第277話 決戦! オムライス対決! 後編

 最後に先輩のオムライスをよそい、これでノルマは達成、と。

 ただ、俺にはちょっと……いや、相当量が多いかも……。


『んふふー、マスターは欲張りさんなのです』

「お、だったら[シン]もシェアするか?」

『はう!? [シン]はアイス以外受け付けないのです! そもそも修羅場・・・はゴメンなのです!』


 コノヤロウ! 俺がそれに触れないようにしてたのに!

 そう……ここで一歩でも間違えたら、『ガイスト×レブナント』における日常パート最恐・・のイベントの一つ、『修羅場イベント』が勃発してしまう。


 これは、複数のヒロインと一定以上の好感度を稼いだ場合、その中の一人との恋愛イベントに他の好感度が高いヒロインが乱入することにより、ヒロイン同士によるいがみ合いの後、その怒りの矛先が全て主人公に向けられて、ヒロイン全員の好感度が大きく下がってしまうのだ……。


 まあ、『攻略サイト』のコメント欄には、そんな薄氷を踏むかのようなリスクを冒してでもハーレムを求めるプレイヤー達の魂の叫びがあったけど……お、俺はハーレムなんて求めてないからな!? ホントだぞ!?


 それよりも好感度が下がったことによって、先輩を救うために築き上げてきたこれまでが、全て崩れ落ちることが怖い……。


 そして、なにより先輩の好感度を失うことも……。


 だから……!


「はぐはぐはぐ!」


 俺はわき目もふらず、一心不乱に三人のオムライスを口の中にき込む。

 こ、この大量のオムライス、完食してみせる!


「ふふ……そんなにがっつくなんて、私のオムライスはそんなに美味しいかな?」

「先輩、何をおっしゃいますノ。ヨーヘイは、ワタクシのオムライスに感動してるんですのヨ?」

「まさか。望月さんは私のオムライスに夢中なんです」

「「「は?」」」


 えええええ!? 俺、修羅場イベを回避するために必死で食べてるのに、なんで風向きがソッチに行くの!?


『プークスクス、やっぱりマスターは修羅場不可避なのです。血の雨が降るのです』


 チクショウ! [シン]もほくそ笑んでないでマスターの俺を助けろよ!


「望月くん」

「ヨーヘイ」

「望月さん」

「ムグ!? は、はいい……?」


 三人が一斉に俺を見たので思わず喉を詰まらせ、おそるおそる尋ねてみると。


「「「誰のオムライスが一番美味しかったんだ!(ですノ!)(ですか!)」」」


 三人は眉根を寄せながら、ズイ、と身体をテーブルに乗り出して詰め寄った。

 というか三人共、領域エリアボスや“柱”なんて目じゃないほど、凶悪なんですけど。


 さ、さあ……この場面、どうやって切り抜けよう……。


 俺は視線を泳がせながら、まあまあ、と両手を前に出して三人をなだめようとしている、その時。


「おお! 金髪のお姉ちゃんのオムライスもイケルぞ!」

「赤い髪のお姉ちゃんのオムライスも美味しいよ!」

「ねー!」


 まるで示し合わせたかのように、少年、ニコちゃん、ミコちゃんが美味しそうにオムライスを頬張っていた。


「ほ、本当……か……?」

「「うん! お姉ちゃんにも負けないよ!」」


 ニコちゃんとミコちゃんの言葉に、先輩の表情は一変し、ぱああ、と満面の笑みを浮かべた。


「いやー、お姉ちゃん達も料理上手だなー!」

「フフフフフ! そうなんですのヨ!」


 サンドラもサンドラで、口元に手を添えて高らかに笑う。


「はは! 三人の言う通り、このオムライス三つ共、本当に美味いですよ!」


 俺はこの好機を逃すまいと、少年達に便乗してオムライスを褒めそやした。


「ふふ……望月くん、おかわりはたくさんあるぞ?」

「そうですワ!」

「遠慮なさらないでください」


 ヒイイ!? 俺にもっと食べろと!?


 その後、嬉しそうに俺の皿にオムライスを盛る三人に断り切れず、ただひたすら口に放り込んでは水で無理やり流し込んだ。


 く、苦しい……。


 ◇


「「「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」」」

「ご、ごちそうさまでした……」


 オムライスを綺麗に平らげ、みんな満足そうな表情を浮かべている。

 もちろん、俺以外。


 それよりも。


「しょ、少年……ニコちゃん、ミコちゃん……」

「に、兄ちゃん大丈夫……?」

「「大丈夫?」」

「お、おう……そんなことより、さっきは助かった……」


 そう言って、心配そうな表情で俺を見る三人にサムズアップをした。

 だって、この三人が気を利かせてオムライスを美味いって言ってくれたから、修羅場イベを回避できたんだからな……。


「……兄ちゃんも、大変なんだな……」

「「ねー……」」

「サ、サンキュー……」


 ここで力尽きた俺は、テーブルにそのまま突っ伏した。

 もう、一歩も動けない……。


 すると。


「おお、今日はお客さんが多いな」

「ええ、そうね」


 氷室先輩のご両親が、仕事を終えて帰ってきたみたいだ。

 ちゃ、ちゃんと挨拶をしないとな……。


 俺は苦しいお腹を押さえながら、無理やり身体を起こした。


「やあ、いらっしゃい」

「「「お邪魔してます」」」

『はう! お邪魔しますなのです!』


 にこやかに声を掛けた氷室先輩のお父さんに、俺達は揃って挨拶をした。


「あらあ、カズラのお友達がこんなに」


 そう言って、氷室先輩のお母さんが嬉しそうに微笑む。

 だけど、氷室先輩ってお母さん似なんだなあ…………………………特に胸が。


「はい、私の大切な後輩と」


 氷室先輩がチラリ、と俺とサンドラを見やり、そして。


「……大切なお友達・・・、なんです」


 氷室先輩は、先輩の手を取ってジッと見つめた。


「はい。氷室くんは私の最も大切な親友です」


 それに応えるかのように、先輩も氷室先輩を見てニコリ、と微笑む。


 ……二人の想いがすれ違って、お互いを見てほしくて、それでぶつかって、今の関係を手に入れたんだ。

 本当に、二人の想いが通じ合えて良かった……。


「ですが、私にとって最大のライバル・・・・・・・でもありますが」


 すると氷室先輩は表情を崩さずにそう告げた。


「ああ……そうだな……」


 先輩もその言葉が嬉しいんだろう。

 そっと目をつむると、口元を少し緩めながら静かに頷く。


「カズラ……いいお友達に巡り合えて、良かったわね」


 柔らかい表情のお母さんがそう告げると。


「はい!」


 氷室先輩は、今日一番の、咲き誇るような笑顔を見せてくれた。

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