

「へ? あ、あああああ、いい、いえ、その……!」


 うああああ!? とても先輩に見惚れてただなんて言えない!


「? まあいい、では早くこの領域エリアから出よう」

「はい!」

『(ビシッ!)』


 先輩の言葉に俺と[ゴブ美]は敬礼のポーズをした。


 ◇


 それからというもの、先輩は初心者用の領域エリアにも毎日一緒に来てくれるようになった。

 というか先輩、生徒会長なのに生徒会の活動とかいいんだろうか……。


「ん? どうした?」

「あ、いえ……何でもないです……」

「?」


 うん……聞くのはやめとこう。


「それはそうと望月くん、強くなることも重要だが、勉学も大切だぞ?」

「は、はあ……」


 先輩の言葉に、俺は曖昧あいまいに返事した。

 あのクソ女に閉じ込められた一件以来、俺はあの教室に一度も顔を出していない。

 あんな連中と顔も合わせたくないっていうのもあるし、それに、担任の伊藤先生も謹慎が解けて復帰したしな。


「ふむ……やはり、父……学園長に掛け合って君のクラス替えを進言してみよう。あのような掃きだめは、君に相応しくない」

「あはは……せっかくですが、それは結構です」

「ふう……君はなかなか頑固だな……」


 先輩のありがたい提案を断ると、先輩は俺をジト目で睨んだ。

 だけど、俺が強くなってアイツ等を見返して、悔しそうにするツラを拝んでやるのだ。


 それに……二学期にはアイツ・・・が来るしな。


「ふ……まあいい。それよりも」


 先輩は通路の行き止まりにある木箱を指差した。


「そうですね。[ゴブ美]」

『(コクリ)』


 いつものように木箱から疾走丸を取り出し、[ゴブ美]がそれを飲み込んだ。


「ふふ、一度ステータスを確認してみたらどうだ?」

「あー、そうですね」


 俺はポケットからガイストリーダーを取り出し、[ゴブ美]のステータスを確認すると。


 —————————————————————

 名前 :ゴブ美

 属性 :ゴブリン(♀)

 LV :45

 力  :G+

 魔力 :F

 耐久 :G+

 敏捷 :S

 知力 :E-

 運  :G+

 スキル:【集団行動】【繁殖】

 —————————————————————


「あ……!」


 なんと、『敏捷』のステータスがとうとう“S”に到達した。


「どれどれ……おお! やったじゃないか!」


 先輩が我がことのように喜んでくれる。

 そして。


『(ブンブン!)』


 [ゴブ美]も嬉しさのあまり、棍棒をブンブンと振り回してはしゃぎまくっていた。


「あはは……とうとうここまで来れました」

「うむ! ならば次はクラスチェンジだな!」

「はい!」


 そうだ、俺達はまだ到達すべき目標を一つクリアしただけだ。

 次は、レベルを五十以上に上げて、クラスチェンジを果たさないと。


「よし! ではこの領域エリアを出て、次は“グラハム塔”領域エリアでレベル上げに集中しよう!」

「ですね!」


 意気揚々と来た道を戻り、幽鬼レブナントが後ろを見せた隙に向こう側へ……っ!?


 ――クルリ。


「っ!? な、何だよそれ!?」


 俺達が通り過ぎようとした瞬間、幽鬼レブナント……“クイーン・オブ・フロスト”が反転してこちらを向いた。

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