第133話 レベルアップに向けて

「あーチクショウ! 疲れたー!」


 俺は家に帰るなり、ベッドの上に突っ伏した。

 いや、今日一日だけで生徒会の仕事、メッチャあったんだけど!


 というかこれだけの量の仕事をあんなに手早く、しかも正確にこなしてる桐崎先輩と氷室先輩、すげえ……。

 ま、まあ、そんな二人に必死に食らいついて仕事をしていたサンドラも、何気にハイスペックだよなあ。


『はうー……[シン]はご不満なのです……アイスが……ご褒美のアイスがなかったのです……』


 そう呟くと、[シン]は嫌がらせのように俺の背中の上に寝そべってきやがった。

 というのも、今日も初心者用の領域エリアに行ってノルマをこなしたのに、俺が疲れてることもあって、ルフランやコンビニに寄らず、真っ直ぐ家に帰ってきたのだ。

 当然、[シン]はアイスを食べていない。


「悪い、[シン]……少しは仕事にも慣れたと思うから、明日こそはちゃんとアイスを……『二個……いえ、利子もついて三個なのです!』……わ、分かったよ、三個な……」


 とりあえずそれで手を打つと、[シン]は俺の背中から降りた。というか、やっぱり嫌がらせだったのかよ。


「あー……せっかく今日は、アレ・・ができると思ったんだけどなあ……」


 俺がポツリ、とそう呟くと、[シン]が少し目を丸くした。


『……[シン]は、嫌な予感しかしないのです……』

「ハハ……いい勘してるじゃないか……」

『やっぱりなのです! マスターはこの前言っていたのです! 半年間苦行が続くって!』


 チッ……覚えてやがったか……。

 俺は内心舌打ちすると、ジト目で睨む[シン]からサッと目を背けた。


 だけど、クラスチェンジしている俺や先輩、サンドラがレベルを上げるためには、普通の幽鬼レブナントを倒してたら、レベルをたった一上げるだけで何か月もかかっちまう。

 その間にも、クラスチェンジしていない立花達は、どんどんレベルアップしているはずだ。


「……アレ・・なら、たとえクラスチェンジした後だとしても、同じようにレベルアップが可能になる。上手くすれば、来年の春には俺達もレベル九十を超えることだって可能になるんだ」

『はうはうはう! それはすごいのです! 今まで領域エリアボスやへんてこりんな敵を倒してもピクリとも動かなかったレベルが、とうとう上がるのです!』


 俺の言葉を聞き、[シン]は目一杯はしゃぐ。

 ……『半年間の苦行』という言葉も忘れて。


「そ、そういうわけで、明日の生徒会が終わったら、先輩とサンドラも連れてその領域エリアに行くから」

『了解なのです!』


 すると[シン]は、ビシッと敬礼ポーズをした。


 ……先輩とサンドラには、なんて言おうかなあ


 ◇


「ふむ……生徒会が終わった後に、か」


 朝の通学路、加隈に追いかけ回されている立花を眺めながら桐崎先輩に、例の領域エリアの攻略? について提案すると、先輩は口元を押さえながら考え込む。


「どう、でしょうか……?」


 俺はおずおずと先輩の顔をのぞき込みながら尋ねると。


「ふふ……もちろん、一緒に行くに決まっているじゃないか」

「! ありがとうございます!」


 ニコリ、と微笑む先輩に、俺は大声でお礼を言った。


「だったら、今日の生徒会の仕事はサッサと終わらせてしまわないとですね!」

「うむ! そうだな! ……それで、君が言うその領域エリアには、全員参加するのか?」

「いえ、俺と先輩、サンドラの三人だけです」

「ふむ……」


 そう告げると、先輩はまた考え込んでしまった。

 ウーン……先輩は大勢で行きたいんだろうか。


「この前の“アトランティス”領域エリアのことを考えれば、その時のようにチームを二つに分けたほうが効率的だと思うのだが……」

「ああー」


 先輩が何を気にしているのか、その言葉でようやく理解した。

 でも、今回については、それは関係ないんだよなー。まあ、いずれは・・・・全員で攻略することがあるかもだけど。


「ええとですね……実は、今回は領域エリアの攻略が目的ではないんです」

「? どういうことだ?」

「はい。今回、俺達三人だけにしたのは、もちろん俺が一番信頼している二人だからっていうこともありますけど、そのほかにも共通点があるんです」


 そう……今のところこの三人だけがクラスチェンジを果たしていて、そのレベルアップに苦労しているのが現状だ。

 それが、例の領域エリアに行けば、少なくとも他の領域エリアでレベルアップの作業をするよりはるかに効率的になる。


 というか……一緒に・・・行ったことがある・・・・・・・・先輩なら、事情もすぐに理解してくれるだろう。


「……なので、その領域エリアは俺達だけで行って、立花やプラーミャ達には引き続き“アルカトラズ”領域エリアを……って、先輩?」

「あう……ほ、本当に君という奴は……」


 見ると、先輩は顔を真っ赤にしながら俯いてしまっていた。

 どうしたんだろう……。


「その……先輩、大丈夫ですか?」

「だだ、大丈夫だとも! も、もちろん君がそう想ってくれていることも理解している!」

「? そ、そうですか……」


 ずっと恥ずかしそうにする先輩を眺めて首を傾げているうちに、俺達は学園に着いてしまった。

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