第232話 待ち構える

「おっしゃあああ! 次は俺の番だぜ!」


 次に続けと言わんばかりに、加隈が雄叫びを上げながら席を立つ。


「はは、まあ頑張れよ」

「へ? な、何だよヨーヘイ、お前どこに……?」

「ん? おお、どうにも具合が悪くてな。ちょっと保健室で休んでくるわ」

「そ、そうかよ……」


 俺が苦笑しながらそう告げると、加隈がガッカリした表情を浮かべた。

 まあ……お前は俺の代わりに、あのクソ女に目にもの見せてやってくれ。


 俺は、メイザース学園の代表席からゆっくりと舞台へと向かうクソ女……木崎セシルを一瞥した後、その場を離れた。


 そして。


「フフ……ヨーヘイ、お疲れ様」

「あはは……だけど、ちょっと物足りない内容だったけどね」

「フン。マ、お互い探り合いだったシ、手の内を見せられないというのも分かるけド」


 観客席の出口で俺を出迎えるサンドラ、立花、プラーミャ。


「はは、まあな。それより……ちょっと気になることがある」

「気になるこト?」


 俺の言葉に、三人が怪訝な表情を浮かべる。


「ああ……土御門さんは、[シン]の能力について知っていた」

「「「っ!?」」」


 そう告げると、三人が一斉に息を飲む。


「そ、それって、誰かが向こう・・・・に情報をリークしたってこと!?」

「ウーン……まだ何とも言えないけどな。ただ、土御門さんは『木崎から聞いた』とハッキリ言っていた」

「アノ女ガ……!」


 木崎という名前を聞いた瞬間、サンドラが敵意をき出しにした。

 まあ……サンドラは俺とあのクソ女との一連の出来事について知ってるからなあ……でも。


「ッ!? ヨーヘイ!?」

「はは……怒ってくれてありがとな。でも、アイツは加隈の奴があの舞台の上でキッチリ倒してくれるはずだから」

「……それハ、少し頼りないですわネ」


 サンドラの髪を優しく撫でながらそう言うと、サンドラは顔を赤らめながら口を尖らせる。

 本当は、サンドラがあのクソ女をブチのめしたいんだろうなあ……。


 とはいえ、不本意ではあるけど、俺もクソ女に接触して問いただしたい。

 どうして、知らないはず・・・・・・の[シン]の能力について、中途半端に・・・・・知っていたのかを


「それデ、ヤー達はこれからどこに向かうノ?」

「おっと、そうだったな。行先は学園校舎の二階……つまり、学園長室だ」


 そう言うと、俺は校舎の二階の窓に視線を向けた。


「……そこに、望月くんが言っていた連中・・が来るんだね?」

「ああ……だからみんな、力を貸してくれ。そして」


 俺は三人を見つめ、すう、と息を吸うと。


「……そして、連中・・の企みを、全部叩き潰してやろう」


 ◇


「フフ……だけど、ヨーヘイはどうして今日の団体戦の最中に連中・・が学園長室に忍び込むって知ってるのかしラ?」


 学園長室の扉の前で俺達四人が待ち構えている中、クスクスと笑いながら、プラーミャが尋ねる。


「はは……俺も先輩から頼まれたんだよ。先輩のお父さん……学園長が、メイザース学園の学園長に機密資料を狙われてるから、それを阻止して欲しいって」


 俺は苦笑しながら説明するけど……はい、ウソです。

 本当は、『まとめサイト』のメイザース学園関連のメインシナリオ攻略で、そう書いてあったのだ。

 二年生の修学旅行イベでメイザース学園との最後の決着をつける際の、メイザース学園の学園長すら操り人形にした向こうの真の首謀、“中条シド”が主人公達に真相を語ってるシーンについて、詳細に載っていた。


 中条シドいわく、『アレイスター学園の学園長が行っている『ユグドラシル計画』を根こそぎ強奪して、自分こそが最強の精霊ガイスト使いとして、この世界に君臨するのだ!』と。


 これを読んだ時、俺は思ったね。この中条シドって男は、十八にもなっていまだにこじらせてるんだなあ、って。


 いや、確かに中条シドの生い立ちには同情を禁じ得ないよ?

 だって、幼い頃から東方国の研究機関でモルモットのように扱われて、人工的に精霊ガイスト使いにさせられ、オマケに、今もメイザース学園の学園長に操られてるんだから。


 で、そもそも『ユグドラシル計画』ってヤツも、今回の学園長室への侵入で中条シドが初めてその真相を知って、そんな思春期な十四歳も真っ青な野望を持っちゃうんだから、本当に手に負えないよなあ……可哀想。


「……はは、本当は今回の交流戦イベは、単に主人公とライバルの顔合わせのためだけの、導入イベントでしかないんだけどなあ」


 そう呟き、俺は乾いた笑みを浮かべる。

 とはいえ、今回の侵入で真相を知った中条シドは、それこそ面白半分で実験でもするかのように土御門さんを闇堕ちさせるんだからな。タチが悪い。


「あはは……望月くんって、たまによく分からない独り言を言うよね……」


 あー……立花の奴がコッチ見ながら苦笑してる。

 俺も独り言を呟く癖、なんとかしないとなあ……。


「フフ……ですけド、今までヨーヘイがすることに間違いはありませんでしたワ。それに、ヨーヘイが積極的になる時って、必ず誰かのためですもノ」


 そう言うと、サンドラはアクアマリンの瞳に優しさをたたええ、微笑んだ。

 全く……俺の仲間っていうのは、なんでこんなに俺のことを理解してくれるんだよ。


 その時。


「……サンドラ、みんな……おしゃべりはここまでヨ」


 不敵な笑みを浮かべたプラーミャが、廊下の先を見据える。


「アレ? なんでこんなところにアレイスター学園の生徒がいるんだ?」

「ホホ……しかも、また会うことになるとはのう?」


 現れたのは……中条シドと、ついさっき対戦した土御門シキだった。

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