第25話 クイーン・オブ・フロスト
「っ!? な、何だよソレ!?」
俺達が通り過ぎようとした瞬間、
というか、コイツは規則的に動くんじゃなかったのか!? 『まとめサイト』にはハッキリとそう書いてあったぞ!?
「っ! ……すまない、恐らく私のせいだ……」
「先輩!?」
桐崎先輩は
「ど、どういう意味ですか!?」
俺は先輩の言っている意味が分からず、慌てて問い掛けた。
「……私の[関聖帝君]には【威圧】スキルがあることは、知っているな?」
「【威圧】スキル……まさかっ!?」
俺が驚いた反応を見せると、先輩は唇を噛みながら無言で頷いた。
つまり……[関聖帝君]の【威圧】は常時発動のパッシブスキルで、恐らくあの
「で、ですが行きは何も反応しなかったのに……」
「あの時は私が[関聖帝君]を召喚していなかったからだろう……だが、今はこうやって召喚しているから、な……」
そうか……なら、迷っている暇はないっ!
「先輩! そういうことなら急いでこの
俺はそう叫ぶと、先輩の腕を取って引っ張るが……先輩は、俺の手を振り払った。
「先輩!?」
「すまん、望月くん……ここは私が全力で食い止める、だから君は先にここから脱出してくれ」
先輩と[関聖帝君]は俺達に背中を見せ、仁王立ちしながらクイーン・オブ・フロストを
「はあ!? 何を言ってるんですか! 先輩だって分かっているでしょう! いくら[関聖帝君]でも、あの
「分かっている! 分かっているとも! だが……これも分かる。このまま全力で逃げても、すぐに追いつかれて二人共あの
「先輩……」
「ふふ……もちろん、私だって易々とやられるつもりはない。だから……君は逃げるんだ」
先輩は真紅の瞳で俺を見つめながら、寂し気に微笑んだ。
俺にはそれが、先輩の別れの挨拶のように見えて……。
だから。
「っ!? 望月くん!?」
「先輩……俺が先輩を置いて逃げるとでも思ってるんですか? 見くびらないでくださいよ!」
俺と[ゴブ美]は先輩の隣に並び立ち、驚きの表情を浮かべる先輩に怒気を含めて叫んだ。
「だ、だが! これは私の責任で……!」
「それこそ余計なお世話ですよ! 責任ってなんですか! 先輩が何したっていうんですか! 先輩は……先輩は、それこそ俺達を
「っ!?」
俺の言葉に、先輩が息を飲む。
だけど、俺は怒ってるんだ。身勝手に自分を犠牲にして、俺達を逃がそうとして……!
俺が……俺達が、どれほど先輩を必要としているか、どれほど先輩を想っているか知りもしないでっ!
「……俺は先輩が一緒じゃない限り、絶対に逃げませんから。逃げるなら、先輩と一緒ですから」
「望月……くん……」
俺がそう言い放つと、先輩は俺の名を
でも……先輩の表情は、怒っていて、悲しそうで……そして、嬉しそうだった。
『…………………………』
はは、クイーン・オブ・フロストの奴、警戒してるんだか何だか知らないが、ご丁寧に俺達を待っていてくれたみたいだ。
なら……始めようか。
俺達が、ここから生きて帰るための戦いを。
俺は背中のヒューズボックスから
「先輩……俺と[ゴブ美]がスピードを活かしてアイツに仕掛け、木箱のある行き止まりへと誘導します。先輩は俺達の後を追いかけ、そして……合図をしたら通路の壁を壊して、アイツが逃げられないように、封鎖してください」
「望月くん!?」
そう言うと、先輩が驚きの表情を見せる。
だけど……先輩は真紅の瞳で俺を見つめ、静かに頷いた。
「よっし!」
俺は気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩いた。
「[ゴブ美]! 行くぞ!」
『(コクコク!)』
俺と[ゴブ美]は、無防備にもクイーン・オブ・フロストへと突撃する。
当然アイツは、俺達へと攻撃を仕掛けるために、胸の前で魔法を展開し始めた。
そして。
「っ! 来るぞ!」
クイーン・オブ・フロストは俺達目がけ、広範囲を攻撃する上級氷属性魔法、【アイスストーム】を放つ。
だけど、俺達はそれよりも先にクルリ、と反転し、木箱のある行き止まりへと繋がる通路の陰に逃げ込んだ。
「……ヤバイな」
振り返り、俺達がついさっきまでいた場所が一面氷に
あんなの、かすりでもした時点で一貫の終わりだ。
――パキ、ペキ。
「っ! [ゴブ美]! 走れ!」
俺はそう叫びながら、氷をかき分けて向かってくるクイーン・オブ・フロストの姿を見て、急いで通路の奥を目指す。
何とか……何とか追いつかれる前に、あそこまでたどり着かないと……!
「っ! [ゴブ美]!」
『(コクリ)』
[ゴブ美]が俺の手を引き、俺の走る速度はさらに上がる。
だが、クイーン・オブ・フロストも全速力で追っており、その差はどんどん縮まっていた。
「っ! 見えた!」
行き止まりの奥に鎮座する木箱が、俺達の視界に入る。
「[ゴブ美]! 俺のヒューズボックスを持って先にあの行き止まりへ……そして、中身をぶちまけろおおおおお!」
『(コクリ!)』
[ゴブ美]は力強く頷くと、俺から受け取ったヒューズボックスを持って一気に行き止まりへと到達した。
そして、ヒューズボックスの中から液体の入ったペットボトルを数本取り出すと、中身を四方にぶちまけた。
はは……俺が指示したわけじゃないのに、キッチリ通路脇に液体が掛かっていない箇所を作ってくれてあるし。
[ゴブ美]……お前が俺の
何とか追いつかれる前に行き止まりに駆け込んだ俺は、クルリ、と
まだだ……まだ……。
俺の頬を汗が伝う。
クイーン・オブ・フロストがあと数歩という距離まで迫った、その時。
「っ! 今だあああああ!」
俺達は液体がかかっていない床を思い切り蹴ると、スライディングの要領で床を一気に滑り、クイーン・オブ・フロストの横をすり抜けた。
俺達は
「おおおおおおおおおおおッッッ!」
先輩の[関聖帝君]が通路の天井、左右の壁、床を青龍
「望月くん! やったな!」
クイーン・オブ・フロストの閉じ込めに成功し、先輩が歓喜の声を上げる。
だけど。
「まだです!」
俺は素早くポケットから
――ゴオオオオオオオ!
液体に火が着き、クイーン・オブ・フロストが閉じ込められている行き止まりへと炎となって伸びていく。
「望月くん、これは……?」
「灯油、です」
先輩の手を借りて立ち上がった俺は、そう答えた。
この“ぱらいそ”
あのクイーン・オブ・フロストの弱点が
といっても。
「あはは……どちらかといえば、あの
そう言って、俺は苦笑しながら頭を
「本当に……君という男は……!」
「わっ!?」
嬉しそうに笑う先輩に、乱暴にガシガシと頭を撫でられてしまった。
でも……俺にはそれがとても心地よかった。
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