第258話 あなたがくれた揚羽蝶③

■土御門シキ視点


 夏休みが明け、またメイザース学園に転校生がやってくる。

 それも、二人もじゃ。


 一人は木崎セシルと同じく、アレイスター学園から来た女子おなご

 もう一人は、学園長がどこからともなく連れてきた男子おのこ


 アレイスター学園出身の女子は、木崎と同じく問題を起こして転校してきたものの、第一印象としては木崎とは全然違うの。

 少なくとも、その瞳によこしまなものは感じられんし、むしろ罪悪感といったものが見え隠れしておる。


 とはいえ、この女子に関しては近衛スミとは縁もないようじゃし、関わり合いになることもなさそうじゃが、の。


 そして、男のほうじゃが……ふむ、何とも不気味じゃのう。

 いや、見る限りは少々おかしな言動をすることはあるものの、容姿端麗、成績優秀と、何か問題があるわけではないのじゃが……。


 ……まあ、深く考えても詮無いことよの。


 何故なら。


「ふふ……学園長からの指示で、メイザース学園とアレイスター学園で交流戦を行うことになりました」

「ホ、これはまた珍しいのう」


 近衛シキの言葉に、わらわは思わず声を漏らした。

 じゃが、今まで一度も交流をしたことがないアレイスター学園と、急にそのような話が降ってわいたのじゃからのう。


「そして」

「? まだあるのかえ?」

「我々生徒会はその交流戦で、学園長から推薦された“中条シド”と共に、アレイスター学園で別任務にあたることになります。どうぞ、お入りください」


 近衛シキがドアに向かって声を掛けると。


「クク……貴様等、我の足を引っ張るなよ?」


 ……入って来るなり、何とも偉そうな奴じゃの。


「会長、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

「鷲尾さん、どうぞ」

「それで、このどこの馬の骨か分からない男を加えて、学園長は何の目的があるのでしょうか?」


 ふむ、確かに副会長の質問はもっともじゃ。

 それに、どうやら交流戦というのはただの口実で、生徒会への任務というのが学園長の本命のようじゃし。


「ふふ……鷲尾さん、あなた風情が・・・・・・知る必要はないんですよ」

「っ!?」


 突然、近衛スミから威圧を込めた言葉を向けられ、副会長は思わずひるむ。

 ホホ……使い捨ての駒に過ぎないわらわ達は、黙って従え、ということか……。


「ホ、とはいえ、何をすべきかくらいは仰っていただかねばの」

「もちろん、それを今からお話ししようと思っていたところですよ……余計な邪魔をされなければ」


 そう言うと、近衛スミは打って変わって顔を歪め、ギロリ、と副会長を睨んだ。相変わらず、醜いツラじゃ。


 それからわらわ達は近衛スミから説明を受けたのじゃが……。


「そ、それは、いくら学園長……いや、『近衛家』であったとしても、まずいのではないかの……?」


 わらわは思わず声を震わせながらおそるおそる告げる。

 じゃが。


「ふふ、それこそ心配いりません。木崎さん」

「はい」


 近衛スミが声を掛けると、木崎セシルは一歩前に出た。


「アレイスター学園の見取り図に関しては、この私が全て把握していますし、何より、あの学園には私の協力者・・・がいます。失敗することはありません」

「ホ、何とも自信満々じゃの……そこまで申して、万が一失敗した場合は、どう責任を取るつもりなのじゃ?」


 わらわは苛立ちを隠さずに低い声で尋ねる。

 当然じゃ。わらわ達が捕まれば、これまで『土御門家』の再興のために積み重ねてきた苦労が全て水泡に帰すのじゃから。


「うふふ……そんなことはあり得ませんが、その時はそうですね……この私が協力者・・・の力をお借りして、あなたの望む『土御門家』の再興を約束しますよ」

「っ!? ふざけたことを申すなッッ!」


 木崎セシルの言葉に、わらわは思わず声を荒げた。

 何故こやつは、わらわの……『土御門家』の悲願を知っておるのじゃ!?


「ふふ……そういうことですので、これなら土御門さんにとってもデメリットはないでしょう? ……というか、これ以上何も抜かすな」

「っ!? ……ホ、ホホ……」


 近衛スミの不興を買ったことを悟ったわらわは、愛想笑いを浮かべて何とかやり過ごす。

 ここで……ここで終わるわけにはいかんからの……。


「ふう……とにかくそういうことですので、お二人はこれから、中条さんと木崎さんの指示に従ってください。いいですね?」

「「…………………………」」


 パン、パン、と手を叩いて近衛スミはそう告げると、わらわと副会長は無言で頷いた。

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