第396話 托塔天王③

『うふふ……私にも、あなた達を少し試させてもらってもいいですか?』


 そう言うと、[托塔天王]の鬼の面がニタア、と不気味にわらった。

 ハア……やっぱり、そんな気はしたんだよなあ……。


「……[シン]」

『ハイなのです』


 俺達も[托塔天王]を見据え、迎撃態勢を取る。

 さあ……始めようか。


「行くぞ、[シン]! 先手必勝だ!」

『はうはうはうはうはう!』


 俺の合図で[シン]は一気に飛び出す……って、は、速くて目で追えない!?

 というか、『駆神大聖』を手に入れたことによって得た『敏捷』ステータス“EX”の本気の速さ、とんでもないな……。


『はう! 獲ったのです!』


 一瞬にして背後に回っていた[シン]が呪符を大量に展開する……っ!?


『ふふ……』


 突然[托塔天王]は二体に分かれた。


「あ、あれはっ!? まさか[両頭蛇りょうとうだ]と[双尾蠍そうびかつ]のスキルか!?」

『か、関係ないのです! 【爆】……っ!?』

『後ろががら空きですよ?』


 いつの間にか三体目・・・の[托塔天王]が、[シン]の背後についているだと!?


『クッ! 【神行法・転】!』


 [シン]はすぐさま[托塔天王]と体を入れ替え、再び背後をつく。


 だが。


『はうはう!? 消えたのです!?』

『ふふ……スキルを解除すれば、分身もなくなるのは必定』


 クソッ……見事にスキルを使いこなしてやがる……。


「……なあ、[托塔天王]」

『なんでしょうか?』

「ひょっとして、“梁山泊”の精霊ガイスト、百八人全てのスキルが使える……なんてことはないよな?」


 俺は分かって・・・・いながらも・・・・、あえてそんな質問をした。


『ふふ……もちろん、使えますよ』

「はは……そうかよ……」


 チクショウ……結局、予想どおりかよ……!


『ふふ……では、こんな攻撃はどうかしら?』


 [托塔天王]の右手に青龍偃月刀が現れ、ゆっくりと構える。

 ……今度は、[大刀]のスキル、【一刀両断】かよ……。


『はああああああああああああああッッッ!』


 掛け声一閃、[托塔天王]はすさまじい一撃を繰り出す。


『はう! そのスキルじゃ[シン]には通用しないのです!』

『っ!?』


 捉えたと思われた【一刀両断】だったが、[シン]のあまりの速さが残像を生み出し、青龍偃月刀の刃がスウ、とその残像をすり抜けていった。


 ――ぺた。


『はう。【雷】』

『っ!?』


 [托塔天王]の全身に電撃がほとばしり、彼女の膝が落ちそうになる。

 でも、どうやら耐え切ったみたいだ。


『ふ……ふふ……本当に、厄介なスピードですね……』

『はう、だったらあなたも、[シン]の真似っ子をすればいいのです』

『……無茶を言いますね。ステータスはスキルじゃありませんから、私でもその動きは無理ですよ……』


 そうだ。

 [シン]のあのスピードは、俺達が数えきれない努力を積み重ねて手に入れた結晶。

 そう簡単に、同じことをできるはずがないんだ。


『はう! なら、ここで一気に仕留めるです!』


 さらにスピードを上げ、[シン]は数多くの残像と共に[托塔天王]へと迫る。

 というか、これじゃ“分身の術”だよな……。


 でも。


『……ふふ』

『っ!?』


 わらいながら肩を揺らす[托塔天王]。

 い、一体何が……っ!?


「シ、[シン]! 今すぐ[托塔天王]から離れろおおおおお!」

『っ! はう!』


 俺の叫びを聞いた[シン]は、急停止をしてそのまま一気に飛び退いた。


『惜しい。あと少しでした』


 本当に、間一髪だった。

 あとちょっと遅れていたら、あの[神機軍師]の最大スキル、【石兵八陣】の餌食になっていたところだ……。


『ですが……ふふ、あなた達はよいコンビですね』

「当然だ! 俺と[シン]の絆を舐めるな!」

『はう! そのとおりなのです! [シン]のマスターはマスターしかあり得ないのです!』


 微笑みながら告げた[托塔天王]に向け、俺と[シン]は気勢を上げた。


 そうとも! 俺の相棒は、[シン]以外にあり得ないんだ!


『ふふ……ではその絆、本物かどうか試してみましょうか。【宝塔不壊ほうとうふかい】』

『「っ!?」』


 そう告げた瞬間、俺達と[托塔天王]との間に巨大な塔がそびえ立っただと!?


『さあ……この[托塔天王]の誇るこの攻撃、防げるでしょうか?』


 すると巨大な塔の各階にある窓から、一斉に大砲が向けられた。

 その数、百八門。


「は、はは……これじゃ、[豪天雷]のほうがまだ可愛げがあったな……」

『はう……』


 塔を見上げながら、背中に冷たいものを感じる。


『ふふ……いきますよ?』


 [托塔天王]が右手を構えた、その時。


『放てええええええええええッッッ!』


 号令と共に、百八門の大砲が一斉に火を吹いた。


「[シン]!」

『はうはうはうはう! 絶対に全部かわしきってみせるのです! 【神行法・跳】!』


 [シン]は俺に被害が出ないようにと、空中を蹴って一気に駆け上がっていく。


 そして。


『さあ……かかってこいなのですッッッ!』


 大砲……それを備える塔に向け、[シン]は咆哮した。

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