第278話 打ち上げの約束

『はう! 食らうのです!』

『グオオオオオオ……!?』


 “カタコンベ”領域エリアの攻略を始めてから一週間経ち、俺達のチームは地下第二十七階層までたどり着いた。


「このままのペースでいけば、明日には踏破できそうだなあ」


 [シン]がこの階層の幽鬼レブナント、“オークマミー”を倒したところをボーッと眺めながら、ポツリ、と呟く。

 だけど、この“カタコンベ”領域エリアって、特に何もないんだよなあ……。


 いや、『ガイスト×レブナント』のメインシナリオでは、“カタコンベ”領域エリアは二年の必修課題ってこと以外、あくまでも次の“天岩戸あまのいわと領域エリアまでのつなぎ・・・でしかない。


 だから、この領域エリアで手に入るアイテムなんかも、強くも弱くもない中途半端なモンしか手に入らないし、出てくる幽鬼レブナントもレベル四十前後の奴がほとんどな上に必ずマミー系統ときてる。正直、ミイラはもう飽きた。


 実際『攻略サイト』のコメント欄にもあったけど、『“カタコンベ”領域エリアの踏破はただの作業でしかない』、『せめてサブイベくらい用意しろよ!』って書き込みがすごい多かった。


 まあ、俺としては楽でいいけど。


 すると。


「チョット! 気を抜き過ぎなんじゃないノ!」


 オークマミーを[スヴァローグ]がハルバードで一刀両断にし、プラーミャが不機嫌そうに詰め寄ってきた。


「ホホ……じゃが、地下第一階層からここまで、ミイラの幽鬼レブナントばかりでは、気が滅入るのも頷けるの」


 扇で口元を隠しながら、土御門さんは優雅に微笑む。

 というか土御門さん、ナイスフォロー。


「さあ、この階層にはもう用はありません。先に進みましょう」

「「「はい!」」」


 氷室先輩に続き、俺達も地下第二十八階層への階段を下りる。


「……この階層を攻略したところで、今日は終わりですね」


 スマホ画面を眺めながら、氷室先輩がそう告げた。

 あ、もうそんな時間か。


「ホホ……明日でこのチームでの攻略は終わり、かの……」


 すると、土御門さんが少し寂しそうな表情でそう呟いた。


「そうネ……ヨーヘイ、この次はどうするノ?」

「んー……特に何も考えてないんだよなー……」


 一応、二周目特典の五つの領域エリアは既に三つ攻略済みで、残り二つについてはそこまで優先順位も高いわけじゃない。

 かといって、アレイスター学園内の領域エリアとなると、三年の必修課題である“天岩戸”領域エリアと、サブイベント用の領域エリアがちらほらある程度だ。


 そんなサブイベント用の領域エリアも、実は俺を含めたうちの八人には用意されていないから、意味ないんだよ……。


 だって考えてもみろよ。俺は二周目から仲間に選べるクソザコモブ・・・・・・だし、先輩は準ラスボス、サンドラも本来は二年生に進級してから登場するヒロインだから、今の時点・・・・ではない。


 立花は主人公だからメインもサブもないし、加隈は主要の仲間キャラなので立花と同じ。氷室先輩はパッケージには描かれていないことからも、扱いが悪い。


 プラーミャは名前しか登場しないキャラだし、土御門さんは“南山”領域エリアを攻略したばかりだからなあ……。


 ハア……二年生になったら、[シン]のも含め、次のサブイベントがあるんだけど。

 やっぱり、無難に二周目特典の領域エリア攻略にするかあ。


「とりあえず、どこか目ぼしい領域エリアがないか、ちょっと調べてみるよ」

「フフ……期待してるわヨ?」


 おっと、意外な言葉が返ってきた。


「いや、その『期待してる』って何だよ?」

「だっテ、ヨーヘイが連れて行ってくれる領域エリア幽鬼レブナントもこんなところより一段も二段も強いシ、それに何より、色んな属性の反射スキルが手に入るかラ」

「ああー……」


 まあ、こんな領域エリアなんかよりは、よっぽど有用ではある。

 でもそれは、俺が『攻略サイト』を知っているからそう言えるだけなんだけどな。


 そう……俺が他のみんなより優れているのは、この『攻略サイト』だけなんだ。

 だから、勘違い・・・だけはしないようにしないと。


「ま、そうはいってもこのチームでは初めての領域エリア踏破になるんだ。せっかくだから、明日はこの四人で打ち上げでもしようかと思うんだけど……氷室先輩、どうですか?」


 俺は[ポリアフ]の【スナイプ】で幽鬼レブナントを狩っている氷室先輩に尋ねる。


「明日……であれば、踏破した後に時間を作れると思います」

「よし! じゃあ決まりですね!」


 俺は口の端を持ち上げ、パシン、と拳で手のひらを叩いた。


「ホホ……なら、明日は気合いを入れねばのう?」

「フフ、だけど領域エリアボスは、このヤーがもらうわヨ!」


 こうして、地下第二十八階層の攻略を終えた俺達は、“カタコンベ”領域エリアを後にした。

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