第47話 仲間でライバル?

 その後、桐崎先輩はどこかへと電話を掛けてからしばらくすると、どこからともなく黒服の男達・・・・・が数人やって来て、先輩と二言三言、言葉を交わした後、悠木を連れて去って行った。


「ええと……先輩、あの黒服の人達は?」

「うむ……彼等は精霊ガイスト特殊対策機関……通称“GSMO《グスモ》”と言って、この国の精霊ガイスト使い専門に扱う組織の職員だ。こうやって精霊ガイスト使いが問題を起こした場合などに対処するための、な」

「そうですか……ということは、あの黒服の人達も精霊ガイスト使いなんですか?」

「ああ、そうだ」


 まあ今回の悠木に限らず、いくら法律で定められているとはいえ精霊ガイスト使いが決して人に対して罪を犯さないとは限らない。

 当然、それを取り締まる専門の人達もいるに決まってるか。『まとめサイト』では攻略に関係ないから、そんなことまでは書かれてなかったけど。


「それより」


 先輩は俺の正面に立つと……俺を、抱き寄せた。

 もちろん、怪我をしている背中には触れないように。


「本当に……生きていてくれて、よかった……っ!」


 先輩の声が、手が、肩が、震えていた。


「先輩……あはは、もちろん俺は死んだりしませんよ。だって、俺は先輩とどこまでも一緒に行かなきゃいけないんですから」

「ふふ……そう、だったな……」


 俺の言葉に頷くと、先輩は俺から離れた。


「さて……とりあえず望月くんは保健室で手当てをしてから、私と一緒に病院に向かおう。サンドラ、君はどうする?」

「モチロン! ワタクシも一緒に行きますわヨ! そ、それに……ヨーヘイの怪我だって、その……ワタクシをかばっテ……」


 どんどん尻すぼみになり、最後は消え入るような声でそう言うと、サンドラはうつむいてしまった。

 あー、そういえばあの時、サンドラを突き飛ばして、俺だけ【アシッドレイン】浴びたんだったっけ。全然気にしてなかった。


 しょうがないなあ……。


「ワッ!?」

「全く……お前にそんなツラ似合わないぞ? それに、お前だって悠木を倒すために色々とサポートしてくれたじゃないか。おあいこだ、おあいこ」


 そう言うと、俺は少し乱暴にサンドラの頭を撫でてやった。

 サンドラの奴は一瞬目を白黒させるが、すぐに視線を落とした。


「で、ですガ……」

「いいんだよ。むしろサンドラを怪我させてしまうほうが、俺にとってはよっぽどトラウマものだっての」


 俺は口の端を持ち上げ、サンドラの顔をのぞき込む。


「しょ、しょうがないですわネ……そういうことにしておきますわヨ……」

「お、やっと笑ったな」

「ッ! ウルサイですワ!」


 俺の言葉で口元を緩めたサンドラだったが、ちょっとソレを指摘してやると、恥ずかしくなったのか顔を赤くして口を尖らせた。

 はは、やっぱりサンドラはこうじゃないとな。


 いつもどこか強気で、俺に勝負、勝負、と絡みながら、それでいて意外と気配りができて優しい……それこそが、『まとめサイト』にも載っていない、俺の知っている“アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ”だ。


「さて、先輩それじゃ……って、先輩?」

「…………………………フン」


 何故かよく分からないけど、先輩が口を尖らせてねていた。

 アレ? 俺、何か悪いことしたっけ?


『むふふー! これは面白い展開になってきたのです!』

『『……(ギロリ!)』』

『や、やなのです! 関姉さまもイヴァンおじさまもそんなに睨まないで欲しいのです!』


 かたや俺達のそばで、プークスクスとほくそ笑んでいた[シン]は、[関聖帝君]と[イヴァン]にメッチャ睨まれ、小さな身体をさらに縮ませていた。何やってんだよ……。


 ◇


「しかし、背中の怪我も大したことがなくて良かったな」

「はい! ……といっても、一週間は風呂に入る時地獄らしいですけどね……」


 診察を終え、病院の待合室に座っている先輩に報告すると、先輩は嬉しそうに微笑んでくれた。

 で、どうやらサンドラの奴は席を外しているようだ。多分、売店で飲み物でも買いに行ってるんだろう。


 ちなみに、俺の背中の怪我は全治三週間と診断された。

 まあ、この程度で済んだのは[シン]の持つ【全属性耐性】と【状態異常無効】のおかげだろう。

 これが、仮に属性に対して耐性を持たない上に状態異常が弱点であるサンドラが【アシッドレイン】を浴びていたら……ダメだ、考えただけでゾッとする。


「なあ、望月くん」


 先輩が少しうつむきながら、俺に声を掛けた。


「何です、先輩?」

「そ、その……もし……もし、だ……この私が彼女……悠木アヤの【アシッドレイン】を浴びそうにあったとしたら、君は……」


 先輩はギリギリ聞こえるくらいの小さな声で、最後まで言い切らないままそう呟いた。

 だけど、先輩が【アシッドレイン】を浴びそうになったら、か……。


 なら、答えは簡単だ。


「あはは、そんなの決まってますよ。その時の俺は、絶対に先輩を突き飛ばしてました」

「っ! ……そ、そうか……私も逆の立場だったら、そうしていた……」


 俺の答えを聞き、先輩は顔を真っ赤にして口元を緩めた。

 というか、先輩のピンチに俺が助けないなんて選択肢、あるわけないじゃないですか。


 それより。


「先輩。俺……“グラハム塔”領域エリアを踏破しました」

「うむ、そうだな。おめでとう」

「これからは……どんな領域エリアだって、いつも先輩と一緒ですから」

「っ! ……うん」


 先輩と俺の間に、何ともいえない空気が流れる。

 でも、俺にはその空気が心地よかった。


「二人共、何の話をしてますノ?」

「うあ!?」

「あう!?」


 突然現れたサンドラに、俺と先輩は思わず声を上げた。


「あ、い、いや、これからの領域エリアのことを……って」


 そ、そうだ! せっかくだし……今、聞いてみるか。


「なあ、サンドラ」

「? 何ですノ?」

「これから先、俺はもっともっと上の領域エリアを踏破するつもりだ。でも、当然俺一人の力じゃ、たどり着けない領域エリアだっていくつもある」

「……エエ」

「だから……サンドラも、一緒に来てくれないか? その、領域エリアの攻略に」

「ッ!」


 俺がそう告げると、サンドラは顔を真っ赤にして息を飲んだ。


 そして。


「……バカ。そんなの、行くに決まってますわヨ……」

「はは、サンキュー!」


 俺がス、と右手を差し出すと、サンドラはおずおずとその手をつかんだ。

 その時見せたサンドラのはにかんだ表情は、俺が見たサンドラの中で一番素敵で……。


「むううううううううううう!」


 ……何故だか分からないけど、プイ、と顔を背けた先輩がプクー、と頬を膨らませていた。

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