第135話 連絡先の交換

 放課後になり、俺達は生徒会活動に勤しむ。

 というか、早く片づけてしまって、二人と領域エリアに行かないと、だからな。


「望月さん、こちらの書類を教頭先生に届けてください」

「はい!」


 氷室先輩から手渡され、俺は大急ぎで職員室へと向かう。

 すると。


「おわっ!?」

「キャッ!?」


 廊下の角から飛び出してきた女子生徒にぶつかりそうになり、俺は慌てて避けた。


「す、すいません! 大丈夫……っ!」

「い、いえ、こちらこそ……っ!」


 謝ろうと頭を下げたところで、ぶつかった相手が昨日二―一に行った時に俺にキレやがった、元生徒会メンバーの人だと気づく。

 それは向こうも同じのようで、俺の顔を見た途端、露骨に顔をしかめた。


「フン……今の・・生徒会は野蛮でマナーがまるでなっていないわね」

「はは、そりゃどーも」


 俺は相手にするのも面倒なので、ヘラヘラと笑いながらその場をやり過ごそうとした……んだけど、どうやらそう上手くいかないみたいだな……。


「ええと……今から職員室に行かないといけないんで、どいてもらっていいですか?」

「何を言ってるの? ぶつかりそうになったんだから、ちゃんと謝りなさいよ」


 そう言って、ニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべる元メンバー。いや、性格悪いな。


「……どうもすいませんでした」

「フン! それで謝ってるって言えるの? 謝るなら、ちゃんと土下座でもなんでもしなさいよ!」


 あーもう! コッチは忙しいってのに、どこまで絡んでくるんだよ!

 ハア……面倒だから、とっとと土下座して……「今の言葉、聞き捨てなりませんね」……って!?


「ひ、氷室先輩!?」


 振り返ると、氷室先輩が仁王立ちしながら、元メンバーを睨みつけていた。


「じゃ、邪魔しないでくれる! 私はこの男子と話をしてるの!」

「ですが、彼は大事な生徒会の一員です。仮にも元生徒会の一員だったあなたの、彼に対するその態度は到底許せるものではありません」

「……っ!」


 氷室先輩の威圧に、元メンバーはジリ、ジリ、と後ずさりする。


 そして。


「っ! お、覚えてなさいよ! いずれあなた達なんて、まとめて・・・・いなくなる・・・・・んだから!」


 そんな捨て台詞を吐いて、元メンバーはこの場から去って行った。


「大丈夫でしたか?」

「え、ええ……それより、氷室先輩こそどうしてここに?」

「実は、先程お渡しした書類に、一か所修正すべきところがありましたので、差替えの書類を持って来たのです」

「あ、そ、そうですか……」


 というか、それだったら連絡くれればすぐに戻ったのに……って、そういえば俺、氷室先輩とIDの交換してないや。

 俺はポケットからスマホを取り出すと。


「氷室先輩、連絡先を交換しておきましょう。そのほうが、生徒会の仕事をする上で効率的ですし」


 そう言って、スマホ画面にQRコードを表示させた。


「……そうですね。たしかに望月さんのおっしゃる通りです」


 氷室先輩もスマホを取り出す……んだけど、一向にQRコードを読み取ろうとしないぞ?


「え、ええと……?」

「すいません、これ、どうすればいいんですか?」


 どうやら氷室先輩は、メッセージアプリの使い方が分からないらしい。

 というか、使ったことないのか……。


「氷室先輩、スマホにメッセージアプリは入れてありますか?」

「いえ……」


 そうかー、じゃあ普通に電話番号とアドレスを教えておくか。

 俺はメッセージアプリを閉じると、連絡帳から自分のスマホの電話番号とアドレスを表示させた。


「じゃあ、こちらで……」

「分かりました」


 すると氷室先輩は、素早い手さばきで電話番号とアドレスを打ち込んでいく。

 というか、メッチャスマホ使いこなしてない!? なのにメッセージアプリ使ってないってどういうこと!?


「今、望月さんあてにメールをお送りしました」

「はえ!? あ、は、はい!」


 氷室先輩の言葉に、唖然としながら見ていた俺は我に返ると、慌てて自分のスマホを見た。

 すると、確かに知らないアドレスからメールが届いていた。


「あ、じゃ、じゃあ登録しておきます……」


 そう言って、俺は早速アドレスとメール本文にある電話番号を登録する。だけど……。


「氷室先輩って、ネコが好きなんですか?」

「っ!?」


 俺のその不用意な言葉に、氷室先輩がビクッとなった。


「ど、どうしてそう思ったのですか……?」


 氷室先輩がズイ、と俺に詰め寄る。ち、近い……!?


「そ、その……アドレスが『kazura.nekosan_mya_mya』だったので……」

「っ!?」


 そう、氷室先輩のアドレスには、明らかにネコを連想させるようなワードが入っているのだ。

 そして今の反応……間違いない、氷室先輩はネコ好きだ。


「……望月さん」

「は、はい……つ!?」


 その射殺すような視線に、俺は思わず息を飲む。


「このことは、誰にも言ってはいけません。いいですね?」

「は、はい!」

「よろしい」


 そう言うと、氷室先輩はス、と俺から離れ、スタスタと歩き出した。


「何をしているんですか? 早く職員室に行きますよ」

「あ、は、はい……」


 俺は戸惑いながら氷室先輩の後を追いかける。

 だけど……俺は氷室先輩が振り返った一瞬、見てしまった。


 氷室先輩の口元が、一瞬だけ緩んだのを。


「……ははっ」


 何故だか俺も、そんな氷室先輩を見て頬を緩めた。

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