第87話 プラーミャへの依頼

「よう、プラーミャ。ちょっといいか?」


 次の休み時間、先輩のアドバイス通り早速プラーミャに話をするために声を掛けた。

 これから、立花の動向を見守ってもらうために。


ヤーは嫌なんだけド?」

「まあそう言うな。ちょっと、プラーミャにしか頼めないことがあるんだよ」

イヤニェット!」

「どうしたノ?」


 すると、サンドラが不思議そうな表情でやって来た。


「お、おおサンドラ……って、そうだ、サンドラにもちょっと話しておきたいことがあるんだけど、今いいか?」

「? エエ、いいですけド?」


 とりあえず、サンドラが頷いてくれた。

 フフフ、こうなるとプラーミャも一緒に話を聞くに決まってる。


「ナラ、ヤーも話を聞くワ」


 ホラ、な? というか、分かりやすい奴。


「んじゃ、ちょっと場所移そう……「望月くん、どこにいくの?」」


 二人を連れて教室を出ようとしたところで、立花に声を掛けられてしまった。

 というか、コイツが一緒にいちゃ話できないんだけど。


「いや、ちょっと二人に頼みたいことがあってな。それで……「だったらボクも手伝うよ!」……ぐ、ぐむう……」


 立花は瞳をキラキラさせて、嬉しそうにそう申し出たため、俺は思わずうめき声を上げた。


「……ボクが一緒にいちゃ、イヤ……?」


 俺の反応を見て立花は、瞳をウルウルさせながら上目遣いでそう尋ねる。

 い、いや、そんな瞳で見られても……ぜ、絶対に連れて行かないからな!


「フフ、立花さんには悪いですけド、少しワタクシ達の家族の件ですのデ……」


 おお! サンドラ、ナイス!

 よくぞ俺の思いをくみ取ってくれた!


「あ……そ、そうだったんだね。だったら、ボクは一緒じゃないほうがいい、かな」

「申し訳ありませんワ」


 ということで、無事(?)立花とも分かれ、俺達は廊下に出た。

 ……立花は、最後までジーッと俺の背中を眺め続けてたけど。


「ソレデ……ヤー達に一体何の頼みがあるノ?」

「おお。いやホラ、二人も朝の件は見てただろ? それでさっきの休み時間に先輩に相談して来たんだけど……悪いけど、プラーミャにはしばらく立花の様子を見ておいて欲しいんだ」

「? どういうこト?」


 俺の説明を聞いてもキョトン、とするプラーミャ。まあ、これだけじゃ理由になってないもんな。


「お前達も変に思わなかったか? 立花の奴、いくら加隈……ああ、絡んできた奴な。アイツが精霊ガイスト出して襲い掛かってきたからって、さすがにアレ・・はやり過ぎだ」

「マア……確かニ……」

「それで、また同じようなことが起きたら暴走するんじゃないかと思ってな。普段の“グラハム塔”領域エリア攻略なら俺達もいるが、一年の必修としてあの領域エリアの踏破に挑むとなったら、先輩や俺、サンドラは同行できない」

「アア、そういうことネ」


 ようやく理解したプラーミャの言葉に、俺はうなずいた。


「ということだから、プラーミャもこれからはアイツのことを少し気に掛けるようにしてくれ。もちろん、俺と先輩も注意するから」

「分かりましたワ」


 うん、とりあえずこれで立花に関してはよし、と。

 あとは……加隈と、昼休みのイベント、だな……。


 加隈はともかくとして、あのイベントのことを考えると、どうしても不安で胸が苦しくなる。

 もちろん俺は、[シン]なら立花の[ジークフリート]に負けないと思っているし、立花だって、『まとめサイト』とは違って関係も良好……りょ、良好だから、同じことになる要素もない。


 でも……それでも……。


「ヨーヘイ」


 すると、いつの間にかプラーミャが俺のそばに来て、不安そうに俺の顔をのぞき込んでいた。

 おっと……顔に出てたか……。


「……はは、何でもない」

「嘘、ですワ」


 かぶりを振ってそう答える俺を、サンドラは否定した。


「ヨーヘイ……アナタが何に悩んでいるのか、不安に思っているのかは知らなイ。だけど、ワタクシは少しでもアナタの力になりたいんですノ」


 サンドラのアクアマリンの瞳が、強い輝きを放ちながら俺をジッと見つめる。

 ハア……チクショウ、こんなの嬉しすぎるだろ。


「そうだな……だったら今日の昼休み、俺と先輩は加隈と話をしに行こうと思ってるから、その時……サンドラも一緒にいてくれるか?」

「! 当然ですワ!」


 俺は頭をガシガシきながら、照れくさそうにそう言うと、サンドラはぱあ、と笑顔を浮かべ、力強く頷いてくれた。


「じゃあ、ヤーも一緒に……「いや、プラーミャは俺達が加隈に会っている間、立花を抑えていてくれ」」


 プラーミャも俺達と一緒に来ようとしたので、俺はそれを断って別の頼み事をした。

 立花のことだ、絶対に俺と一緒に行動しようとするだろうし、それに……ひょっとしたら、昼休みに一緒に過ごさなかったら、イベント自体を確実に回避できるんじゃないかって、そうも思っている。


「これは、プラーミャにしか頼めないことなんだ。だから……」

「ハア……分かったわヨ」

「すまん……助かる」


 プラーミャは溜息を吐きながらも、渋々了承した。

 コイツだって、本当はサンドラと一緒にいたいはずだもんな……。


「ソノ代わリ」

「ん? その代わり?」


 何だろう……昼休みのイベント以上に嫌な予感がするんだけど……。


「明後日の日曜日、ヤーの引っ越しを手伝いなさイ!」

「「ハア!?」」


 プラーミャのその言葉に、俺と、何故か一緒に住んでるはずのサンドラまで驚きの声を上げた。


「ど、どういうことだよ!? サンドラと一緒に住んでるんじゃないのか!?」

「そ、そうですワ!? 荷物はアレだけで終わりのはずですわよネ!?」

「ハア……マサカ、ヤーの荷物がアレっぽっちなわけないでショ?」


 呆れた表情でプラーミャはそう言うが、そんなの俺が分かるわけないだろ……。

 それに、サンドラも思わず絶句してるところを見ると、既にかなりの荷物があの広い部屋に運び込まれているに違いない。頑張れ、サンドラ。


「というわけで、チャンと働くのヨ!」

「「…………………………」」


 とうことで、図らずも日曜日の予定が埋まってしまった……。

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