第281話 カタコンベ領域、踏破

「やるぞ! [シン]!」

『はう!』


 俺と[シン]は、馬のひづめの音が響き渡る通路の奥を見据え、口の端を持ち上げた。


 少しずつ、蹄の音が近づいてくる……。


『はう!』


 すると[シン]は、通路の先へ向けて一気に飛び出した。

 俺も遅れまいとしてダッシュするけど、当然追いつけるはずもなく、[シン]の背中はあっという間に遠ざかる。


 そして。


『はうはう! 【堅】! 【封】!』


 [シン]は呪符を展開して防御壁を張ると共に、ペイルライダーの【闇属性魔法】と【邪属性魔法】を無効化させるための呪符を床にバラまいた。


「[シン]!」


 追いついた俺は、すぐに[シン]を支えるために後ろから抱き留めると。


『はう! 来たのです!』


 とうとう俺達の視界に、ペイルライダーが現れた。


 青白い長身の骸骨が西洋の甲冑を身にまとい、その右手には巨大なランスを、左手には大盾を持ち、同じく巨大な骸骨の馬にまたがって通路を駆ける。


 だが。


 ――ガキンッッッ!


『ッ!?』


 ペイルライダーは見えない壁に遮られ、骸骨の馬が前脚を持ち上げた。


「氷室先輩! 土御門さん!」

「ええ!」

「ホホ!」


 後ろを振り向いて俺が合図すると、[ポリアフ]が【スナイプ】で援護射撃をしている間に、[導摩法師]の【式神】がわらわらとやって来る。


『……!』


 ペイルライダーは大盾を構えて[ポリアフ]から放たれる弾丸をいなしつつ、防御壁を馬の前脚で踏みつけるように蹴った。


『ぐぎぎ……!』


 [シン]が歯を食いしばりながら弾き飛ばされないように耐える。

 元々[シン]はスピード型の精霊ガイストで、『力』のステータスはかなり低い。それでも、その小さな身体で重量級の領域エリアボスの突撃を必死に受け止めていた。


「[シン]……!」


 俺も少しでも[シン]が楽になるようにとその身体を支えるが、俺と[シン]は防御壁ごとずるずると押し込まれる。


 その時。


「ホ! 待たせたの!」


 ようやく【式神】が合流し、ペイルライダーに次々とまとわりついていく。


『はうはう! 領域エリアボスの圧力が弱まったのです!』

「よし! そのまま身動きを封じ……っ!?」


 [シン]に指示をしようとした瞬間、ペイルライダーはパカリ、とその口を大きく開いた。


「[シン]!」

『もごっ?』


 慌てて[シン]の口を塞ぎ、俺も制服の袖で口元を押さえると、その直後、ペイルライダーの口から禍々しい黒い煙が吹き出した。

 あれこそがペイルライダーの特殊スキル、【ブラック・デス】。

 あの煙を吸い込んだら最後、【聖属性魔法】による浄化を受けない限り、煙に含まれる細菌によってその身体をむしばまれ続けるという、最悪のスキルだ。


 というか、“アルカトラズ”領域エリアの第十階層のボスだったトーデスエンゲルもそうだけど、スケルトン系の領域エリアボスはこういった毒系のスキル持ちが多いよなあ……って、そんな悠長なこと考えている暇はない。


 俺は防御壁を展開し続ける[シン]の口を押えたまま抱え、氷室先輩達の元へと一気に走る。

 息を止めているからメッチャ苦しいけど、とにかく我慢するしかない。


 すると。


「ヨーヘイ! 伏せなさイッ!」

「『っ!?』」


 通路の向こうで仁王立ちするプラーミャと、ハルバードを右手に持って槍投げの構えを見せる[スヴァローグ]を見て、俺と[シン]は倒れ込むように地面に伏せた。


「食らえエエエエエエエエ! 【ブラヴァー】ッッッ!」


 プラーミャの咆哮と共に、[スヴァローグ]の手からハルバードが紅蓮の炎をまとって発射される。

 唸りを上げながら、ハルバードは俺達の頭上を通過するんだけど……。


「(熱っ!? 熱っ!?)」


 ハルバードがまとう炎の熱で、俺の背中がメッチャ熱い!

 だけど【ブラック・デス】が漂っているせいで、声を出すこともできないし!


 その数秒後。


 ――ドガアッッッ!


『(カタカタカタカタカタ!?)』


 ハルバードを食らったペイルライダーと骸骨の馬は、その身体を甲冑ごと砕かれ、激しく口を動かす。

 だけど、ほんの数秒後には口の動きも止まり、炎に包まれた幽子と大量のマテリアルへと変化した。


 ……よし、【ブラック・デス】の煙も消えたな。


「すー……はあー……」


 ここでようやく俺は押さえていた手を離し、大きく深呼吸をした。


「[シン]、大丈夫か?」

『プハッ! はう! [シン]は無事なのです!』


 息を吸い込んだ[シン]が、元気よく立ち上がって敬礼ポーズをした。

 うむうむ、それは何より。


「フフ……マア、こんなものよネ」


 いつの間にか俺の元に駆け寄ってきたプラーミャが、微笑みながら手を差し伸べる。


「はは、さすがはプラーミャ。すごい一撃だったな!」


 俺はプラーミャの手を取って立ち上がると、ニカッと笑ってサムズアップした。


「ホホ……じゃが……」

「ええ!」


 氷室先輩と土御門さんも、俺達の元に笑顔で駆け寄る。


 そして。


「ああ! これで“カタコンベ”領域エリア、完全クリアだ!」

『はう! やったのです! やったのです!』


 俺達は拳を突き上げて喜び、讃え合った。

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