第397話 九天玄女

『さあ……かかってこいなのですッッッ!』


 大砲……それを備える塔に向け、[シン]は咆哮ほうこうした。


「[シン]……!」


 そんな[シン]の姿を見て、俺はギュ、と拳を握る。

 あの百八門もの大砲が、逃げ場もないほど一斉に放たれるんだ。普通だったらひとたまりもない。


 でも……俺は、[シン]ならやってくれると信じている!

 [シン]は……[シン]こそが、最高の精霊ガイストだッッッ!


「行けえええええええええ! [シイイイイイイイイイイイン]!」

『はううううううううううううううッッッ!


 迫りくる百八つの弾丸。

 それぞれが、[シン]の体内に入っていった宝玉と同じ色をしている。

 おそらく、一人一人に刻まれた文字もあるんだろう。


『はう! はう! はう!』


 その弾丸一つ一つが、[シン]の残像に触れてはそのまますり抜ける。

 まるで、百八の精霊ガイスト達を嘲笑あざわらうかのように。


「そうヨ! [シン]は、ヤー精霊ガイスト、[スヴァローグ]の【絨毯じゅうたん爆撃】すらもかわし切ったのヨ! そんなモノ、当たるはずがないワ!」

「クク……[シン]を捉えるなら、せめて【クロノス】がなければな」


 後ろから、プラーミャと中条が声援を送る。

 そうだ……俺達は、二人と……みんなと戦って、競って、支え合ってここまで来たんだ。


「ふふ……私はこの一年以上、ずっと彼等を誰よりも一番そばで見続けてきた」


 そう言うと、サクヤさんはクスリ、と笑う。


 そして。


「その私だからこそ言おう! [托塔天王]だか百八の精霊ガイストだか知らんが、刮目するのだな! ヨーヘイくんと[シン]のの強さをッッッ!」


 はは……そうですね。

 あなただけはずっと、俺達を見守ってくれました。


 だから……そんなあなたに、俺達の全てを見せます!


『ふふ! 面白い! 面白いですよ! ならその魂の強さというものを、存分に楽しませてもらいますよ!』

「っ!?」

『はう!?』


 なんと、次々とかわしたはずの宝玉が、いつの間にか[シン]を四方八方から囲みながら浮遊していた。


『さあ……終わりですッッッ!』


 [托塔天王]が掲げた右手の拳を握りしめた瞬間、百八つの弾丸がまるで[シン]に吸い寄せられるかのように向かって行く。


『はうううううううううううッッッ!』


 悲鳴に似た叫びと共に、無情にも百八つの弾丸が一つの弾丸を形成した。


 [シン]……っ!

 俺は……俺は、信じている!


 お前が、こんなものでやられるような奴じゃないことを!


 すると。


 ――ぺた。


『はう……終わりなのです。【裂】』


 いつの間にか[托塔天王]の目の前にいた[シン]は、その鬼の面に呪符を張り付け、静かに呟いた。


『ふふ……見、事……』


 鬼の面が粉々に砕けた瞬間、巨大な塔も、百八つの弾丸も消滅した。


 ◇


『ふふ……予想外、まさに予想外の強さでした』


 鬼の面が砕かれ、顔の一部が露わになった[托塔天王]が、口元を緩める。

 というか……うん。一部だけのぞく素顔から察するに、メッチャ美人だな……サクヤさんには負けるけど。


「それで、俺達は合格・・か?」

『もちろんです。むしろ、あなた達と共に戦えることに、これほど名誉だと感じることはありません』


 そう言うと、[托塔天王]はそっと胸に手を当てた。


『……これからあなた達は、九つの柱や五つの領域エリアのボス、さらには封印されし原初の王“ヴーリ”などでは比べものにならないほど強大な者と戦うこととなります』

「…………………………」


 はは……ラスボスである“ヴーリ”ですら相手にならないって、真の・・ラスボス以外あり得ないんだけど。

 そんなことを考えながら乾いた笑みを浮かべていると。


『ふふ……おそらく、あなたが今想像した・・・・御方・・すらも、なお及ばないかもしれませんね』

「っ!?」


 [托塔天王]の言葉に、俺は思わず息を飲んだ。

 真のラスボスでも勝てない、のかよ……。


『……ですが、“管理者”を倒さねば、結局はこの世界でも・・・・・・同じ物語が・・・・・繰り返される・・・・・・だけとなってしまいます』

「……つまり、やるしかないってことだよな」


 はは……何だかんだ言ったところで、結局やることは変わらない。

 このクソみたいなゲームのシナリオをぶっ壊して、サクヤさんが死ぬっていう結末を絶対に回避して、クリスマスから先へ進む。


 それが、俺の望みなんだから。


『ふふ……さすがは[シン]のマスター。そんな覚悟は最初から決まっていましたか』


 そう言うと、[托塔天応]は嬉しそうにはにかんだ。


『[シン]、そして[シン]のマスター……私達“梁山泊”領域エリア精霊ガイストは、あなた達と共にあらんことを……』

『「「「「っ!?」」」」』


 突然、[托塔天王]の鬼の面が全て砕け散ると共に、その身体が幽子に包まれた。


 これはまるで……クラスチェンジみたいだな……。


 幽子の渦は徐々に薄れ、中から現れたのは……っ!?


「こ、これは……」


 神々しいまでの輝きを放つ、黒髪黒目の、まるでおとぎ話にでてくるかのような、そんな絶世の美女の姿がそこにあった。


『この【九天きゅうてん玄女げんにょ】……永遠に、マスター・・・・と共に……』


 そう言ってニコリ、と微笑むと、【九天玄女】はすう、と、まるで幽体のようになって[シン]と同化した。

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