第233話 中条シドと土御門シキ

「アレ? なんでこんなところにアレイスター学園の生徒がいるんだ?」

「ホホ……しかも、また会うことになるとはのう?」


 廊下の向こうから現れたのは、中条シドと、ついさっき対戦した土御門シキだった。

 はは……しっかしあの『まとめサイト』、どこまで網羅してあるんだよ。バッチリ書いてあった通りじゃねーか。


「というか土御門さん、メイザース学園の君がこの校舎に何の用? 見学だったら俺に言ってくれれば案内したのに」


 努めて冷静に、だけどほんのちょっとの皮肉を込めて、俺はそう言った。


「そうじゃのう……確かに、お主の案内は魅力的じゃな」

「だったら、今からでもどう?」


 俺は一歩前に出ると、ス、と右手を差し出す。

 さあて……この二人はどんな反応を示すかな?


「ホ、せっかくの申し出ありがたいのじゃが……わらわも忙しい身でのう?」

「えー……ちょっとは俺に付き合ってくれてもよくない?」


 俺は肩をすくめてかぶりを振った。


「クク、あんまりしつこいと、女の子に嫌われること知らないの?」

「あはは、望月くんそうらしいよ? だったら、ボクとしてはもっとしつこくして欲しいなあ」


 そう言うと、立花は上目遣いで俺の顔を覗き込む。いや、お前は一体何を期待してるんだよ。


「フフ……いずれにしても、あまり校舎の中をウロウロしていただくわけにはいきませんわネ」

「そうネ。今なら見逃してあげるから、部外者は出て行きなさイ」


 サンドラとプラーミャが、威圧を込めてそう言い放った。


「クク、そういうわけにはいかない。われは、オマエ達の後ろの部屋に用があるのだから」


 薄ら笑いを浮かべながら、俺達の後ろ……学園長室を指差した。

 だけど、その前に一言だけ言わせて欲しい。


「な、なあ……アンタ、自分のことを“我”って呼んでるのか……?」


 俺はおそるおそる、中条シドに尋ねる。

 いや、だって、一人称“我”って、普通にツッコミたくなるだろ?


「クク……そうだ! 我は特別・・なのだ! ならば、それに相応しい呼び名を使うのが、筋というものだろう!」

「「「「うわー……」」」」


 その台詞セリフに、俺達四人はドン引きした。

 というか、あそこまで網羅してある『まとめサイト』にも、コイツの一人称についての情報はなかったからなあ……。


「だ、だけどさあ……自分のこと“我”だなんて、完全に厨二……「バ、バカ! そんなことを言ったら可哀想ですわヨ!」」


 俺がつい言葉を漏らしそうになって、サンドラがたしなめる。

 ま、まあ、本当のこと指摘されるって、意外と傷つくもんな……確かに俺の配慮が足らなかった。


「ク、クク……この我が、アレイスター学園の生徒にここまで馬鹿にされるとは思いもよらなかったぞ……」


 悪役よろしく、中条シドは口の端を持ち上げてわらうが、眉毛がピクピク動いたりしてるところを見ると、結構頭にきてるんだろうなあ……心なしか、顔も赤いし。


「まあいい……邪魔をするというのなら、押し通るまで! 土御門!」

「ホホ、先程の試合の借り、返させてもらうえ? [導摩法師]!」


 土御門さんは[導摩法師]を召喚し、辺りに紙切れをばらいた。


「ホホ! 【牛頭ごず】! 【馬頭めず】!」


 すると、紙切れは牛の頭と馬の頭をした屈強な鬼二体に変化する。


「はは……こんなスキルがあるんなら、さっきの試合でも最初から使えば良かったのに」

「ホ、わざわざ手の内を見せるのは、無能のすることえ?」

「へえ……それって、最初から俺のことを敵認定してたってこと?」


 クスリ、と笑う土御門さんに、あえてそう問いかけた。

 つまりは、俺達がメイザース学園の邪魔をすることを、あらかじめ想定して動いてたってことだからな。


「まあの。あの木崎・・が、『アレイスター学園の連中……特にクソザコモブ・・・・・・は、絶対に私達の邪魔をする』としきりに言っておったからの」

「へえ……」


 いやまあ、確かに邪魔するつもりではあったけど。

 それにしてもクソ女め、なんだってそこまで俺の行動を先読みしてやがるんだ……?


 これって、俺達の行動が筒抜けだってことなのか?


「ホホ、それだけではあるまいぞ? ホレ」


 土御門さんはパチン、と扇を閉じ、反対側の廊下の先を差した。

 すると、黒服を着た男が二人、ゆっくりとこちらへやって来る。


「あれって……“GSMO”の職員?」

「そうじゃのう。じゃが、メイザース学園側の・・・・・・・・・、であるがの」

「っ!?」


 その言葉に、俺は思わず息を飲んだ。

 しまった!? なんで俺は、メイザース学園の生徒会だけで・・・乗り込んでくるって思ったんだよ!?

 普通に考えれば、こんなただの学生なんかに任せるより、あの学園長……“麻岡マキ”も、自分の優秀な手駒を使うに決まってるじゃねーか!


「悪い……俺の判断ミスだ。てっきりコイツ等だけだと勘違いしてた……」

「あはは、別にいいんじゃない?」


 俺は唇を噛みながら謝るが、立花はそう言って口の端を持ち上げた。


「フフ……立花サンの言う通りですわネ」

「そうネ」


 そしてサンドラとプラーミャも、立花の言葉に同意する。


「だって、どうせボク達が全員やっつけちゃうからね」


 そう告げると、立花がニタア、とわらった。

 それは、立花が闇堕ちして俺と戦った時に見せたような、あの容赦ない笑み。


「そういうことだから、ボク達に任せてよ!」

「エエ……あの黒服の連中はワタクシとプラーミャが相手いたしますワ」

「向こうも二人だし、ちょうどいいんじゃなイ?」


 サンドラとプラーミャは黒服へと向き直ると、[ペルーン]と[スヴァローグ]を召喚した。

 はは! 俺の仲間は、なんでこんなに頼もしいんだよ!


「ああ……! それじゃあ黒服は二人に任せる!」

「「エエダー!」」

「そして立花……お前は、あの男のほうを相手してくれないか?」

「あはは! 了解!」


 そして立花も、[伏犠ふっき]を召喚した。

 その瞬間、中条シドと土御門さんが、揃って目を見開く。


「……どういうことだ? あの女みたいな男の精霊ガイストは、[ジークフリート]……または[オーディン]という話じゃなかったのか?」

「……木崎が、わらわ達をたばかったということかえ?」


 いや、『どういうことだ』っていうのはコッチの台詞セリフなんだけど。

 というか、どうしてあのクソ女が、立花のクラスチェンジ候補の一つである[オーディン]の名前を知ってるんだよ。


 ……まあいい、今はこの二人と黒服に集中しよう。分からないことはその後だ。


 俺は雑念を振り払うためにかぶりを振ると、俺の相手である土御門さんを見据えた。

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