第259話 あなたがくれた揚羽蝶④
■土御門シキ視点
そして迎えた、アレイスター学園との交流戦当日。
わらわ達メイザース学園生徒会は、二日目の団体戦から参加する。
というのも、今日の計画のためにリハーサルを兼ねて最終調整を行う必要があったからの。
「うふふ……土御門さんも、かなり強くなられましたね?」
「まあの……」
団体戦の開始を待つ中、隣に座る木崎セシルがクスクス、と笑いながらそう告げると、わらわは視線を逸らした。
じゃが……確かにこやつの言う通り、わらわは強くなった。
それも全て、こやつのアドバイスによって、じゃ。
それだけではない。
今日戦うアレイスター学園の面々についても、全員ではないものの、ほとんどの者の
不審に思って尋ねたことがあるが、その時の木崎は『元アレイスター学園の生徒だから』の一点張りで、結局は教えてはもらえなんだ。
本当に、こやつは一体……。
「ですが、あなただけクラスチェンジのための条件を満たせなかったのは残念でしたね」
「…………………………」
……相変わらず、こやつはわらわを見下しよる。
まあ、それはこやつに限った話ではなく、わらわに一切興味がない中条シドを除き、全員がわらわを馬鹿にしておるがの。
「……では、両学園の代表のみなさんの健闘を称え、開会の挨拶とします」
ホホ、やっと学園長の挨拶が終わったの。
「ふふ……土御門さん、分かっていますね?」
「うむ」
メイザース学園一番手のわらわのすべきことは、適当なところで負けて、校舎の入口付近で待機している中条シドと合流し、アレイスター学園に気づかれずに学園長室を目指すこと。
皆が団体戦に注目している中、それは容易いが……。
『……アレイスター学園は、何かを仕掛けてくる可能性がありますので注意してください。特に、
常々言っておった木崎セシルの言葉。
いつも
一度、その望月ヨーヘイについて尋ねたことがあったが、木崎セシルが言うには、その男子だけは予想外過ぎて、全く行動が読めんとのことじゃった。
あの交流戦に向けた打ち合わせでのわらわの第一印象は、望月ヨーヘイは取りたてて変わったところも、ましてや強者がまとう気配といったものが一切感じられなんだ。
実際、あの場においても終始周りを気遣ってばかりで、どちらかといえばオロオロしておったな……。
「ホホ……」
「……その笑い、止めてくれますか」
どうやら、わらわは思い出し笑いをしておったようで、木崎セシルが珍しく顔をしかめよった。
普段は何も言わんのに、珍しいこともあるものじゃ。
すると。
「ホホ、これはこれは、願ってもない対戦相手じゃのう?」
アレイスター学園の一番手は、まさにその望月ヨーヘイじゃった。
これは、この男子を見極めるにはもってこいじゃの。
わらわは適当に負けるように指示は受けておったが、あえて試すような戦い方をしてみた。
するとどうじゃ、木崎セシルの言う通り
じゃが、その戦い方は決して
まさか【闇属性反射】のスキルを活かして、わざと至近距離で受けることでわらわを自滅させる策を取るとはの。
「それで……土御門さん、どうする?」
そう問いかける望月ヨーヘイには、どこか余裕を感じられた。おそらく、まだまだ手の内を隠し持っておるのじゃろう。
じゃが。
何より、その時の望月ヨーヘイの瞳とその声に、わらわは思わず息を止めてしもうた……。
あのような優し気な視線、相手を気遣う声……それは、今までわらわが受けたことがないものじゃった。
「……分かった。わらわの負けじゃ」
ホホ……これほどの気遣いを見せておるのに、わらわが意地を張る理由もないし、それに、
わらわは舞台から降りると、近衛シキを
「クク……待ちわびたぞ」
「ホ、それはすまんのう」
無事、中条シドとも合流し、わらわ達は学園長室へと向かう。
『……アレイスター学園は、何かを仕掛けてくる可能性がありますので注意してください。特に、
ふと、木崎セシルのあの言葉が、わらわの頭をよぎる。
「……できれば、あの男子とは会いたくないのう」
そう、わらわは無意識に呟いておった。
会ってしまえば、わらわは望月ヨーヘイと戦わねばならぬから。
しゃが。
「ホホ……しかも、また会うことになるとはのう?」
……やはり、世の中上手くいかぬものじゃの。
わらわはこのような運命めいた状況に苦笑しつつも、中条シドと共に、不敵に笑う望月ヨーヘイ達に戦いを挑んだ。
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